あけましておめでとうございます。きょうのタイトルはこちら。今井解説委員。
【今年こそ明るい年になってほしいと思うのですが、雲が多いですね】
去年は、コロナに加えて、ロシアのウクライナ侵攻や物価高など、予想もしていなかった事態が相次ぎました。不安の中、新年を迎えたという方も多いと思います。
2023年(つまり、今年)の景気について「悪くなる」と答えた人がおよそ45%と、一年前と比べて24ポイントあまり増えたというアンケート調査もあるのです。
【不安を感じている人が多いのですね】
はい。ただ、同じ調査の中では「不安を感じつつ一定の消費の意欲がある」人も多いことがわかる項目もあります。こちらは、去年、お金を実際にかけたもの。それに対して、右側は、今年、何にお金をかけたいか?という質問への答えの一部です。
▼ 今年お金をかけたい人が、最も多かったのが、旅行で、去年お金をかけたという人と比べると、11ポイント余り高くなっています。レジャーやイベントも、今年お金をかけたいという意向が高くなっています。一方、
▼ 今年、ふだんの食事にお金をかけたいという人は、去年お金をかけたという人より11ポイント低くなっています。また、貯金の意向が高くなっています。
物価が上がっているので、普段の生活は節約し、将来にも備えたい。ただ、新型コロナによる行動制限がなくなったので、外に出て、去年がまんしたことにお金は使いたい。という人が一定数いることがうかがえます。
【実際に景気の見通しはどうなのでしょうか】
OECDの今年の世界経済の見通しを見てみますと、日本は、プラスの1.8%と、去年より若干よくなる見通しになっています。
【アメリカやヨーロッパよりも、いいのですか?】
欧米の各国は、急激な利上げの影響で、景気が大きく減速する、あるいは、悪化するとみられています。中国も新型コロナの影響で、当面、先行きが不透明な状況です。一方、日本は、日銀が大規模な金融緩和を一部修正したとは言っても、まだ金利が低い状態です。アメリカが急激な景気後退に陥ったり、ウクライナ情勢が一段と悪化したり、といった深刻な事態が起きなければ、今年は、国内の消費がそこそこ景気を支えるのではないかという見方がでているのです。
【国内の消費ですか?】
はい、日本国内は、コロナからの回復が遅かった。だから、今年は、GDPの半分以上を占める消費がポイントになると見られています。なかでも、注目されているのは、「外国人旅行者」と「旅行や外食などのサービス業」です。実際、少し明るい動きはあります。
▼ まず、外国人旅行者ですが、去年の秋以降、政府が新型コロナの水際対策を大幅に緩和したことを受けて、日本を訪れる外国人旅行者は、11月に93万人あまりと、10月より2倍近くに増えました。円安で、買い物が割安になっていることも追い風となっているとみられ、デパートでは、免税品の販売が、前の年のおよそ5倍に増えました。
【旅行や外食はどうなのでしょうか?】
▼ 年末の23日から今月3日までの期間に1泊以上の旅行をした人は2100万人。前の年を17%近く上回ったとみられています。
▼ また、主な外食チェーンの売り上げも、去年11月は、一年前よりおよそ9%増え、コロナ感染拡大前の、2019年の同じ月と比べても、2か月連続で上回っています。
外食以外は、まだコロナ前と比べると低い水準ですが、今年、さらに回復することが期待されているのです。
【ただ、外出しての消費が増えても、普段の生活では節約をしたいという意向が強いと、それは心配ですね】
はい。ですので、私たちの暮らしを底上げして、消費を確かなものにするには、やはり、物価と賃金の動向が大きなカギを握ることになりそうです。
【大事ですね。ただ、値上げの動きは止まりませんね】
そうですね。年末に発表された、去年11月の消費者物価指数を見てみると、一年前より3.7%上がりました。ほぼ41年ぶりの高い水準でした。12月も4%前後に上がるとみられています。
【正月の値上がりを感じたものが多かったです。今年はどうなるのでしょうか?】
民間のエコノミスト36人の予測の平均を見てみると、今年1月から3月は、2.57%。その後、4月から6月はおよそ2.2%、7月から9月には1%台になる、という見通しとなっています。
【物価上昇の勢いは、弱まるかもしれないのですね】
はい。政府の経済対策で、電気代・都市ガス代への補助金が、2月の検針分から始まり、2月以降、物価を押し下げる効果が期待されています。また、足元、原油などの国際的な原材料の価格、それに円安の動きも、落ち着いてきています。
一方、まだ、仕入れコストや人件費が上がった分を、販売価格に転嫁できていない企業も多いので、食料品や鉄道の運賃など、今後も、値上げの動きは続くと見られますが、長期的には、物価上昇の勢いは穏やかになっていくと、みられているのです。
【それでも、物価は下がるわけではないのですね】
そうです。そこで、今年、大きな注目を集めているのが春闘。もし賃上げが、物価上昇を上回れば、生活は少しは楽になります。
【どうなりそうでしょうか?】
希望が見えないわけではありません。物価が上がっていることを受けて、組合側の連合は、今年、5%程度の高い賃上げを要求する方針です。これに対し、経営側の経団連も「物価上昇に負けない賃金引き上げは、経営側の責務だ」として、会員企業に、積極的な賃上げを呼びかける方針です。実際、例えば
▼ キヤノンが、今月から、国内外の従業員およそ2万5000人の基本給を一律7000円引き上げる事実上のベースアップを20年ぶりに実施して、通常の昇給とあわせると3.8%の賃上げに踏み切ったほか、
▼ サントリーホールディングスが、定期昇給分とベースアップを合わせて平均で6%程度、
▼ そして日本生命も、およそ5万人の営業職員について、平均7%程度、賃金を引き上げる方針を明らかにするなど、大企業の間からは、賃上げに前向きな動きが出てきています。
こうしたことから、経済の専門家の間からは、定昇とベースアップを含めた賃上げ率について「2.7%になるのではないか」「場合によっては3%台の可能性も」「大企業の一部では5%弱。多くの中小企業などでも、ベースアップで1%台半ばの賃上げが実現するのではないか」といった予測も出ています。去年の実績が2.2%ですので、去年は上回るという見通しです。
【期待したいですね】
ただ、もし実現したとしても、基本給の底上げにつながるベースアップは1%とか2%弱で、物価上昇を上回るのは、厳しいという見方もあります。それだけに大事なのは、賃上げを続けることです。ぜひ、今年、余裕のある企業は思い切った賃上げを実現して、社員の生活を少しでも楽にする。そして、消費におカネを回してもらい、経済の活性化につなげ、次の賃上げにつなげる。今年こそ、こうした前向きな経済の循環につなげるよう。
そして、くらしがよくなっているという実感を多くの人が持てるよう、前向きな対応を期待したいと思います。
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