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ウクライナ避難民支援 日本でできること

二村 伸  解説委員

ロシアがウクライナに侵攻してからまもなく20日、ロシア軍は西部にも戦線を広げ、状況はさらに悪化しています。ロシアの侵攻によって家を追われた人たちに日本の私たちは何ができるでしょうか。

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●ウクライナから避難する人が増え続けていますね。

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数百万人が家を失い、国外に逃れた人は280万人をこえました。その6割以上の172万人がポーランドに入国した他、モルドバに33万人、ハンガリーに25万人あまりとなっています。国連は、今後人道支援を必要とする人が1200万人、難民の数も400万人に達する可能性があり、第二次世界大戦後のヨーロッパ最大の人道危機だとして国際社会に避難民の支援を求めています。ウクライナから逃げてきた人たちのほとんどが女性と子どもです。男性は祖国防衛のために残っているためです。こうした人たちのためにポーランドでは13か所に避難民受け入れの施設が設けられています。そこでは政府や国際機関、数多くのNGOが、水や食べ物、毛布や寝袋など当面必要な物資を提供しています。市民も食事や衣類を持ち寄り、避難民の移動を手伝うなど積極的に支援の手を差しのべています。
一方、ドイツの首都ベルリンでは、戦火のウクライナから逃れてきた人たちに大勢の市民が自宅の部屋の提供を申し出ています。ドイツは第二次世界大戦後、国が分断され東西両陣営の最前線となりました。ベルリンの壁が崩壊したときは西側の市民が東の市民を手厚く迎え入れました。今、「我が家に来てください」と申し出ている人たちは当時の西ベルリン市民と同じような心境ではないでしょうか。また、ウクライナはかつてナチス・ドイツとソビエト軍が戦火を交えた地で、多数の犠牲者が出ました。それだけに保護を求めて来た人たちを救わねばならないという意識が強いように思います。13日にはロシアの侵攻に反対するデモが全土で行われ、10万人の市民がウクライナへの連帯を表明しました。

●ヨーロッパではウクライナの人たちへの支援が活発ですが、日本の支援はどうなっているのでしょうか。

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日本も政府や企業、民間それぞれの分野でウクライナ支援の動きが活発になっています。
すでに日本のNGOもウクライナの周辺の国々で活動を初めています。「ピースウインズ・ジャパン」は支援体制が比較的脆弱なモルドバで、避難民への食料や毛布の配布を始めた他、現地のNGOを通じてウクライナ国内に医薬品を提供しています。

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NGO42団体からなる緊急人道支援の枠組みである「ジャパン・プラットフォーム」は、ウクライナ支援のための緊急プログラムを立ち上げました。国からの拠出金に加えて企業や市民から寄付を募り、20億円の予算規模を想定して食料や水・衛生、保健医療、教育などの支援を14の団体が行うことになっています。

●日本国内ではどのような支援が行われるのでしょうか。

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日本政府は緊急人道支援として1億ドルを拠出すると同時に、日本国内でもウクライナから避難してきた人たちの受け入れを始めました。日本には現在ウクライナ出身の人が1900人あまり暮らしており、日本への避難を希望する家族や知人には短期滞在のビザを発給し、入国後は就労も可能な1年間の在留資格を与える方針です。日本は難民の受け入れが先進国では極めて少なく、「難民に閉鎖的な国」と批判されてきただけに今回の人道的な貢献策を歓迎する声も聞かれます。

●どのくらいの数を受け入れるのでしょうか。
実はまったくわからないのです。先週末までに29人が来日しましたが、遠いウクライナや周辺国にいる家族や知人の意向を確認するのは難しいため、どれだけの人が日本に来るのか予測できないのが実情です。日本に来た人たちには日本語の学習が必要ですし、どんな仕事につけるのか、また学校はどうするのかなど受け入れのための準備を急ぐ必要があります。

●日本に来た人たちは住まいも必要ですよね。

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東京都は都営住宅100戸を確保し、最大で700戸までは対応可能だとしています。11日には電話の相談窓口が設けられ、4か国語で対応しています。
神奈川県など他の自治体も住宅を提供する方針です。
企業も住宅や雇用の機会の提供を表明しています。
ディスカウント店を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、避難民100世帯を受け入れ、住宅や生活に必要な資金を提供する他、雇用も検討しています。
箱根の富士屋ホテルは、雇用の機会を提供し住まいは従業員の寮をあてる方針です。
ほかにもホテルとマンスリーマンションを経営する企業が避難民用の宿泊施設の提供を発表。日清食品ホールディングスはウクライナの周辺国に避難した人たちへの食糧支援のために100万ドル、およそ1億1500万円を寄付するとともにカップ麺10万食の無償提供を始めるなど多数の企業が支援を申し出ています。

●私たち一人一人はどんなことができるでしょうか。

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まずはウクライナの人たちに連帯を表明することではないでしょうか。ツイッターなどSNSでウクライナの人たちを励ますメッセージは、厳しい環境に置かれている人たちを勇気づけています。また、国際機関やNGOは避難民の支援のための寄付を呼び掛けています。国連UNHCR協会のウクライナ緊急支援の呼びかけには、企業や個人などからかつてない数の寄付が寄せられているということです。各自治体にも募金箱が置かれています。

●現地に衣類や毛布などモノを送ることはできますか。

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避難してきた人たちに提供される緊急の物資は現地で調達しており、日本から送ってもNGOなどが現地で受け取るのは難しいため今はモノを直接送ることは避けてほしいということです。また、国連は避難後の移動が多いことや自ら必要なものを購入できるようにするために避難した人たちには現金が必要だとしています。日本政府がこれまで国際機関を通じて行ってきた支援では現金給付が認められていないため、現金の給付が可能となるような支援も求められています。

●ひと口に支援といっても課題も多いのですね。
地方自治体や地域社会の受け入れ態勢がどこまで整っているか再点検が必要です。住宅や就労、教育、保健など省庁や部局の垣根をこえた支援が必要であり、国と自治体、民間の連携も欠かせません。
また、世界ではシリアやアフガニスタン、ミャンマーなどから大勢の人が迫害や戦火を逃れて国外で保護を求めています。ウクライナだけでなくそうした人たちへの支援も忘れてはならないと思います。
もう一つ気がかりなのは、ロシアの人たちに対する誹謗中傷や嫌がらせが相次いでいることです。日本に住むロシア人のほとんどは戦争に反対しています。ロシア人だからという理由で非難するのではなく、一緒に戦争反対の声をあげていくことが重要だと思います。

日本にも近隣の国などから多数の人が逃げてくるような事態がいつ起きるともかぎりません。かつてはインドシナ難民が1万人以上来たことがあります。今回のウクライナ危機を教訓に人道支援、とりわけ避難民の受け入れ態勢を見直すことが必要ではないでしょうか。避難してきた人たちが置かれている状況を理解し、どのような支援ができるか、国だけにまかせるのではなく、自治体、企業、そして市民一人ひとり考えることがたいせつだと思います。

(二村 伸 解説委員)


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