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高齢の方は注意 はしご・脚立の事故多発 はしご・脚立の安全な使い方をわかりやすく解説します

水野 倫之  解説委員

生活の様々な場面で利用され便利なはしごや脚立だが、転落して大けがをする事故が高齢の方を中心に多く起きているということで、注意が呼びかけられている。
水野倫之解説委員が解説。

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私も庭で脚立をよく使っているが、実は今回の取材で誤った使い方をしていたことがわかり、今後注意しようと思っていて、その点含めてこれから解説。

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まず画の左側が一般的なはしごで、2点で地面に接し、壁などに立てかけ、昇り降りする時に使う。
そして右側が一般的な脚立で、高さ80㎝以上のものをいうが4点で地面に接し昇り降りや作業に使う。
家の中では棚のモノの出し入れや電球の交換、また今の季節、外では庭木の剪定などに重宝するが、高齢の方中心に大けがをするケースが報告。
製品評価技術基盤機構によると、昨年度までの5年間、年代がわかっている事故110件のうち、60代が25%と最も多く、40%近くが60代以上の高齢の方の事故。
その事故の半数近くが骨折など重傷。
そもそも高齢になると身体機能が落ちてくるが、コロナ下の外出自粛で高齢の方の活動量がより減って、身体機能がさらに落ちている影響もあるのではないかと、製品機構ではみていて、今後も高齢の方の事故発生が懸念されるとして今回注意喚起をしているわけ。

製品の破損が原因といったケースは少なく、最も多いのは誤った使い方による事故。
まず、はしごの事故。

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福岡県で60代の男性が屋根の掃除をするために、雨どいに、はしごを立てかけて作業していたところ、はしごごと転倒してけがをしたケース。
調査の結果、やってはいけないことが4つ重なって起きたことがわかった。
①まず立てかける角度が浅かったこと、
②2つ目にはしごが安定しない傾いた場所で使ったこと。
③そして3つ目に乗ったまま作業をしたこと。
④さらに4つ目にはしごを支える補助者がいなかったこと。
事故の再現映像をみると上の窓が汚れているため、一人ではしごを準備し、浅い角度で立てかけたまま、窓を拭く作業をしてしばらくすると、はしごごと倒れてしまう。

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はしごを使う時の注意点。
①まず立てかける角度が適切でないと不安定になり、浅いと滑りやすく、また逆に深すぎると後ろに倒れる危険あり。

角度はこれまでの内外の研究の結果、75度が最も安定し、かつ昇りやすいことがわかっている。
でもいちいち分度器で測るのも大変だが何も自分で測る必要はない。
はしごの脇に角度を示すステッカーが貼ってあり、横のラインが水平に、また縦のラインが垂直になるように立てかければ、それが75度。

②次に段差や玉砂利など凹凸のある場所で使うと、不安定で倒れやすくなるので必ず平坦な場所で使うこと。
③また乗ったまま作業をすると振動が伝わって倒れやすくなる。
はしごは昇り降りだけに使う。乗ったまま作業をするものではない。
作業したい場合は、のちほど取り上げる脚立を使う。
④そして最後に必ずはしごを支える補助者をつける。
補助者ははしごを手で支えるのと同時に、足でも地面との接点を踏んで支える。

正しいはしごの使い方を示した映像をみると、まずは立てかけた際に角度のステッカーをチェックし、75度になっているかどうか確認。そして補助者に手と足で支えてもらいながら昇り、上では作業はしないように。

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次に脚立でも誤った使い方が最も多く、おととし兵庫県で起きた事故では、60代の男性が部屋の内装作業のため脚立を使用していたところ、転落し手首を骨折。
調査の結果、やってはいけない使い方をしていた。
脚立の天板をまたいで乗って作業をしていたため、バランスを崩して転落。
事故の再現映像みると部屋の照明を交換しようと、脚立に乗り、天板をまたいで作業を行ってしまうと脚立が不安定な状態となり……。バランスを崩して転倒。
また脚立から身を乗り出して作業するとやはりバランスを崩し転落しやすい。
脚立は昇ったり降りたりする面に対しては安定的だが、物理的に左右方向は不安定で倒れやすくなる。
さらにこうした一般的なタイプの脚立の場合、天板そのものに乗るのも不安定で危険。

脚立を使う時の注意点。
片側に乗って体の一部、すねなどを昇降面にくっつけて、安定姿勢をとって作業をする。
天板をまたいだり、天板に乗ってはいけない。
正しい使い方を示した映像をみるとまず脚立がきちんと開いてとめ具で固定されているかどうか確認。
そしてすねを昇降面にあてた状態で作業。

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またより安全に作業できる製品を選ぶのも対策となる。

それは上枠がついたタイプ。
上枠部分が手すりの役割をするので安定姿勢を保ちやすく、これであれば天板に乗って作業を行うことが可能。
またはしごの場合も、このように補助脚がついたものであれば、支柱を補助する働きがあるので安定感がアップ。

ここまではしご・脚立の使用上の注意点を見てきたが、ここで高齢の方が特に気を付けたいポイント。
はしごや脚立を使う場合は、多くが高所作業なので、
①まずは高齢の方は作業をせず、家族の中の若い方に作業してもらう。
②代われる人がおらず、どうしても作業する場合は一人では行わず、必ず補助者をつける。
③そしてできれば転倒対策され安定感のある補助脚付きのはしごや上枠付きの脚立を使うように。

はしごや脚立は単純な構造なので、取扱説明書や製品に貼ってある注意書きを読まずに使う人が多いということだが、この際しっかり読んで、安全に使うようにしてもらいたい。


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