北海道から岩手県沖にかけての領域でマグニチュード7クラスの地震が起きたとき、国はその後の巨大地震の発生に注意を呼びかける情報を発表することになりました。きょう(12月16日)から運用が始まりましたが、もし情報が出たらどう受け止めたらよいのでしょうか。
【新情報はどういう情報か】
北海道南東沖から岩手県沖にかけての領域では、マグニチュード9、東日本大震災と同じくらいの巨大地震が想定されています。その領域でマグニチュード7以上の地震が起きた時、「もしかすると続いて巨大地震が起こるかも知れない」として注意を呼びかける情報です。
地震の規模としてはマグニチュード7は9の1000分の1くらいです。名称は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」です。
【想定されいる巨大地震】
巨大地震というのはどのような地震なのでしょうか。
想定されているのは「千島海溝」と「日本海溝」沿いの2つの地震です。
過去300年から400年の間隔で発生したと考えられていますが、前回からすでに400年程度が経過していることから政府の地震調査委員会は「発生が切迫している可能性が高い」としています。
国の中央防災会議は千島海溝沿いでマグニチュード9.3の巨大地震が起きた場合、北海道東部を中心に20メートルを超える津波が押し寄せ、死者は北海道から千葉県までで10万人に上り、8万4000棟が全壊すると推計しています。
また日本海溝沿いでマグニチュード9.1の巨大地震が起きた場合は北海道から千葉県までの沿岸で死者が19万9000人に達し、22万棟が全壊するとしています。
【新情報の呼びかけ内容】
これらの巨大地震の想定震源域のどこかでマグニチュード7以上の地震が起きたら、およそ2時間後に内閣府と気象庁が合同会見を開いて後発地震注意情報を発表します。
具体的には、「北海道根室沖から岩手県沖にかけての領域では大規模地震が発生する可能性が平時よりも相対的に高まっていると考えられる。今後1週間程度、平時よりも巨大地震発生に注意し、地震への備えを徹底してください」と呼びかけます。
対象の地域は北海道から千葉県にかけての7道県、182市町村です。
呼びかけの期間は1週間。後発地震が起こらず1週間たったら「特に注意をすべき期間は終了するが、大規模地震が発生する可能性がなくなったわけではないので備えが重要」と呼びかけることになっています。
【新情報がでたときの切迫性は】
「平時より、相対的に高まっている」というのは、どういう根拠があって、切迫性はどのくらいなのでしょうか?
国の中央防災会議が世界の地震データを調べたところ、マグニチュード7以上の地震が起きたあとに、マグニチュード7.8以上の巨大地震が起きたケースが100回に1回あることがわかりました。非常にまれと言えます。
ただ11年前の東日本大震災ではマグニチュード9の本震が起こる2日前にマグニチュード7.3の地震が起きたほか、1963年に択捉島の南でマグニチュード8.5の巨大地震が起こる18時間前にマグニチュード7の地震が起きた例があります。
千島海溝と日本海溝ではそうした例がありますが、世界のデータでは100回に1回。
情報が出ても巨大地震は起こらないケースが非常に多くなると考えられます。
中央防災会議のワーキンググループなどでもその点が議論になった。
情報を出しても巨大地震が起こらないことが多いと考えられ、それが繰り返されると、いわゆる「狼少年」になって住民が対応しなくなるではないか、ということが懸念されました。しかし、もし起これば最悪で死者20万人近くという被害の甚大さを考えた時、確率は低くても普段より発生可能性が高まっているという事実を伝え、注意を促すべきだという結論になったのです。
【情報が出たらどう行動したらよいのか】
では、情報が出たら住民はどう行動したらよいのでしょうか?
事前の避難は求められません。
1週間程度は、日常生活、社会経済活動は維持しつつ、普段から行っている地震への備えを確認したうえで、揺れを感じたらすぐに避難できる準備を徹底することが求められます。
国はガイドラインで行動の具体例を示しています。
家庭では
▼家具などの固定
▼避難場所、避難経路の確認
▼家族との安否の確認方法や集合場所の確認
▼水、食料、携帯トイレ、携帯ラジオなどの確認
▼防寒着や毛布など寒冷下での避難準備
また多くの人が出入りする施設や企業は
▼避難誘導の手順、情報伝達手段の再確認などを行う
▼津波や土砂災害のおそれのある場所での作業は控える、などです。
【南海トラフ地震 臨時情報(巨大地震警戒)との違い】
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」では事前避難は求められませんが、似た情報で南海トラフ地震では事前避難が求められるケースがあり、違いを知っておく必要があります。
南海トラフ地震の「臨時情報(巨大地震警戒)」という情報で、想定震源域の一部で巨大地震が発生したとき「残りの部分で巨大地震が続けて起こるかもしれない」として事前避難を求めます。
その根拠は過去の地震の起こり方にあります。南海トラフ地震は100年から150年の間隔で繰り返し発生していますが、2つのパターンがあります。
1707年のように東海沖から九州沖まで一度に地震が起きたケースがある一方、1854年や1940年代には東半分で巨大地震が起きて、2日後や2年後に残りの西半分で巨大地震が起きました。このように南海トラフではマグニチュード8クラスの巨大地震が連動したことがあるため「臨時情報(巨大地震警戒)」を出して、地震が起きてから避難を始めたのでは津波から逃げきれない地域の住民に事前避難を求めます。
ここは北海道・三陸沖と大きく違うところです。
【発表の頻度】
北海道・三陸沖後発地震注意情報は過去の地震データから見て2年に一度くらいの頻度で出されることが想定されています。
しばしば出されると考えられることから情報の意味を理解して冷静に対応する必要があります。情報が出て仮に巨大地震が起こらなかったとしても「空振り」と考えるのではなく、防災力を高める「素振り」と受け止め、地震・津波対策を習慣づけるきっかけにしてほしいと思います。
世界のデータではマグニチュード8クラスの巨大地震が起こる前にマグニチュード7以上が起きたのは100回に1回ですから、情報が出ずに巨大地震が突然、起こる可能性が高いということも認識しておく必要があります。
そうした情報の意味やとるべき行動を国や自治体は住民にていねいに説明を重ねてほしいと思います。
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