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新型コロナウイルス 感染拡大のピークは過ぎた? 今後の注意点は?

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染は、緊急事態宣言が解除された後、再び広がりました。2020年8月から感染者の数は、減ってきている印象がありますが、感染のピークは過ぎたのか、これから注意すべき点は何なのか考えます。

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◇感染拡大のピークは過ぎたか?
ピークを過ぎたと、はっきり言えない状況です。

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まずは、国内の日付ごとの感染者の数の推移を見てみます。「緊急事態宣言」が解除された後、感染者は6月から再び増え始めました。国の専門家の会合では、9月2日の時点で「7月末ころに、ピークがあるように見える」と慎重な表現をしています。引き続き、感染拡大に警戒は必要だとしています。
ただ、専門家が評価した9月2日の後も減少傾向は続いていますので、ピークを過ぎたという見方は強まっているとは思います。
専門家が、慎重な表現をしているのには、人の移動が多かった可能性のあるお盆の頃の状況を分析するためのデータが十分そろっていないことなどがあります。ピークを越えたかどうかは、そうしたデータを見極めての判断になると思います。

◇なぜ2つ目の感染者の山は大きくなったのか?
PCR検査の件数が増えたということは、一つありますが、それだけではありません。

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6月の中頃、東京の比較的若い世代を中心に、感染が広がったことがあげられます。「接待を伴う飲食店」や、職場などの仲間との「会食」のとき、それに「家庭内」での感染が報告されています。
感染は全国に広がって、地方の2世代、3世代が一緒に暮らしている家庭など様々なところで若い人から、徐々に高齢者に広がったと指摘されています。

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現状で懸念されているのが、重症の人の状況です。
200人を超えたあたりで、高止まっているようにもみえます。重症の人は、感染者のピークから遅れて増えてくるとされています。今後、感染者だけでなく、重症者も減ってくるか、さらには、死亡する人も減ってくるかについても、注視する必要があります。

◇高齢者に感染を広げないことの重要性
下の図は、感染者と亡くなった人の年代別のデータです。

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1月から最初の感染のピークを過ぎた5月7日までの、感染が確認された人の数と死亡した人の数を年代別に示したものです。感染者は、20代以上は、各年代とも、概ね2000人前後で年代による極端な差はないですが、亡くなった人を年齢別に見ると、高齢者ほど多くなっています。

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次に、2つ目の山を含む9月2日までの状況(上の図)を見てみると、感染者は2つ目の山の感染の発端になった若い世代が圧倒的に多くなっています。一方で、亡くなった人は、変わらず高齢者が多くなっています。
新型コロナウイルスは、高齢者や持病のある人が重症化しやすいとされています。感染者にこれだけの差があっても、死亡する人の多くはお年寄りということになるのです。このウイルスに対してリスクが大きいお年寄りに集中してしまうということなのです。

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若い人たちは、感染しても自分の命にかかわるようなことにならないかもしれませんが、感染を広げてしまうと、巡り巡って、高齢者の感染につながってしまう恐れがあります。2つ目の山で感染が拡大する中で、このようにお年寄りが亡くなっているということを知っておく必要があると思います。感染対策は、すべての世代で進めないといけないということだと思います。

◇感染対策は?
感染対策に具体的にどのようなことが必要でしょうか。

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いわゆる「3密」を避けることと、手洗いやマスクなど、基本的な対策になります。
特に、強調されているのが、大声を出さないことと十分な換気を行うことです。新型コロナウイルスは、「接触感染」と「飛沫感染」が主とされていますが、1000分の5ミリ未満という非常に小さな飛沫「マイクロ飛沫」による感染に注意が必要です。
≪たいさく+マイクロ飛沫+大声と換気が赤くなるところまで≫
マイクロ飛沫は、大声を出したり、歌を歌ったりすると空気中をしばらく漂います。少し離れたところまで届くこともあるとされています。対策は簡単ではないと思います。

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国は、飲食店を支援する「Go Toイート」を始める予定です。専門家でつくる政府の分科会は、事業者には、徹底した換気などの対策を求めるとしているほか、消費者には少人数で利用することや、食事以外の時はマスクをつけて飛沫が飛ばないようにするなどの対策が必要だという考えを示しています。
経済を動かそうとすると、感染のリスクを伴うので、その分、対策をより徹底しないといけません。これまでとは違う生活様式も必要だということなのだと思います。

◇今後、求められることは?
いまの減少傾向を維持して、感染者数を低いレベルにまで下げることです。

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こうしないと、重症者、死亡する人を減らすことができず、医療機関への負担も大きくなっています。医療機関で最も避けなければならないのが「医療崩壊」ですが、そこまでの事態にならなくても、様々に影響は出てきています。
重症の人が減らないと、重症者用のベッドの確保が必要になります。病院は、他の病気の患者に使うベッドの数が少なくなるので、緊急でない手術の日程を遅らせたり、日常的な患者の受け入れも減らしたりというように制限をするケースも出てきます。日常の医療への影響も少なくないのです。
患者側からすると、感染が広がっていると病院に行くのを敬遠してしまいます。病気で治療や検査が必要なのに受けない人も出てきていると指摘されています。今後、いったん感染者を抑えても、5月から6月、7月のように再び感染が増加することは、今後も考えられます。これをいかに小さな山にとどめるかが重要です。

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私たちができること、それは「3密」などの感染対策は、もちろんですが、店を利用した時やイベントに参加した時、のちに感染者が確認されたときに備えて、主催者や店側から連絡先の確認を求められることがあります。もちろん個人情報の管理は、しっかり行ってもらうことが前提ですが、そうしたことに協力することも大切だと思います。
感染対策の必要性を理解して、新しい生活様式を取り入れていくことが大事になってきています。

国は、「Go Toトラベル」や「Go Toイート」など、いま落ち込んでいる経済の立て直し策を進めています。そうした政策を進める上で、感染が抑えられていることは前提条件だと思います。
2回の感染拡大の経験を生かして対策を進め、同時に次の感染拡大に備えることが大切になっています。

(中村 幸司 解説委員)


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