NHK 解説委員室

これまでの解説記事

廃炉創造ロボコン "除染"に挑む"!

土屋 敏之  解説委員

◆福島県でちょっと変わったロボットの競技会「廃炉創造ロボコン」が行われた

m230106_01.jpg

m230106_12.jpg

「廃炉創造ロボコン」は東京電力・福島第一原子力発電所の事故後、3~40年かかるとされる廃炉を将来支えていく人材の育成を目的に始まって7回目になります。今回は全国から選ばれた12の高等専門学校の14チームが出場し、福島県にある廃炉技術の開発拠点、楢葉遠隔技術開発センターで開催されました。ロボコンと言うとNHKのロボットコンテストが長年行われていますが、こちらは別のもので、地元福島高専の先生が発案し、文部科学省のプログラムとして始まりました。

◆目的は福島の廃炉を支える人材の育成

ロボコンに出たロボットが直接福島第一原発で使われるということではありませんが、若い世代に関心を持ってもらうことが大きな狙いで、大会に先立って学生たちに呼びかけサマースクールが行われました。競技会場となる廃炉技術の開発拠点での研修に加え、福島第一原発の見学も行われました。学生たちは今も壊れた姿を留める原発建屋や廃炉に向けた作業を見て説明に聞き入ったりメモを取ったりしていました。
高等専門学校は基本的に中学卒業後の15歳から20歳まで専門教育を受ける学校なので、今回の学生たちは2011年の事故当時はまだ小学生ぐらいで出場を決めるまでは事故のこともよく知らなかった人が大半だと言います。福島の現状を学んでイメージが変わったという学生も多く、そこで感じたことをロボット作りにもいかしてもらおうというわけです。

◆ロボコン競技の内容

m230106_24.jpg

毎回、廃炉の技術的課題を競技用にアレンジしたものをテーマにしていて、今回は汚染された原発内の「除染」を模した競技です。
遠隔操作のロボットで障害物のある曲がりくねったコースを移動し、高さ2.7mの壁に貼られた紙のなるべく広い範囲にペンで色を塗ります。競技時間は10分です。
実際の除染作業では放射能で汚染された壁を削り取ったりしますが、競技なので代わりに色を塗ることで「どの範囲を“除染”したか」がわかりやすいようにしています。
実はこの課題は前回もほぼ同じでしたが、今回は障害物を増やしています。それがこの鉄製の格子で、排水口などに使うグレーチングというものです。一見それほど変わらないのではと思われがちですが、去年も参加した学生は「難易度が跳ね上がった」と嘆いていました。
さらに福島第一原発での作業を想定した厳しい条件があります。まず、放射線量が多い現場には人が入れないので、選手は現場も自分のロボットも目視できず、壁の向こうからロボットのカメラの映像だけ見て操作しなくてはなりません。さらに建屋内には電波が届かないとして有線、つまりケーブルを引っ張っていく必要があって、これもトラブルの元になります。

◆廃炉創造ロボコン 大会と結果

先月、企業関係者や地域の人たちも観覧する中で大会が行われました。
廃炉創造ロボコンは毎回、課題をクリア出来るのがほんの数チームしかない難しさですが、今回は特に各校苦戦していました。障害物を上れなかったり鉄格子にはまって降りられなくなったり、曲がりくねったコースの途中でケーブルがひっかかり動けなくなるロボットも続出しました。カメラの映像だけではトラブルの原因がわからず立ち往生するケースもありました。

m230106_31_2.jpg

そんな中でユニークなアイデアも数々見られました。旭川高専のロボットは、人が腕を振るような動きでケーブルがからまないようさばきながら進むアイデアを披露。舞鶴高専は、エアシリンダという仕組みを使い車体を一瞬で持ち上げて段差を乗り越える仕組み。10分間でかなりの範囲を塗ることに成功しました。特に高い完成度だったのが栃木県の小山高専。移動もスピーディーでしたが壁を塗る動きを自動化したことで圧倒的な速さを実現し、時間内に一度塗り終えた場所を塗り直す余裕まで見せてくれました。
最優秀賞は最も広範囲に色を塗る、つまり“除染”を行った小山高専が選ばれ、2年連続の最優秀賞となりました。このほか、優秀賞には舞鶴高専、アイデア賞に鶴岡高専、技術賞には大阪公立大学高専、そしてイノベーション賞には熊本高専が選ばれました。

◆廃炉創造ロボコンの意義は?

m230106_44.jpg

このロボコンは競技だけで終わりではありません。会場では競技後にロボットを展示して、来場した専門家や企業関係者などにアイデアや技術のプレゼンも行われました。大会に協賛しているのは実際に福島第一の廃炉にも携わる企業などで、このロボコンへの出場がきっかけになって、学生たちがその後、実際に原発内の調査用ロボットを企業と共同研究しているケースもあります。
また、大会後のアンケートでは回答した学生の半数以上が将来なんらかの形で廃炉に関わりたい、など関心があると答えているほか、これまでに出場した学生が卒業後、東京電力や原子力機構に就職したケースもあり人材育成という面での成果は出つつあります。
加えてこのロボコンの発案者である福島高専の鈴木茂和准教授は、福島の現状を若い世代に正しく理解してもらうことや、実際の社会的課題に挑むことで授業では学ぶことができないものづくりの難しさや楽しさを理解してもらうことも、このロボコンの意義だと言います。
直接廃炉に貢献する以外にもこのロボコンの意義はあると言えますが、一方で福島第一原発の廃炉の方は、溶け落ちた燃料デブリの取り出しを当初2021年に始める予定だったのが2度にわたって延期され今も目途が立っていないなど難航が続いています。
こうした中、ウクライナ侵攻によるエネルギー不足に対し、政府は原発の運転延長や建て替えなど「最大限活用」する新たな方針を打ち出しましたが、福島の事故の教訓はどういかされたのか?災害の多い日本で次の事故は確実に防げるのか?など若い世代に重い課題を託す前に考えるべきことは多いようにも思います。


この委員の記事一覧はこちら

土屋 敏之  解説委員

こちらもオススメ!