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真夏の暑さ・熱中症 住まいの対策は

中村 幸司  解説委員

2022年の夏も厳しい暑さが続いています。そこで、「真夏の暑さ・熱中症 住まいの対策は」というテーマでお伝えします。

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Q:この暑さ、しばらく続きそうでしょうか?
A:はい。気象庁によると、向こう1か月の気温は、ほぼ全国的に、高くなるとみられています。
Q:暑さ対策、まだまだ大切になりますね。
A:はい。そこで今回は、、
▽部屋の向き、
▽建物の構造、
▽何階に住んでいるか、
といった住まいの面から、暑さ対策を考えてみたいと思います。

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まず、部屋の向きは、南向きか、西向きかということで、日差しが強い向きというと、南向きのイメージがあると思います。

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上の図は、東京の夏至に、南向きの窓が受ける日射量が、時間とともに、どう変わるかを示したものです。午前8時ころから日があたり始めて、昼ころがピーク、午後3時すぎまで日があたります。
東西南北を重ねると、下の図のようになります。

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Q:西向き、東向きも、南向きより受ける日射の量が多いのですね。どうして、西向きや東向きの日射量が、こんなに大きいのでしょうか?
A:真夏は、陽が高いですから、角度があって、南向きの窓には、あまり日射があたりません。

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これに対して、西向きの窓、東向きもですが、こちらにはやや低い角度になったところで、陽があたるので、日射量が多いのです。特に西向きは、気温が高くなった午後、強い陽があたるので、西向きの部屋は暑くなりやすいのです。
Q:こうした日差しを抑えるにはどうしたらいいのでしょうか?
A:ひとつは、ひさしです。

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ただ、上の図の角度をみてほしいのですが、南向きの窓ですと、うまく日差しを遮れるので有効ですが、西向きのひさしは、あまり効果がありません。

Q:日差しを遮るとなると、手軽にカーテンとか、ブラインドとかで遮るのでしょうか?
A:そうですが、ちょっと効率を考える必要があるんです。

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ガラス窓の内側にブラインドをおろして、太陽の光を遮った場合、日射量の51%=半分くらいが、室内に入ってきます。一方、ガラスの外側で遮ると、室内には18%しか入ってきません。内側だと、日差しは遮っていても、ブラインドと窓の間に、熱がこもるなどして、それが、室内に入ってきてしまうのです。

Q:では、対策はどうしたらいいのでしょうか?
A:ひとつは、「すだれ」や「よしず」を使って、遮るという方法です。

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この時、窓の外側の、こちらの地面も日差しを遮って、日陰にすることがひとつのポイントになります。
Q:どうしてですか?
A:温められた地面からの熱の放射が、室内に向かうのですが、これを低減できるからです。

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植物で遮るというのも方法です。ゴーヤーなどを栽培している住宅を見かけますが、植物を使うと、水分が蒸発するときに熱を奪ってくれるので、うまく育てば、効果が期待できます。

Q:戸建てだけでなく、マンションのベランダでも、よしずとか使った方がいいのでしょうか?
A:注意が必要だと思います。夏は、夕方、急に、雨や風が強くなることがあります。
風で飛ばされると危険な場合もあると思います。
よしずの他にも、窓の外側で日差しを遮る製品がありますから、そうしたものを検討するのも、ひとつの方法だと思います。

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次に構造です。建物が、木造か、鉄筋コンクリート造か。

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上の図は、7月の気温の変化です。これは、慶應義塾大学の伊香賀俊治教授からデータをお借りしてきました。
この時、冷房を使わずに、木造の戸建て住宅の室温がどう変化したかが緑の線です。これに対して、鉄筋コンクリートのマンションの室温はオレンジの線ようになりました。
Q:マンションはあまり変化がなくて、室温はずっと30度以上ですね。
A:はい。木造は、外気温の影響を受けやすく、1日の変化が比較的大きいのに対して、鉄筋コンクリートは、コンクリートに囲まれているので、室温が変化しにくいのです。日中の日差しでコンクリートが熱を蓄えたので、夜になっても室温が下がらないのが特徴です。

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熱中症対策として、室温を28度以下にするよう呼び掛けられていますが、特にマンションでは、夜も冷房を使わないと、危険な温度になってしまうことがわかります。
それと、寝るとき、冷房をタイマーにして、夜中に冷房が切れるようにしている方もいるかもしれません。

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上の図は、鉄筋コンクリートのマンションで午前1時に冷房のスイッチを入れて、タイマーで2時間後に切れるようにした場合の室温の変化です。
Q:タイマーが切れると、部屋の温度がすぐに上がっていますね。
A:24度台まで下げても、1時間しないうちに、28度を超えました。コンクリートが蓄えている熱は大きく、室温がすぐに上がることを知っておく必要があります。
Q:節電とか考えて、タイマーにしがちのひともいるかもしれませんが、注意した方がいいですね。

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次に、住んでいる部屋の階が最上階か、どうかです。

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上の図の赤い線は、マンションの最上階の室温です。
Q:先程のマンションの室内より、さらに温度が高いですね。
A:オレンジの線は、マンションの中間の階です。
最上階の上は、屋上です。屋上は、ずっと陽があたっているので、夏は非常に熱くなります。

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上の図は、マンションの天井を、表面温度が分かるように撮影したサーモグラフィーです。
上が最上階の天井、下は1階の天井です。
Q:結構違いますね。
A:表面の温度は、1階は28.6度、最上階は32.5度で、4度近くも違います。
ここに、一つデータがあります。

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上の図の右の円グラフは、熱中症患者のうち、入院=つまり、比較的症状の重かった人の割合を、住んでいる階の違いで分析したものです。最上階は、入院する割合を示す赤が、およそ90%と高かったということです。
Q:最上階は、室温が下がりにくいということを意識する必要がありますね。
A:特に熱中症の危険があるということで、冷房を躊躇なく使うことが大切です。

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上の図は、先ほどのグラフです。マンションのことを中心にみてきましたが、木造の戸建ての住宅も、よく見ると、夜、ほぼ28度を下回っていません。
Q:木造も油断できませんね。
A:木造住宅でも、夜、28度以下にならないことがあるということを理解して、冷房を使うようにしてほしいと思います。
室温の変化は、住んでいる地域や、天候、それと断熱材の使われ方などによっても違います。

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それぞれの住宅が、どちら向きなのか、どういった構造なのか、最上階なのかどうか、こういった状況を考えて、日中であっても夜であってであっても冷房が必要な時には使うことが大切です。

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暑い夏は、まだ続きます。高齢者が一人で暮らしている場合などは、家族や近所の人が、こうした点をチェックして、お年寄りが冷房をきちんと使っているかどうか、もう一度確認してほしいと思います。
あわせて、こまめな水分の取り方などができているかについても確認して、この夏、熱中症にならないようにして、過ごしてほしいと思います。

(中村 幸司 解説委員)


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