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相続登記 やってみた

清永 聡  解説委員

不動産の相続登記が来年(令和6年)4月から義務化されます。親などから引き継いだ土地や建物は、今の持ち主の登記が義務になります。
義務化が1年後に迫ったこの相続登記。清永解説委員が、1人でやってみたそうです。さて、どうだったのでしょうか。無事にできたのでしょうか。

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【1年後に相続登記は義務化で過料も】
Q:相続登記とはどういう手続きでしょうか。

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A:親が亡くなったりして土地や建物を引き継いだ人が「自分の名義に書き換える」ことです。住んでいてもいなくても、不動産を相続すれば登記が必要です。
この相続登記は来年4月から義務になり、3年以内に行わない場合、10万円以下の過料いわゆる制裁金の対象にもなります。

Q:どうして義務になったのでしょう。
A:所有者不明の不動産の発生を防ぐためです。
登記を怠ると、例えば空き家があっても、どこに連絡したらいいかすぐにはわからない。あるいは取り壊そうとしても権利が複雑で、全員の同意を得ることが難しくなります。このため義務化されたわけです。

Q:今回は清永さんが自分でやってみたわけですね。
A:実家にこんな感じの土地と建物があります。司法書士などに依頼してやってもらうこともできるのですが、数年前に自分で相続登記してみました。

Q:司法担当の解説委員だから、簡単でしょう。
A:とんでもない。数か月かかってへとへとになりました。今回は私の苦労した事例を通じて、相続登記の手順や注意点を伝えます。
あくまで私の例ですので、一般とは異なる部分があると思いますが、その点はご了承ください。

【①亡くなった人の書類】
Q:何を準備すればよいのでしょう。
A:必要な書類の一覧を作ってみました。法務省のハンドブックを元に日本司法書士会連合会に監修してもらいました。もちろんこれも一例で、事例によっては異なる場合もあります。参考にしてください。

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(相続登記の際の一例として作成したものです)

Q:それでもいっぱいありますね。目が回りそうです。
A:順番に見ていきましょう。まず、こちらの「亡くなった人や不動産に関する書類」です。

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亡くなった人の書類は、分かりやすく言うと「その人が生まれてから死亡するまでが分かる書類」です。法律上の相続人は誰なのかを明らかにするための書類です。私は、まずここでつまづきました。
Q:何があったんですか。
A:父は私が生まれる前の若い時、一度本籍を移し、しばらくしてもとの場所に戻っていました。ところが、私が生まれる前で、親戚に聞いても誰も覚えていません。自治体に問い合わせたところ、確かに一時的に別の自治体へ本籍を移していました。そうすると、そこからも書類をもらう必要があります。
Q:その自治体に行く必要があるのでしょうか。
A:郵便でも取り寄せることができます。しかし時間はかかります。

【②相続人の書類】
Q:そして、今度は「相続人の書類」ですね。

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A:こちらもたいへんでした。私の場合、父の遺言書はなく、兄弟姉妹は私を含めて3人で、実家の不動産は私が相続することになりました。
Q:つまり、1人で引き継ぐわけですね。
A:はい。ですので、私の場合は自分1人の書類でよいと思っていました。ところが、法律上相続人になる全員の戸籍と印鑑証明書が必要でした。相続人に連絡を取って、戸籍などを送ってもらう必要があります。
印鑑証明書はこの後の書類で使います。印鑑登録をしていない場合、まず登録から手続きをしてもらう必要がありました。これでまた、時間がかかりました。

【③自分で作成する書類も】
Q:そして「自分で作成する書類」などです。
A:こちらは私が作った遺産分割協議書です。遺産分割協議書というと物々しいですが、簡単に言えば「話し合って、私が不動産を相続します」という内容です。そして法律上の相続人全員の住所氏名と実印。ここで先ほどの印鑑証明書が必要になるんです。

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もう一つが相続関係説明図。これも私が作ったものです。亡くなった人と、相続人の関係を図で示したものです。
Q:こういう図を自分で作るんですね。大変そうですね。
A:自分で作る書類は法務局のホームページに書式があります。ダウンロードできますので、自分に合わせて作り直すことができます。
このほかに登記申請書という書類もあります。こうした書類を戸籍などと一緒に、不動産を管轄する法務局へ提出します。
ところが私はここで、またミスがありました。

Q:またですか。今度はどうしたんですか。
A:申請書に書く数字に間違いがあり、窓口で指摘されて、持ち帰って書き直すことにしました。
ところが法務局は平日しか空いていないので、もう一度平日に休みを取りなおして出直すことになりました。
あと、「登録免許税」という税金もかかります。この登録免許税の額は、不動産の価格によっても異なります。その金額の収入印紙を貼ります。
このように書類を準備したり、手続きをやり直したりしたため、結局、終わるまでには数か月かかったわけです。

【どういう場合は専門家に頼む?】
Q:本当に大変そうですね。
A:たいへんでした。自分の手続きは誰にも相談せずにやってみたのですが、今回この解説をするため、日本司法書士会連合会の副会長、里村美喜夫さんに、これから手続きする人に向けてアドバイスを聞いてきました。

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里村さんは「戸籍などを申請する自治体では窓口で『相続登記に使います』と言ってください」ということです。手続きに詳しい担当者が「この書類は取りましたか?」など必要な書類をサポートしてくれることもあります。
それから相続に関する窓口を設けている自治体もあります。そこも利用してください。

Q:どういう場合は専門家に頼んだ方が良いのでしょうか。
A:里村さんは「兄弟や姉妹などが多く、連絡を取っていない相続人がいる場合、それから名義が祖父母のままだったりして、登記が2代以上そのままだった場合は、専門家に任せた方が良い」ということでした。
例えば50年くらい放置されていると、法律上の相続人は、子供、孫と広がって時には数十人になり、個人では手に負えなくなってしまうのだそうです。

こうした状態を放置すれば「空き家問題」が発生する原因にもなります。
私の場合、幸い父が若い時に祖父から相続登記をしていました。このため法律上の相続人は少なくて済みました。
そう考えると私も自分の子どものために相続登記をやっておいて良かったと思いました。

それと、手続きがすべて終わると「登記識別情報通知証」という書類を受け取ります。
里村さんは、「これは権利書のようなものです。再発行ができません。次に売却などする場合には必要な書類ですので、絶対に紛失しないよう、他人に見られないように大事なところに保管してください」と呼びかけています。

【手続きの参考や相談は】
Q:あと1年で義務化ですが、何を参考にすればよいでしょうか。

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A:まず、法務省民事局が去年「登記申請手続きのご案内」というパンフレットを作りました。こちらは法務局ではなく「法務省」のホームページからダウンロードできますから参考にしてください。

それから全国に相続登記相談センターを作っているのが、日本司法書士会連合会です。
番号は0120-13-7832です。平日午前10時から午後4時まで、最寄りの司法書士会の相談予約窓口へつながります。センターへの電話は無料です。
このほか法務局や弁護士会なども手続き案内や相談への対応を行っています。

【相続登記は“ルーツたどる旅”】
Q:今回自分で相続登記をやってみて、どういうことを感じましたか。
A:苦労した一方で、戸籍を通じて私が生まれる前の親のことや祖父母のことなども分かりました。相続登記が「自分のルーツをたどる旅」でもあるのだということを実感しました。
一方で分かったのは、やはり1人でやるのはとても負担が重いということです。義務化までの間に、少しでも手続きを軽減できるようにしてほしいと思います。


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