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オゾン層回復中?気になる紫外線は?フロン規制と家電

土屋 敏之  解説委員

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◆国連の専門家組織の最新報告で、オゾン層が回復しつつあることが示された

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オゾンは酸素原子が3つ結びついた物質で、大気中の酸素から自然に少しずつ作られてもいます。高度10~50kmの上空にはオゾンが比較的多く含まれるいわゆる「オゾン層」 があり、太陽の有害な紫外線から私たちの命を守ってくれています。
ところが、人類が作り出した「フロン」と呼ばれる化学物質がこのオゾンを破壊する反応を引き起こし、今から40年ほど前、オゾン層が既に深刻な状態になっていることがわかってきました。
よく知られているのが「オゾンホール」です。これは1980年代に南極の上空でオゾンが特に減ってオゾン層にいわば大きな穴が開いたような状態になっていることが発見され、世界的に注目されました。さらに世界各地で既にオゾンが減っているとわかってきて、対策が進み出しました。
昔はよく“小麦色に焼けた肌”が健康的だと言われていたのが、紫外線によるがんのリスクなどが広く知られ、なるべく焼かないよう「UVケア」をするのが常識のようになってきたのもこの頃からです。

◆オゾン層破壊の原因となる「フロン」

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フロンは1928年にアメリカで開発されたフッ素などを含む化学物質で、エアコンや冷蔵庫の冷媒、スプレーのガスなどに世界中で使用されてきました。安定した性質で人体にも無害だとして当時は「夢の化学物質」とも呼ばれていましたが、実はそれがオゾン層を破壊し間接的に私たちの健康を脅かすものだったわけです。
1987年に「モントリオール議定書」という国際ルールができて、「特定フロン」と呼ばれる物質は世界的に生産などが規制され始めました。対策によって、フロン等の排出量は1990年頃から大幅に削減されてきました。

◆オゾン層は「回復傾向」だが・・・

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ただし地球規模の見たオゾンの量を見ると、1980年以降大幅に減ってしまったのが、対策にともなって下げ止まりはしたものの、その後はわずかに上向いていると言える程度の回復ペースです。
フロン類の寿命は種類によって数十年から千年もあるため、既に大気中に出てしまったフロンの影響は長く続くことなどが理由とされます。
最新報告は「オゾン層は回復軌道に乗っている」としつつも、それがオゾンホールが見つかる前の1980年のレベルまで回復するのは、世界の多くの地域で2040年頃まで、そして南極では2066年頃になると予測しており、まだ長い時間がかかります。

◆オゾン層の状態はどうやって調べる?

m230222_v1.jpg「オゾン観測用の気球」

m230222_v2.jpg「観測装置」

世界全体の状況は現在主に人工衛星の観測から見積もられますが、この他にも各国で高精度な観測が行われています。
日本では現在、つくば市にある気象庁高層気象台がオゾン層を継続的に観測しています。
ここでは週1回オゾンゾンデと呼ばれる気球を打ち上げて、高度3万5千mの成層圏まで高度別のオゾンの量を実際に測っています。直径1.8mの気球にオゾンと反応する薬品やそれを電気的に検出する装置をつり下げて放ちます。
気象観測用の気球は通常、ゴム製で一定の高度に達すると破裂して失われる仕組みで、また小さな破片もなるべく海に落ちる風向きの時に上げるようにしており、意図せずアメリカまで飛んでいったりはしないと言います。
また気球の他にも屋上にブリューワー分光光度計という観測装置が置かれ、常時観測を行っています。太陽の紫外線が地上にどれだけ届いているか、そしてそこから大気中のオゾンの量を算出する仕組みです。

◆オゾン層が回復したら紫外線対策もいずれ必要なくなる?

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気になる紫外線量については、対策が進むと共に南極などでは紫外線が減る傾向も見られています。ところが、つくば市での紫外線量を人体への影響も考慮して算出したもの(紅斑紫外線量)では、いまだ増加傾向です。日本だけではなく、先進国や人口の多い地域では紫外線量は今のところ増加傾向が続いています。これは近年排ガス規制などで大気汚染が改善したことで、言わば空気の透明度が増して地上に太陽光が届きやすくなった効果が大きいためだと考えられています。空気がきれいになったせいで有害な紫外線が増えるというのは皮肉なことですが、オゾン層の破壊が止められていなければ、さらに紫外線は強くなっていたとも考えられます。

◆フロン規制のもうひとつの重要な意義

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フロン規制には今やもうひとつの重要な意義=気候変動対策の面もあります。
フロンはオゾン層を破壊するだけでなく二酸化炭素の何百倍何千倍もの温室効果を持つ物質です。それも当初から規制対象になった「特定フロン」と呼ばれる物質だけでなく、それに替わって現在は多く使われている「代替フロン」と呼ばれる物質にも強い温室効果があるとわかってきました。
そこで、2016年にモントリオール議定書の改正が行われて代替フロンも規制対象になり、今後はオゾン層保護に加えて温暖化もなるべく起こさない「ノンフロン」などへの切り替えを進めることになりました。
こうした今後の対策も含めて、フロン規制はそれを行っていなかった場合に比べ、世界の気温上昇を0.5℃~1℃分抑えられると見積もられています。
いま既に世界の気温は産業革命前より1.1℃上昇しており、これを1.5℃までで食い止められるかが焦点になっている中、0.5℃~1℃というのは非常に大きな数字と言えます。

◆わたしたちにできることは?

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現在売られている家電の冷媒は既にオゾン層を破壊しないものに替わっています。さらに温暖化への影響も減らそうと開発している段階ですが、現状では私たちが家電を購入する際に特に意識して選ぶ点はないと言えます。いま使っているエアコンなどの冷媒を新たなガスに入れ替えることは大きな危険もありすすめられません。
大事なのは、エアコンや冷蔵庫を廃棄する時はフロン類を大気に放出せず適正に処理されるよう、無許可の業者に回収させるのでなく、家電リサイクル法に基づいて購入した電器店などに引き渡すことです。
そして、これから日ざしが強くなる時期、紫外線対策もしっかりしてほしいと思います。
オゾン層保護は、地球環境問題を国際ルールを作って各国が対策を進めた成功例だとよく言われますが、それでも回復にはまだ長い年月がかかるわけで、ひとたび地球環境を悪化させてしまうと後から回復させるのがいかに困難かも示しています。
これは気候変動や生物多様性など他の地球環境問題にも通じることで、だからこそ、まずこれ以上の悪化を食い止めることが重要だとあらためて考えさせられます。


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土屋 敏之  解説委員

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