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なぜ? どう考える? NISA拡充

今井 純子  解説委員

個人の投資家を対象にした優遇税制の「NISA」が大幅に拡充されることになりました。今井解説委員。

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【まず、NISAとは、どのような制度ですか?】
個人の投資を後押ししようと作られた制度です。ふつう、投資で儲けた利益には、税金が20%程度かかるので、10万円もうかったとしても、2万円程度ひかれてしまいます。それが、NISAは、税金がかかりませんので、まるまる受け取ることができます。これが最大の特徴です。今は、「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類があります。

【どう違うのですか?】
一般NISAは、個別の株式に投資することもできます。一方、つみたてNISAは、一定の投資信託だけが対象です。初めての人でも比較的安心して投資ができるようにと、作られた制度で、今回、政府・与党は、もっと多くの人に投資をしてもらおうと、このつみたてNISAを軸に拡充することにしました。

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【でも、投資は損をする可能性がありますよね】
そうですが、このつみたてNISAは、損をする心配をある程度低くしようと、「長期・分散・積み立て」という投資の原則に沿ってつくられています。

【長期・分散・積み立てですか?】
はい。上がった、下がったといって、すぐに売ったり買ったりするのではなく、投資信託のように性質の異なる商品に分けて、コツコツ買っていくという考えです。投資信託というのは、例えば、様々な国、様々な企業の株式や債券などを組み合わせた商品で、どこかの企業が倒産したり、どこかの国の景気が悪くなったりしても、他が支えてくれる可能性があるというものです。そして、つみたてNISAは、その中でも、長期の積み立て・分散投資に適していると、国がお墨付きを与えた投資信託に対象が限られています。
それを、自分が決めた金額で。金融機関によって違いますが、月100円とか月1000円で、コツコツ買って運用する仕組みです。手数料も安く抑えられています。

【リスクが低いと言っても、損をしないわけではないのですね】
損をする可能性はあります。ただ、1990年から、毎月1万円。日本の株価に連動する投資信託に、つみたてNISAと同じ考えで、こつこつ投資した場合どうなったかの試算を見てみますと・・・。
1990年は、株のバブルが崩壊した直後ですので、その後株価が長期的に下がった時期。そしてリーマンショックの後と、損がでていた時期もあります。そのような状況でも、長く続けていると、利益がでることも期待できる。そういう試算もあるのです。

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【長く続けることが大事なのですね。このNISAの制度がどう変わるのですか?】
「長期の投資が大事」と言っているのに「つみたてNISA」は、投資期限が2042年まで。非課税で保有できる期間も、最大20年と制約がありました。
そこで、再来年から「つみたて投資枠」という名前にして、恒久的な制度とし、非課税で保有できる期間も無期限とします。そして、
▼ 年間の投資限度額を40万円から、3倍の120万円に。
▼ 生涯で保有できる限度額も800万円から、1800万円に増やしました。
▼ そして、このうち1200万円までは、今の一般NISAから名前を変えた「成長投資枠」として、リスクは高くなりますが一般の株式を買うこともできるようにしました。

【すでにつみたてNISAをやっている場合はどうなるのですか?】
来年末までこれまで通り積み立てて、期限まで運用し続けることができます。そして、それとは別に、新たなつみたて投資枠を(別途契約が必要になりますが)上限額まで利用することができます。政府は、「資産所得倍増プラン」という構想を打ち出して、NISA全体の投資額を今の28兆円から今後5年間で56兆円と、倍増させる方針です。

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【損をする可能性があるのに、なぜ、国はそこまでして投資を促すのですか?】
2点挙げたいと思います。
1点目は、個人の資産を増やそうという考えです。日本では、家庭が持っている金融資産2000兆円のうち、半分以上を現金・預金が占めています。欧米と比べても、非常に多い割合ですが、今、超低金利で、銀行に預けていても、ほとんど増えません。
人生100年と言われる、これからの時代。特に、若い人たちが老後を過ごすには、年金だけではなかなか厳しい。だから、自ら投資をして、ある程度、資産を増やしてほしい。そんな狙いがあるとみられます。

【2点目は?】
経済の活性化につなげたいという考えです。銀行に預けたお金も、企業などへの融資に回りますが、預金は、元本保証です。銀行は、貸出先や使い道について、慎重に判断します。一方、投資が全体的に増えると、企業が有利な条件で資金を調達しやすくなります。思い切った事業の展開で成長につながり、経済が活性化するのではないか。また、投資をした人の運用益も増えて、消費が増え、それも経済の活性化につながるの。という考えもあるのです。

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【うまくいくのでしょうか?】
課題はあります。まず、これで投資が増えるのか、という点です。
投資をしないという人の理由を見てみると
▼ 「余裕資金がないから」が60%近くに達しているほか、
▼ 「資産運用に関する知識がないから」も40%を超えています。
いずれも、大事な点です。
まず、資金。投資は損をする可能性もありますので、やるのなら、生活に必要な資金や、教育費など使い道が決まっている資金ではなく、なくしても当面困らない「余裕資金」ですることが大事です。でも、そんな余裕がないという人も多いと思います。一方、NISAが大幅に拡充されたことで、多くの余裕資金を持っている富裕層が、さらに資産を増やし、格差が広がるのではないかとの指摘もでています。多くの人に投資をしよう!と言うのなら、まず、持続的に賃金が上がる世の中にしていくことが大事だと思います。

【投資の知識も大事ですね】
大事です。今年度から、高校で、金融経済教育が義務化されましたが、今の大人で、金融教育を受けたと認識している人は、7%に留まっています。国は、NISAの拡充とあわせて、
▼ 大学や企業などでも、投資がどういうものか学べる場を充実させていく。
▼ 顧客のニーズに応じて、中立的にアドバイスをする専門家を認定する制度をつくる。
こうした方針を打ち出しました。
ぜひ、若い人からお年寄りまで、投資について、身近に学べる場を作ってほしいと思います。

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そのうえでもう1つ。経済の活性化についても課題があります。個人の投資が増えたとしても、投資先として日本企業の魅力がないと、お金は成長が期待できる海外に向かうことになりかねません。経済の活性化につなげるためには、投資先として選ばれるよう企業の稼ぐ力を高めることも欠かせません。

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【私たちは、投資についてどう考えたらいいのでしょうか?】
損をする可能性はありますが、特に若い人は、それも含め、長い目で見た家計管理の選択肢の1つとして投資について学び、考えることが大事になってきているように思います。
ただ、人に勧められたからといって、理解しないまま投資をすることは、絶対に避けてください。SNSで知り合った人に誘われて、おカネをだまし取られる「詐欺的な被害」が相次いでいますし、FXとか、暗号資産とか、初心者向きではない値動きの激しい商品で、大きな損をする人もいます。
また、一定の年齢以上の人が、老後に必要な資金をまとめて、リスクの高い投資に回すのは危険もあります。

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持っている資産の状況や、投資の目的、リスクへの許容度などに沿って、投資をする、しないを含め1人1人が、考え、判断することが大事だと思います。


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