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ステルスマーケティング 法律で規制へ

今井 純子  解説委員

インターネットなどで、広告だということを隠す、いわゆる「ステルスマーケティング」が規制される見通しになりました。今井解説委員。

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Q)ステルスマーケティング。よく耳にしますが、どのようなものですか?
A)ステマと呼んだりもしますが、インターネットなどで、広告だということを隠して、巧妙に商品やサービスを宣伝する広告のことです。例えば、
▼ こちらのホテルの口コミ。星が最も高い評価で、「また行きたい!」というコメントが書かれています。
▼ こちらは、肌がきれいで有名なインフルエンサー(=影響力のある有名人のことです)が「おすすめ!」というコメントとともに、美容液の写真を投稿しています。
こうした投稿を、商品やサービスを選ぶ時の参考にしているという方もいらっしゃると思います。

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Q)私も参考にしていますが、それが広告なのですか?
A)もちろん、個人の純粋な感想も、たくさんあります。ただ、中には、例えば
▼ 企業が「最も高い星5つにみあう感想を投稿してくれたら、謝礼を払う」などと、口コミを募集しているケース。だとか、
▼ インフルエンサーに報酬を払って、「おすすめ!」と宣伝してほしいと、依頼しているケースが少なくないというのです。

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Q)企業がお金を払って、書いてもらっているケースがあるのですね。
A)はい。消費者が、口コミを信じて、宿泊したところ、サービスが悪くて、2度と泊まりたくないと思ったとか、肌がきれいになると信じて買ったら、なんの効果もなかった。そのようなこともあるのです。
消費者の中には、広告だとわかっていれば、ある程度は誇張があるだろうと、それなりに警戒してみるけれど、企業と関係のない第三者の正直な感想だと思うと、警戒心なく、信じてしまう。そういう方もいると思います。

Q)私は、信じていました。
A)実際、消費者庁が行った、広告代理店などへの聞き取り調査では、広告だということを隠すほうが、
▼ 「広告と明示されている広告より、売り上げが少なくとも20%程度は増加するという体感がある」とか
▼ 「大手の販売サイトで、一気に売り上げランキングで20位程度上がったり、売り上げが数倍程度になったりする」といった声が上がりました、
広告だとわかっていれば選ばなかった、という消費者もいて、その場合、ウソの情報でだまされたことになりますし、まじめな企業からみると、競争がゆがめられたことになります。

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Q)これまでは、違法ではなかったのですか?
A)例えば、やせる根拠がないのに、「飲むだけでダイエット効果!」など、「実際より著しく優れている」ように表示をした場合は、景品表示法という法律の「不当な表示」にあたり、違法です。ただ、これまでは、「また行きたいです!」とか「おすすめ!」といった表示だけでは、「著しく優れていると表示した」とは言えず、広告だということを隠すだけでは、違法ではありませんでした。ただ、こうしたステルスマーケティング。欧米では、多くの国が規制していて、昨年末に、消費者庁の有識者検討会が、「日本でも規制する必要がある」という報告書をまとめました。これを受け、消費者庁が、規制に踏み切ることにしたのです。

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Q)どう規制するのですか?
A)「広告なのに、消費者が、広告だと判別することが難しい表示」を、景品表示法の「不当な表示」に追加して禁止します。今年秋ごろまでには施行する方針です。要するに、「広告の場合」は「消費者が広告だとわかるように表示」しなさいということです。
規制の対象は、商品やサービスを提供している事業者で、違法と判断されれば、再発防止の措置命令が出され、従わない場合、刑事罰の対象にもなります。ポイントは、2点。
どういう場合、広告なのか。そして、わかりやすい表示とはどういう表示か。という点です。

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Q)まず、どういう場合、広告なのですか?
A)消費者庁は、「事業者が表示の内容の決定に関与した場合」、広告とみなすとしています。例えば、
▼ 事業者自ら、あるいは社員が第三者に成りすまして投稿する
▼ インフルエンサーに、商品を提供してSNSに「おすすめ!」と投稿するよう依頼して、実際投稿してもらった。
▼ 消費者に、報酬を渡して、高い評価の口コミを依頼して、投稿してもらった。
これは、「広告」にあたるという考えです。
一方、投稿した人が、「自主的な意思で書いた場合」は、広告には当たりません。

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Q)自主的な意思かどうかが大事なのですね。
A)はい。例えば、試供品とか、無料券をもらったりした場合。よいように紹介しないと申し訳ないと思うかもしれない。事業者もそれを期待しているかもしれない。でも、「こうコメントしてほしい」という依頼はなく、無視することもできる。その状態で、自分の正直な感想を書きこんだ場合、それは、広告には当たらないという考えです。ただ、
▼ 明らかな依頼や指示をしなくても、繰り返し、おかねや商品、イベント招待などの利益を提供し、この人なら、こう投稿してもらえるだろうと、わかる関係性ができていて、結果的に、その目的に沿った書き込みがされた場合、広告と判断される可能性がある。
▼ 「事業者が表示の内容の決定に関与した」(=広告)か、「第三者の自主的な意思による表示」か、最後は、消費者庁が総合的・客観的に判断する。ということです。

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Q)線引きが難しそうですね。
A)そうですね。抽象的にすることで、新たな手法にも柔軟に対応できるという面はありますが、判断が難しいケースも多くでてくるとみられます。どのように実効性を持たせていけるのか、今後の課題になってくると思います。

Q)広告の場合、「広告」と表示されていれば、問題ないのですね。
A)消費者が広告だとわかるように表示をすることが求められます。例えば、
▼ 「広告」とか「A社から商品の提供を受けて投稿しています」などと、わかりやすい場所、わかりやすい大きさで表示する。動画の場合、消費者が認識できる長さで表示することが求められます。

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Q)たくさんのハッシュタグが並べられているケースもありますよね。
A)広告の表示を、大量のハッシュタグの中に埋もれさせて、わかりにくくした場合、それは「禁止行為」に該当します。あくまでも、わかるように表示をする必要があります。
ただ、あの手この手を使って、広告ということを隠そうとする事業者が出てくることも考えられます。政府はぜひ、悪質なステマについては、積極的に措置命令などを出してほしいと思います。また、SNSなどのプラットフォーム事業者と協力して、違法な投稿を載せない、あるいは、削除していくといった取り組みも進めてほしいと思います。

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Q)消費者も、口コミなどを参考にする場合は、注意が必要ですね。
A)はい。口コミや有名人のSNSの中にも、企業から報酬をもらって宣伝している広告があるということを、頭の中に入れておくことが大事です。規制が施行された後は、「広告」だという表示がないか注意をすること。そして、表示がない場合でも、鵜呑みにせず、本当に第三者の純粋な感想か、いろいろな人の書き込みに目を通して、注意深く判断することが大事だと思います。
その上で、もうひとつ。書き込みをする側の消費者やインフルエンサー。今回の規制の対象にはなりませんが、報酬がもらえるという誘いにのって、自分の正直な感想とは違うことを投稿することは、読む人をだます行為です。違法行為に加担することになりますので、応じないようにしていただきたいと思います。

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規制をきっかけに、口コミなどの投稿が信頼できるものになっていくことを期待したいと思います。


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