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きょうからスタート! 電話リレーサービスってなに?

竹内 哲哉  解説委員

耳の聞こえない人などが電話を利用できるようになる「電話リレーサービス」の運用がきょうから始まります。

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【電話リレーサービスとは】
Q.どんなサービスなのでしょうか。

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A.耳の聞こえない人などがスマートフォンやタブレット、パソコンなどを使い、手話や文字を通訳するオペレーターを介して、聞こえる人と電話で会話ができるサービスです。

Q.同時通訳のように言葉をバトンのようにつないで伝える、だから「電話リレー」なんですね。
A.そうです。このサービス、法律に基づいた公共サービスで、総務省から指定を受けた提供機関の一般財団法人日本財団電話リレーサービスが担います。こうしたサービス、世界ではアメリカやドイツ、コロンビアやタイなど25か国で提供されています。

【仕組みは?】
Q.どういった仕組みになっているのでしょうか。
A.聞こえない人が聞こえる人に電話をかける場合でご紹介しましょう。

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まず専用アプリを立ち上げ、連絡したい人の電話番号を入力します。

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続いて手話か文字かの表示が出ますので、どちらかを選択します。

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手話を選ぶと、画面に手話を話せる通訳オペレーターが出てきます。
そして、通訳オペレーターが連絡先とつなぎ通話がスタートします。

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聞こえない人が手話でオペレーターに話すと、それを見ながら即座に声にして通話先に伝えます。

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聞こえる人が話すときには、その音声を聞きながら、手話にします。

【利用するためには?】
Q.アプリが必要なんですか?
A.聞こえない人は専用のアプリが必要なのでダウンロードして登録する必要があります。聞こえる人は、電話番号、聞こえない人が登録した時に割り振られる050から始まるものですが、その番号を知っていれば電話ができます。

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このサービス、文字、チャット形式を使った通話もできますので、手話が使えない聞こえない人や難聴の人、発話が難しい人なども使えます。

【サービス開始のきっかけは?】
Q.メールやチャットなど、電話に代わるものも出てきていますが、電話でなければならない場合もありますよね。
お店の出前とか最寄りのクリニックとか、電話でしか対応していないところもまだまだ多いですし、都市部と地方では環境整備には開きがあります。そうした日常生活での不便さを聞こえない人たちは長年抱えていたので、制度化への要望はずっとありました。

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制度化に向け前進するきっかけとなったのは2011年の東日本大震災です。日本財団が岩手、宮城、福島の聞こえない人たちにコミュニケーションの支援を行ったところ、最もニーズが高かったのが電話リレーサービスでした。
2013年には、全国を対象としたモデル事業へと発展しますが、この時は24時間使えない、警察や消防などへの緊急通報ができないなど限定的なものでした。

【命を守るために公共インフラとして整備】
Q.なぜ、限定的なサービスだったのでしょうか。
A.「民間」が行っていた「モデル事業」だったため、24時間オペレーターを手配するのが難しく、警察や消防に手話を誤って伝えてしまった場合に責任を負いきれないということがあったからです。しかし、そんななか、命が脅かされる遭難事故が相次ぎました。

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その一つ。2018年北アルプス・奥穂高岳で起きた3人組の聴覚障害者の遭難事故。警察や消防に直接電話ができなかった遭難者はこのサービスを頼ります。オペレーターはこの時ルールを超えて越えて、手話を通訳し警察に連絡します。結果、残念なことに1人は寒さで衰弱し亡くなりましたが、2人を助けることができました。
ほかにも、愛知県三河湾でのボート転覆事故や岩手県岩手山での滑落事故などが起きましたが、いずれも、オペレーターが対応し、全員の命を救うことができました。これらの事故により、改めてサービスの必要性が認識され、2020年に法制化。民間ではなく公共インフラとして整備されることになったんです。

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「みみよりポイント」。電話リレーサービスが国の制度となったことで
1.24時間365日使える。
2.警察や消防、海上保安庁への緊急通報ができる。
3.聞こえる人が聞こえない人にも電話ができる。

【緊急通報はもちろん日常でも欠かせない電話】
Q.警察や消防への緊急通報はこれまでは、どうしていたんでしょうか。
A.FAXとメールがおもでした。チャットで通報できるアプリも警察庁・警視庁、消防庁、海上保安庁はそれぞれ立ち上げていますが2017年以降。ごく最近です。

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もちろん日常生活でも電話が必要な場面はたくさんあります。例えば、病院やお店などへの予約や連絡。急な予定変更やキャンセルの相談ができます。仕事の相手先と相互のやり取り。宅配便や郵便の再配達。ドライバーに直接連絡ができるようになります。また家族や友人との連絡。恋人と話すのも、ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、ありかなしかで言えばありです。

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日本財団電話リレーサービスの上嶋太(かみじまふとし)さん、ご自身も耳が聞こえませんが、「電話が使えないと就職もできなかった。1人前ではないと言われている気分だった」とこれまでの辛さを話してくれました。

【課題①事業者の対応】
Q.当たり前に使えるものが使えるようになって、生活が便利になるのはいいことですよね。課題はありませんか。

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A.実はモデル事業を通して、電話リレーサービスを受け付けてくれない事業者があることが分かっています。調査を行ったNPO法人インフォメーションギャップバスターによると、電話窓口に連絡し本人確認を求められた際に、44%の人が本人でないことを理由に断られたことがあると回答しています。
どんな事業者かというと、クレジットカード会社、銀行や保険会社といったお金を扱う企業が上位を占めていました。セキュリティーに対して慎重になるのはよく分かります。
ただ、通訳オペレーターには守秘義務があり、違反した場合には損害賠償請求がされるといった罰則規定もあります。ですので、本人確認の方法など、それぞれの事業者が定める内規を電話リレーサービスに対応できるよう、早急に確立して欲しいと思います。

【課題②認知度向上 みんなで支えることへの理解】
Q.ほかはいかがでしょうか。
A.多くの人に知ってもらい理解してもらうことだと思います。このサービス、聞こえない人に向けたものと思いがちですが、聞こえる人も利用することがあります。また年齢を重ねて聞こえにくくなって使う可能性もあります。そういった意味では、みんなが使うサービスです。

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法律では制度を維持する仕組み、通話料は利用者負担ですが、通訳費用などはみんなで負担すると定められています。今年度は電話回線を持つすべての人が1つの電話番号につき7円払うことになっています。

【ハードだけでなくソフトのバリアフリーの整備のきっかけに】
Q.持続可能な制度とするためにも、みんなで支えるのは大事なことですね。このサービス、聞こえない人の利用には登録が必要ですので、詳しくはホームページをご覧いただければと思いますが、改めてサービスの開始、どう思われますか。
A.少し大げさかもしれませんが、私たちが当たり前に使っていた電話を、使えるようにしてこなかったというのは、聞こえない人の社会参加を妨げてきたといえると思います。それが取り除かれるのはとても大きいです。
バリアというととかく段差などのハード面に目を向けがちですが、電話リレーサービスが、情報やコミュニケーションの保障など目に見えないソフト面の整備にも力を注ぐきっかけになることを期待したいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)


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