世界ではいま、紛争や災害によって、多くの人々が、命の危険にさらされ、支援を必要としています。そして、今、NHKと日本赤十字社の「海外たすけあい」が行われていますが、今年は、ロシアによるウクライナ侵攻やアフリカの食料危機に関連した支援にも力を入れる計画です。
出川展恒解説委員です。
Q1:
今年は、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、世界的な影響が広がっていますね。
A1:
はい。2月に始まったウクライナ侵攻ですが、終結や停戦に向かう兆しは全くなく、来年以降も続くことが確実です。これまでに、およそ790万人が戦火を逃れ、国外に避難し、およそ650万人が、ウクライナ国内で避難生活を送っていると見られます。つまり、1400万人以上が、生きるか死ぬかの過酷な生活を強いられています。加えて、世界的な食料危機、エネルギー価格や物価の高騰を引き起こし、測り知れない影響を拡げています。
今年の「海外たすけあい」は、戦争で住む家を追われ、避難民となった人々への支援に加えて、ウクライナ侵攻の影響で悪化するアフリカの食料危機で苦しむ人々への支援にも力を入れています。
Q2:
まず、避難民への支援としては、どのような取り組みが行われているのですか。
A2:
各国の赤十字社と赤新月社が協力し、避難民に支援物資を届けるための国際救援倉庫がつくられました。ウクライナ国内に5か所、周辺国に4か所です。これらの倉庫に、日本を含む各国から食料や毛布などの物資が届きます。ウクライナ西部のウジュホロド市には、22万を超える避難民が身を寄せており、支援物資が配布されています。
日本とフィンランドの赤十字社が仮設の診療所をつくり、病気やけがをした避難民に対し、無料で治療が行われています。子どもたちの心のケアを行うスペースも設けられ、戦火を逃れてきた子どもたちが、安心して遊べるようにしています。
(避難してきた女性)
「3歳の息子と、足を骨折した母を連れて、ここに避難してきました。赤十字の人たちが家族のように迎えてくれました」。
Q3:
戦火にさらされ、避難した人たちに対しては、こうした命を守るための速やかな支援が大切ですよね。
A3:
そう思います。日本赤十字社では、今年、日本円で50億円あまりの資金援助に加えて、薬剤師や放射線技師、こころのケア要員などをウクライナと周辺国に派遣していますが、来年以降も、得意としてきた保健医療の分野を中心にした支援を拡げてゆく計画だと説明しています。
そして、今、ウクライナでは、ロシアの攻撃で、発電所やエネルギー施設が破壊され、寒さが厳しい冬を越すのが難しくなっていると指摘されています。ゼレンスキー大統領は、およそ1200万人が電気を使えない状況だと訴えています。発電機を、緊急かつ大量に届けるといった支援が必要です。
Q4:
今年の「海外たすけあい」は、アフリカの食料危機への対応と支援にも力を入れるということでしたが、どういうことでしょうか。
A4:
ウクライナ侵攻が、アフリカの食料危機を引き起こしたというよりも、すでに起きていた食料危機を悪化させたので、これまでの支援を強化するというのが、より正確だと思います。つまり、アフリカの国々が、近年、干ばつや豪雨などの気象災害、コロナ禍による経済の停滞などで、食料危機に見舞われていたところに、ウクライナでの戦争が起きたため、主要な輸出国であるウクライナとロシアからの小麦やトウモロコシの供給が滞り、価格が高騰して、食料危機が極めて深刻になったということです。
また、ウクライナ情勢に世界の関心が集中するあまり、アフリカなどで起きている食料危機が忘れられているという面もあります。そこで、赤十字は、まず9月、食料不足に苦しむ国や地域に職員を派遣して、現状を詳しく調べました。今後、さまざまな支援計画を実行してゆく予定です。
Q5:
アフリカの食料危機、どんな現状なんですか。
A5:
赤十字によりますと、アフリカでは、日本の全人口を大きく上回るおよそ1億4600万人が深刻な食料不足に陥り、緊急の人道支援を必要としています。
とくに、ナイジェリアでは、この1年で36万人の子どもたちが、栄養失調に関連する病気で命を落としているということで、すでに、食料や現金の給付といった緊急の支援が始まっています。
これとは別に、日本赤十字社では、ルワンダ、ガンビア、マラウイと言った国々で、中長期的な視野に立った食料や農業の支援を継続しています。「海外たすけあい」に寄せられた義援金も、これにあてられてきました。
Q6:
具体的に、どんな支援をしているのでしょうか。
A6:
まず、ルワンダですが、アフリカ大陸の中ほどにある国で、人口は1200万人あまり、今から28年前、民族対立が原因で、80万人以上が虐殺の犠牲になるという悲劇を経験しました。
内戦終結後、首都キガリなどでは、「アフリカの奇跡」と呼ばれる目覚ましい経済発展を遂げる一方、国民の半数以上は、依然として、いわゆる「貧困ライン」以下の生活で、大きな格差が広がっています。
そこで、日本赤十字社では、3年前から、ルワンダの赤十字社と協力して、南部の貧しい5つの村で、地域の住民が、自活できるようにする取り組みを続けています。個人では畑を持つことができない貧しい農家のため、赤十字が土地を購入し、そこで、住民が共同で野菜や果物を栽培したり、家畜を育てたりして、食料を自ら生産し、現金収入を得られるようにするのです。
Q7:
ガンビアでの取り組みはどういうものですか。
A7:
西アフリカのガンビアでは、近年、気候変動の影響で、農作物の収穫量が半分に減っていたところに、今年、ウクライナ危機による食料と肥料の価格高騰が追い打ちをかけました。国民の栄養不足が深刻な問題となっています。
そこで、日本赤十字社では、野菜の生産量アップを目指す取り組みを支援しました。野生動物から野菜を守るためのフェンス、太陽光パネルを用いたポンプ式貯水槽などを設置する一方、村の女性たちに、農具の使い方や堆肥づくり、農作物の加工のしかたなどを教える研修を行い、成果を挙げているということです。
Q8:
最後にマラウイではどんな取り組みが行われていますか。
A8:
アフリカ南部のマラウイは、エイズウイルスの感染率が非常に高く、エイズで親を亡くした孤児が100万人もいるということです。
このため、現地と日本の赤十字社が、保育所を運営し、子どもたちに給食を支給しています。野菜などの材料を自給できるよう保育所の庭に菜園をつくり、大豆やトウモロコシの種と肥料を提供し、栽培や調理のしかたを保育士たちに教えています。
このように、一方的に物や金を贈るのではなく、地域の人々が自立するのを側面から支えることを大切にしているのです。
Q9:
「海外たすけあい」を通して、日本にいる私たちが、ウクライナやアフリカにいる人たちを支えることができるわけですね。
A9:
はい。私たち一般の市民が、ウクライナなど紛争地に入って、活動するのは危険です。ですから、赤十字などの機関やNGO、そして、地元の人々の取り組みを資金の面で支えることも大切だと思います。
それと、ウクライナ情勢に人々の関心が集まるあまり、アジア、中東、アフリカなどで起きている深刻な人道危機が忘れられがちになっていることに留意する必要があります。NHKと日本赤十字社の「海外たすけあい」は、これらの地域の人々への支援も、今まで通り続けます。
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