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電子処方箋 運用開始へ 患者のメリットは?課題は?

牛田 正史  解説委員

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病院で診療を受けた後、薬を購入するために必要な「処方箋」。
その電子化が、1月下旬から始まります。
「電子処方箋」と呼ばれるこの新たな仕組み。
患者にはどんなメリットがあるのか、そして課題は何か。
牛田正史解説委員がお伝えします。

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これまでは、病院で診察を受けた後に、医師に処方箋を出してもらって、それを薬局に持っていくと、薬を購入できるという仕組みでした。
これが、電子化されます。
どういう事かと言いますと、病院と薬局がオンラインで結ばれます。
そうすると、処方の内容が全て画面に表示されるようになります。
つまり、紙の処方箋がなくても、薬を購入できるようになります。
全国共通の仕組みですので、必要なシステムを導入した所であれば、どこでも電子処方箋を利用することができます。

一方で、薬の内容を紙で確認できなくなるのかと、不安になる人がいるかもしれません。
電子処方箋を利用しても、病院ではこのような「控え」の紙が渡されます。
そこに処方の内容が詳しく書いてあります。
また、希望すれば、電子処方箋でなく、紙の処方箋を選ぶこともできます。
この電子処方箋の運用は、一部の医療機関や薬局で、1月26日から始まります。

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でも、患者にとっては、何か良いことがあるのでしょうか。
実は、いくつかあるんです。
まず何といっても今回の電子化で大きいのは、薬の処方データがすべて記録されていくという点にあります。
医師や薬剤師は、患者の同意があれば、システムにアクセスして、過去に処方された薬、あるいは他の医療機関で処方されている薬のデータを、確認することができます。
一方の紙の処方箋は、そこまでの情報は、書いてありませんでした。
このデータが、患者のメリットに繋がります。

例えば「薬の重複を防げる」という点があります。
患者の中には、いろんな病気を抱えて、複数の医療機関を受診している人もいます。
その場合、それぞれの病院で似たような薬が処方されるケースもあるんです。
今回のシステムでは、ほかの病院でどんな薬が出ているのか、画面で確認できますので、重複が無いかチェックできるわけです。

また、「飲み合わせの悪い薬を防げる」というメリットもあります。
薬には、併用すると体に深刻な影響を与えたり、効果が弱まったりする組み合わせがあります。
併用が禁止されている薬も少なくありません。
これを誤って出してしまう。そんなミスを、他の医療機関でどんな薬が出ているのかが分かれば、防ぐことができます。
さらに今回のシステムでは、この重複や併用禁止の処方を、自動的にチェックしてくれる機能も付いています。
医師がある薬が処方した時、実は直近に、それとは併用しない方が良い薬が、別の医療機関から出ていると、注意を呼び掛けるメッセージが出てきます。

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ちなみに、医師や薬剤師は、過去3年分の処方薬のデータを確認することが出来ます。
そして、患者自身も、「マイナポータル」というオンライン窓口にアクセスすると、過去およそ3か月分の自分の処方データを、パソコンやスマホで確認することが出来ます。

ただ、患者の中には、過去の病気や薬の内容まで、医師や薬剤師に知られたくないという人もいると思います
実は電子処方箋を利用する際は、その都度、個人の情報を提供して良いか確認があります。
そこで「同意しない」とすれば、医師や薬剤師に過去の情報を見られることはありません。
今回処方された薬の情報だけが、共有されます。

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さらに電子処方箋は、「オンライン診療」にも活用できます。
これまでのオンライン診療では、病院が薬局に、処方箋を送らなければなりませんでした。
電子処方箋なら、患者が病院から「引き換え番号」を聞き、それを薬局に伝えれば、情報が伝わります。つまり郵送の手間が省けるわけです。

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この電子処方箋は患者にもメリットがある仕組みですが、一方で「課題」もあります。
その1つが「マイナンバーカード」の普及です。
今回の電子処方箋を利用する時は、病院の窓口で、マイナンバーカードを使って、本人確認を行います。
これは、健康保険証として利用できる登録を済ませたカードです。

このカードを持っていないという人でも、従来の健康保険証を提示すれば、電子処方箋を出してもらうことは出来るんですが、実は制約もあるんです。
健康保険証は顔写真が無く、マイナンバーカードほど、本人確認のセキュリティーが高くないという理由で、過去や他の医療機関の処方内容まで、医師や薬剤師が確認することは出来ません。

だからこそ、マイナンバーカードの普及が重要になってくるんですが、これまでカードを申請した人は、1月上旬時点で、まだ人口の6割あまりとなっています。
国や自治体は、カードを持つメリットを丁寧に説明していく必要があります。

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そして、もう1つの課題は、医療機関や薬局での「システムの普及」です。
というのも、電子処方箋は1月26日から運用が始まりますが、すべての医療機関や薬局で利用できるわけではありません。
「オンライン資格確認」という専用のシステムを導入した所に限られます。

その割合は、12月の時点で、病院では52%、クリニックなどの診療所で28%、薬局では65%などなっています。全体では、約4割と、まだ半分以下です。
国は2年後の2025年3月までに、すべての医療機関や薬局で電子処方箋の運用を開始したいとしていますが、現場からは「システムを導入する、費用などの負担が大きい」という声も挙がっています。
ですので、整備を進めるための支援やサポートが、引き続き重要になってきます。
ちなみに、電子処方箋が利用できる場所は、今後、厚生労働省のホームページなどで公表される予定です。
ですので、どの病院や薬局で電子処方箋が利用できるか、あらかじめ確認することも大切です。

医療分野のデジタル化は、患者がより良い医療やケアを受けるために重要な取り組みとされ、今回の電子処方箋はその大きな一歩とも言えます。
とはいえ、システムの普及など、まだまだ課題はありますし、セキュリティーも万全にしなければなりません。
そうした点をクリアしていきながら、今後、適切な形で運用が広がって行くことを期待したいと思います。


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