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豪雪による立往生を防ぐには

松本 浩司  解説委員

先週の大雪で新潟県の関越自動車道では大規模な車の立ち往生が発生し、ドライバーが丸2日以上にわたって閉じ込められました。年末年始はさらに強い寒波が入る見込みです。
立ち往生を防ぐために何が必要なのでしょうか。

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【立ち往生の原因】
関越自動車道では記録的な大雪で16日水曜日の午後以降、大型車両などが動けなくなったのをきっかけに大渋滞が発生しました。最大で15キロわたって2100台の車が立ち往生し、解消したのは丸2日以上たった19日土曜日の早朝でした。冷え切った車内で、水も食料もなく、体調を崩して病院に運ばれる人も相次ぎました。

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Q)なぜ大規模な立ち往生になったのでしょうか?

A)まず記録的な豪雪だったことです。

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群馬県みなかみ町藤原では48時間の降雪量が199センチ。アメダスの観測点の降雪量の日本記録が書き換えられました。このほか立ち往生現場の新潟県湯沢町(M)でも144センチなど、5カ所でその地点の過去最大になりました。

立ち往生の原因、もうひとつは通行止めの判断が遅れたことです。

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上り線では16日の午後6時ごろ、湯沢インターチェンジの北で車が動けなくなったのが発端と見られます。その後、あちこちでチェーンをつけていない大型車がスリップで動けなくなって道を塞ぐなどして、夜にかけて渋滞が延びていきました。
道路を管理する東日本高速道路は夜遅くから通行止めを検討したが、見送りました。

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そして立ち往生は日付が変わるころには9キロ、その後、最大で15キロに達しました。
この区間を通行止めにしたのは翌日の午前10時過ぎでした。

【判断が遅れた理由】

Q)なぜ早く通行止めにしなかったのですか?

A)過去の経験が判断を遅らせた面があります。

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▼4年前の1月の大雪で同じ新潟県内の国道8号で「中越大渋滞」と言われる立ち往生が発生。解消に2日間を要しました。
▼おととしの2月には福井と石川にまたがる国道8号で1500台が立ち往生し、解消に3日近くかかりました。

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立ち往生が起きたのはいずれも国道で並行して高速道路が走っています。大雪で高速はいち早く通行止めにしたのですが、その結果、車が高速から国道に流れ込み、国道で大規模な立往生を引き起こしたのです。

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これを受けて大雪時の交通対策を話しあう国の検討会は「高速道路や国道の管理者が、自分が管理する道路だけを守るという考え方から、連携して道路ネットワークを守るよう考え方を転換すべき」と提言しました。

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そこで今回の大雪では高速道路会社と国道事務所は密に連絡を取って対応していました。
高速道路が通行止めの検討したのは16日深夜からと話しましたが、それより前、16日の夜の段階で平行して走る国道17号線は南魚沼市で上下5.5キロにわたって立ち往生が発生していました。

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高速道路側は、高速を通行止めにしてしまうと国道の立ち往生を拡大させると考えました。そして「高速はがんばって除雪すれば持ちこたえられる」と判断し、通行止めを見送ったのです。
国道は除雪をして5時間後に通行を再開できましたが、高速は渋滞の列が延び立ち往生が丸2日以上続くことになりました。

【立ち往生をどう防ぐのか】

Q)すごく難しい判断だったのですね。

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A)道路を管理する人は「できる限り通行を確保したい」、通行確保を使命と考えているので「止める」判断は難しいと言います。

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しかし大雪による立ち往生は毎年のように繰り返されています。
さきほどの2件のほかにも
▼2017年に米子自動車道と静岡県内の新東名高速道路
▼2年前に東京の首都高速道路でも起きました。
雪に閉じ込められると車の中で凍死したり、一酸化炭素中毒で死亡したりすることもあり、
立ち往生は命に関わる問題です。

Q)立ち往生が相次ぐというのは豪雪が増えているのでしょうか?

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A)それははっきりしませんが、注目される最新の研究成果があります。温暖化が進むと降雪量は全体としては減りますが、豪雪いわゆる「ドカ雪」が増えるというものです。冬でも日本海の海水温が高いので水蒸気が多くなり、そこへ寒気が流れ込むと豪雪になるからです。今回の大雪がまさにそうしたケースでした。

Q)そうすると今後も極端な大雪が起こるかも知れない。立ち往生をどう防いだらよいのでしょうか?

A)今回、高速と国道が連携して対処しましたが、防ぎきれませんでした。広域の豪雪が予想されたときには、もっと早い段階で、高速も国道も含めてその地域全体への車の流入を抑えるしかありません。

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2年前の立ち往生を受けた国の検討会も、
▼基準を設けて車の滞留が発生する前から予防的な通行止めを行うことや、
▼通行規制することをできるだけ早く予告して、空振りになることを恐れずに
ドライバーや運送事業者などに広域的な迂回をするよう働きかけるべきとしました。

ただ最大の問題はその基準をどうするかという点です。

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国土交通省と気象庁は大雪が予想される数日前に「大雪に対する緊急発表」という情報を出すことにしていて、それがひとつのトリガーとされています。しかし今回は発表されず、広域迂回の呼びかけもありませんでした。

Q)降雪の日本記録を更新する記録的豪雪だったのになぜ出されなかったのですか?

A)この情報は12時間先までの予想降雪量に着目していてその基準には達しなかったのです。しかし今回は12時間ではぎりぎり基準に達しないものの、強い雪が丸2日間ずっと
続いて過去にない降雪量になり、立ち往生を招きました。結果的に交通障害のリスクをうまく反映できていなかったと言えます。

これも含め、国はあらためて大雪に対する交通確保対策全体を検証する必要があります。

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ポイントになるのは、
▼早い段階で予防的な通行止めを行ったり、
広域的な迂回を呼びかける基準・目安をどうするのか。
▼今回、渋滞の状況把握が遅れたが、いち早く察知するにはどうしたらよいか
▼立ち往生のきっかけになることの多い、大型車のチェーン装着などの徹底
▼それでも立ち往生が発生してしまったときの救助・救援をどうするのかなど
踏み込んだ対策を立て直すことが求められます。

【ドライバーの注意点】
Q)ドライバーの側の注意点は?

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A)
▼大雪が予想されたときはその地域には行かないようにする
▼どうしても通行しなければならないときは冬用タイヤやチェーンを用意するのは言うまでもないこと。
▼さらにスコップや水、非常食、毛布、軍手、懐中電灯などの準備が不可欠です。

気象庁は今年の年末と年始は、先週を上回る寒気が入り日本海側を中心に平野部も大雪になり、平年の2倍の降雪量になると予想しています。備えを確認し十分に警戒をする必要があります。

(松本 浩司 解説委員)


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