1月のNHK世論調査で岸田内閣の支持率は過去最低に並んだ。内閣支持の低迷が続く中で今年の政治、なかでも衆院解散・総選挙と子ども政策などの行方を展望する。
【内閣支持】
1月の岸田内閣の支持率は、「支持する」は先月より3ポイント下がって33%、「支持しない」は1ポイント上がって45%だった。「支持する」は去年11月と並んで過去最も低く、4か月連続で不支持が支持を上回りその差は12ポイントに拡がった。
支持の低迷するのは政治への信頼を依然取り戻せていないことが大きい。旧統一教会や政治とカネの問題などで、2か月で4人の閣僚が辞任したことについて、岸田首相に任命責任が「ある」という人は「大いに」「ある程度」あわせて71%に上り、与党支持層でも69%が「ある」としている点が響いている。
一方でこれまでとは異なる兆しもうかがえる。というのは、「支持しない理由」に「政策」をあげた人が51%と先月より12ポイントも上昇した一方で、「実行力」は28%と7ポイント減少した点だ。去年暮れにかけて、岸田政権は安全保障政策を大きく転換し、原発政策も最長60年と定められている運転期間の延長を可能にすることや、これまで想定しないとしてきた廃炉を前提にした新型炉への建て替えを打ち出した。こうした相次ぐ重要政策の変更が、「実行力がない」という評価の改善につながった面もうかがえる一方で、「政策に期待できない」が大きく増加したことで一連の変更には国民の意見が分かれ、反対も根強いことがあらためて浮き彫りになった。野党側は「国会が閉会してから重要なことを次々に勝手に決めている」と反発しており、岸田首相が今後、自らの判断や政府の方針を丁寧に説明し、国民の理解を得られるかどうかが、内閣支持の行方を大きく左右しそうだ。
【少子化】
今年に入ってから子どもや若者政策をめぐる政治家の動きや発言が相次いでいる。去年生まれた子どもの数は統計開始以来最も少ない、80万人を下回る可能性があることがわかっている。
想定より8年早いペースで減少が進んでいることが社会にもたらす影響に危機感を「感じている」人は、「大いに」「ある程度」あわせて86%に上っていて、「大いに」はすべての年代を通じて50%から60%台と、危機感は世代を超えて共有されている。
年頭の会見で岸田首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べていて、子ども関連予算の倍増の大枠を6月の「骨太の方針」の策定までに示すとしている。そこで、子ども予算倍増の議論の進め方についてどう思うか聞いたところ、「適切だ」は24%、「遅すぎる」は46%、「予算を倍増する必要はない」は19%だった。
「異次元の対策」実現に向け岸田首相は6日、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめるよう小倉少子化相に指示した。対策の柱は児童手当を中心とした経済的支援の拡充、幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化だ。このうち児童手当は現在、中学生までを対象に1人につき月5000円から1万5000円が支給されているが、所得制限もある。今後の議論では所得制限の見直しに加え、支給対象の拡大や子どもの多い世帯における第2子以降の増額などが焦点となりそうだ。
ただ課題は財源の確保だ。児童手当の拡充だけでも「兆」の単位の財源が必要とみられ、個人や企業を問わず、新たな負担増の議論は避けられそうにない。岸田首相は8日、「給付と負担や社会保険のあり方など、きめ細かな財源を議論していく」と述べ、社会保険財政の活用にも含みを持たせている。また自民党内からは将来的な消費税率の引き上げも検討対象になるという指摘も出ている一方で、「拙速だ」といった慎重論もある。4月にこども家庭庁も発足し、少子化対策に国を挙げて取り組む機運はこれまでになく高まっている一方で、「予算を倍増する必要はない」という人が19%と個人の状況などで考えには温度差もうかがえる。それだけに、より良い制度の構築に向けた説得力ある議論が政府、与野党は求められている。
【防衛増税】
岸田政権は去年の暮れには安全保障政策も転換した。防衛力を抜本的に強化するための費用として政府は、防衛費の規模を今後5年間で43兆円程度とし、2027年度には関連予算とあわせて今のGDP・国内総生産の2%に相当する水準にすることを決めた。その財源を確保するため政府は増税を実施する方針だが、これに「賛成」は28%にとどまる一方で、「反対」は61%に上った。このうち与党支持層でも賛成は42%にとどまり、野党支持層や無党派層では反対が大多数を占めた。
防衛増税について岸田政権は「2024年以降の適切な時期」に毎年1兆円、所得税と法人税、たばこ税で賄うとしているが、実施時期の決定は景気への悪影響などを懸念する自民党内の反発もあって先送りされた。さらには増税を実施する前に、衆議院の解散・総選挙を行うべきだという意見も党内からは出ていて、今回の調査でも増税前に選挙を「行うべきだ」と答えた人は49%と半数近くに上るなど、政権運営の火種は残った形だ。
【今年の政治 衆院解散・総選挙の行方は】
今年は10月に衆議院議員の任期の折り返しを迎えるが、低迷する内閣支持とは対照的に、与党支持は野党各党に大きく差をつける状況が続いている。これを踏まえて、解散・総選挙に向けた戦略を岸田首相がどう描いていくかが今年の政治の焦点となる。
与野党ともにまずは、4月の2回の統一地方選挙、そして早ければ選挙後半の23日に行われる衆議院の補欠選挙に全力をあげつつ、5月のG7広島サミット後はいつ解散があってもおかしくないとみる関係者は少なくない。解散のタイミングについて岸田首相は「やるべきことをやりながら、適切な時期に国民の判断をいただきたい」としか述べていないが、増税前の選挙を求める世論の動向が今後どうなっていくか。また今回の調査からは岸田総理が経済界に協力を強く求める「賃上げ」や、「景気」の先行きに対する国民の見方は明るいとは言えないことがあらためて明らかになった。それだけに日本経済の今後の状況も首相の解散戦略を左右することになりそうだ。
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