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危険な製品 非純正品 ネット販売の事故を防ぐ対策は

今井 純子  解説委員

インターネットで販売されている身近な製品で、重大な事故が相次いでいることを受け、経済産業省が、事故を防ぐための対策の検討を始めました。今井解説委員。

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【ネットで販売されている製品の事故。どのような事故が起きているのですか?】
例えば、
▼ スマホなどを充電できる、モバイルバッテリーだとか、充電中のコードレス掃除機のリチウムイオン電池から火がでて、周辺が焼けた、という事故です。いずれも、国が義務付けている「安全基準」を満たしていることを示す「PSマーク」がついていない、つまり安全基準を満たしていない製品で事故が起きているケースが目立つということです。
▼ また、室内でのあぶり料理やキャンプの火おこしに使われる「ガストーチ」。使っていたら、突然、本体が炎に包まれ、手を放してしまい、周囲が焼けたといった事故。海外製の粗悪品で事故が多いということで、国内でも規制の検討が始まっています。
▼ さらに、マグネットボール。小さな磁石のボールが数百個でセットになっていて、いろいろな形に組み立てられる「知育玩具」として人気のおもちゃです。が、小さいこどもが飲み込んで、手術が必要になる事故が起きています。製造や販売が規制されている国もあり、日本でも、今年5月以降、規制されることになっていますが、まだ販売されています。

【怖いですね】
こうした重大な事故、海外の事業者から直接ネット通販で買ったという製品の事故が増えていると言います。消費者にとっては、ネットで世界中のものが買えるようになり、選択肢が広がった面はあるのですが・・・一方で、経済産業省は、
▼ 日本の安全基準を満たしていない製品が売られていたり、
▼ メーカーなどに義務付けられている、事故の報告がなかったりする。
▼ さらに、損害の賠償に向けた交渉が難しいケースもみられる。
こうした問題点を指摘しているのです。

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【いろいろな問題点があるのですね。まず、1つ目ですが、なぜ、海外から直接ネットで買うと、安全基準が守られていないケースがあるのですか?】
はい。先ほども触れた身近な製品についての安全基準の「PSマーク」。日本では、製造メーカー、そして、輸入品については、輸入事業者に対して、基準を守り、マークを表示することが義務付けられています。そして、販売事業者は、PSマークが表示されていない製品を売ることが禁止されています。ただ、海外の事業者の場合、強制力を持って守らせることが難しい。このため、日本の消費者が、基準を満たしていない製品を買うことができる状態になっていて、事故につながっているというのです。

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そして、問題点の2点目ですが、事故が起きても、国への報告がないケースが目立つという点です。

【国への報告は義務付けられているのですか?】
はい。国内で、生活に身近な製品で、死亡、あるいは全治1か月以上のけが、火災などを伴う「重大な事故」が起きた場合、安全基準があるなしにかかわらず、メーカー、そして、輸入事業者に対して、国(この場合消費者庁ですが)に報告するよう義務付ける制度があるのです。国はそれを公表して注意喚起をしたり、リコールや規制の強化といった、事故の再発防止策につなげたりする。そのための大事な仕組みです。ところが、海外事業者がネットで販売していた製品で、消防は把握していたけれど、事業者から国への報告がなかった火災が、今年度、少なくとも、100件程度あるということです。消防が出動しなかった、あるいは、火災以外の事故を含めると、もっと多いとみられます。

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【事故の情報が、再発防止につながらない心配がありますね】
防げたはずの被害がまた起きてしまう心配があるのです。その上で、問題の3点目。事故でケガをしたり、製品や周囲が焼けたりして、消費者が損害の賠償を求めようと思っても、ネットで直接買った場合、海外の事業者と外国語で直接やりとりをしなければならない。あるいは、事業者の名前や連絡先がわからず、泣き寝入りせざるをえない。というケースも多くあるというのです。

【消費者は、ネット上のショッピングモールから買うケースが多いですよね。そのモール事業者には、何らかの義務はないのですか?】
ショッピングモールの運営事業者は、販売事業者に場所を提供しているだけという位置づけなので、安全基準についても、事故の報告についても、規制の対象外になっています。
▼ 中には、事故の多い品目について、PSマークの表示がない場合、削除するよう出品者に依頼する。といった自主的な取り組みをしている事業者もありますが、チェックが追い付かず、限界もあるといいます。

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このため、経済産業省が先月、ネット時代にあわせた新たな対策について検討する有識者の会を立ち上げました

【どのような対策が考えられるのでしょうか】
経済産業省が、考え方のひとつとして示しているのがこちら。
▼ まず、海外の事業者が国内の消費者に、ネットを通じて直接販売する場合、日本国内に責任者を置くよう義務付けられないか。そうすれば、安全基準や事故の報告制度の義務を守ってもらう。そして、消費者が損害の賠償について交渉しやすくなることも期待できます。
▼ その上で、モール運営事業者に対しても、例えば、販売事業者が本当に国内に責任者を置いているか、などを確認する。とか、国の命令に基づいて危険な製品について出品を削除する、といった何らかの規制の仕組みをつくれないか。
▼ さらに、おもちゃやこども服などこども用の製品については、任意の規格ではなく、国内製、海外製を問わず、安全基準を満たしていない製品は販売できない「強制」の規格をつくれないか。こうした考えを示しています。

【どうなりそうでしょうか?】
検討会の委員の間からは、
▼ 安全にコストをかけていない海外の製品が安く売られている。国内のまじめな事業者が不利にならないよう、規制の強化が必要だ。
▼ 国の規制を厳しくした上で、それを守らせるには、モール運営事業者の協力が欠かせない、といった意見が相次いでいます。
一方、モール運営事業者からは、厳しい義務を課されることには慎重な意見もでています。
ただ、実効性のある対策をとるには、消費者と販売事業者とをつないで、そこで利益を得ているモール運営事業者の責任・協力は欠かせないと思います。被害を防ぐために、ぜひ踏み込んだ対策をまとめてほしいと思います。

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【規制が強化されるとしても、それまでの間、私たち消費者は、事故にあわないためには、どんな点に気を付けたらいいでしょうか?】
例えば、
▼ 製品のネット上の説明文をよく読んで、PSマークなど安全基準を満たしているか、確認する。
▼ コードレス掃除機などでは、本体とは別のメーカーが作っている、いわゆる「純正品でないバッテリー」を買ってつける方もいますが、それで火事が相次いでいます。ですから、純正品でないバッテリーを買う場合は、とりつける掃除機など本体のホームページに、注意喚起の情報がないか、確認する。
▼ また、販売事業者の連絡先がネット上に明記されているか。それが国内にあるか、の確認も必要です。
▼ そのうえで、事故などのトラブルが起きた場合、身近な消費生活センターに相談をしていただきたいと思います。全国共通188の番号から、身近なセンターにつながる仕組みになっています。

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【安いというだけで、買うのではなく、しっかり確認することが大事ですね】
はい、まずは、自分で自分の身を守ることが大事です。そのうえで、やはり、誰もが安心してネットで買い物ができるよう、国は、信頼できる対策の検討、とりまとめを急いでほしいと思います。


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