内閣支持回復の要因は?原発運転60年超は?大規模金融緩和は?3月のNHK世論調査から分析する。
●内閣支持率
岸田内閣を「支持する」と答えた人は先月より5ポイント増えて41%。「支持しない」は1ポイント減って40%だった。支持の回復は2か月連続で、支持が不支持を上回ったのは去年8月以来だ。支持の回復の要因として考えられるのが、新年度予算案の年度内成立にめどをつけるなど、政権運営に安定感を一定程度取り戻しつつあること。さらには現在本格化している春闘で、大企業を中心に労働組合からの賃上げなどの要求に対し、早々に満額回答するケースもあった点も好感されているとみられるが、今後も支持上昇が続くかどうかは、必ずしも見通せない。というのも「支持する理由」として「他の内閣より良さそうだから」は47%と、消極的な支持が依然として目立つという点。また「支持する政党の内閣だから」が27%を占めていて、ご覧の通り各党の支持率を見ると自民党が野党各党に大きく差をつけていることにも助けられているとみられる。
一方で肝心の「政策」や「実行力」への期待や評価は一桁にとどまっている。
企業による賃上げの動きにもかかわらず政府の取り組みへの評価が分かれ、今後中小企業にまで波及するかも不透明な状況だ。また政府の少子化対策を56%の人が「期待せず」、必要な対策や効果をめぐって与党内や自民党内でも意見は様々だ。さらに防衛費増額について説明が「不十分だ」という人が、方針決定からおよそ3か月経った今も66%に上っている。
●原発・エネルギー政策
岸田政権が進める政策には国民の間で意見が分かれるものが少なくない点も内閣支持の行方を不透明なものにさせている。そのひとつが原発・エネルギー政策だ。
政府は原子力発電を最大限活用するため、最長60年とされている原発の運転期間を、実質的に延長できる法案を閣議決定した。そこでこの法案に賛成か反対か聞いたところ、「賛成」は37%、「反対」は42%と意見が分かれている。
政府は現在最長60年の運転期間の上限は維持しつつも、審査や裁判などで運転が止まった期間は原子炉の劣化は進まないとして除外し、その分60年を超えて運転できるようにしたい考えだ。また政府がこれまで「想定していない」としてきた 原発の新増設・建て替えについて、廃炉となった原発の敷地内で 次世代型原子炉の開発や建設を進める方針だ。 政府はエネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現を目指すためとしているが、法案を審査した原子力規制委員会で委員一人が反対した他、法案提出に向けてせかされて議論が進められたといった不満も漏れた。政府は、運転期間を延長することによるコスト、そして想定外の深刻な事故が起きることは本当にないのか、起きた場合の備えや体制は十分なのか。またエネルギーの安定供給を図るため原発をどう位置付け、再生可能エネルギーをどのような道筋でどこまで増やすのか。政策変更に至った理由や必要性を十分に説明することが重要だ。
●暮らし・経済
およそ10年続いたアベノミクス、その柱の一つである大規模な金融緩和政策も評価や今後のあり方についても議論になっている。
現在の金融緩和を続けるべきかどうか聞いたところ、「どちらともいえない」が54%と多数を占める一方、「続けるべき」は24%、「続ける必要はない」は11%にとどまった。「どちらともいえない」は与党支持層でも51%、無党派層では62%に上っている。この点について関係者の間でさえ見方が分かれ、黒田総裁が「成功だった」としているのに対し、前の白川総裁は物価上昇などの面では控えめな効果しか出ていないと指摘するような状況だ。
先週、次の日銀総裁として国会で承認された植田和男氏は、黒田総裁のもとでの大規模な金融緩和を「適切な手法だ」と評価し、継続する姿勢を示した。また2%の物価安定目標の実現を目指す今の日銀の路線を踏襲する考えも示している。ただ緩和後に、円高が是正され株高がもたらされたものの、2%目標は今も実現できていない一方で、急激に政策を変更すれば経済を悪化させかねない。植田次期総裁は「目標達成にはなお時間がかかる」としつつ、「私の使命は魔法のような特別な金融政策を考えて実行することではない」とも述べている。植田氏のもとで、どのような形で金融政策がすすめられ、成果を得られるかどうかは国民の暮らしや企業の経営のみならず、岸田首相の政権運営にも影響を与えそうだ。
●今後の政治・外交
今後の政治・外交を見ていくうえで重要なポイントのひとつは、4年に一度、地方自治体の長や議員を選ぶ4月の統一地方選挙、そして衆参5つの補欠選挙だ。
このうち地方議会は住民にとって最も身近な存在であるにもかかわらず女性議員の割合は全体で15%程度だ。こうした現状を「不十分だ」と考える人が37%、またそれ以上に目を引くのは「男女の割合は問題ではない」が51%と過半数に上っている点だ。政治の多様性を確保し、政策決定に様々な意見や立場を反映させるとともに、女性が政治に関わりやすい環境をいかに整えていくのか。当選者だけでなく立候補者に占める女性の比率にも関心を持ちたい。
そしてもうひとつのポイントが外交面、日韓関係の改善の行方だ。
太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国政府から解決策が示された。その中身は韓国の裁判で賠償が命じられた日本企業に代わって、韓国政府の傘下にある財団が支払いを行う、というものだ。解決策を受けて日本政府は今後、韓国政府の対応を見極めながら、5月のG7広島サミットに韓国を招待するかどうか最終判断する方針だ。ただ解決策を「評価する」は「大いに」「ある程度」あわせて53%だった一方で、「評価しない」も「あまり」「まったく」あわせて34%に上っている。国交正常化以来、最悪とされる今の日韓関係をいかに改善させていくのか。岸田首相の外交手腕がより問われることになりそうだ。
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