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「どんな影響? 新幹線の浸水対策」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

大雨による被害が、最近、相次いでいますが、2019年には、台風19号で新幹線の車両が水につかりました。この台風を教訓にした新幹線の浸水対策がまとまりました。この対策、新幹線を利用する私たちに影響するものなので、どんな影響なのか、見ていきたいと思います。

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◇台風19号と浸水被害
2019年10月の台風19号では、長野県の千曲川が氾濫して、北陸新幹線の長野新幹線車両センターがおよそ4メートル浸水しました。この浸水で、新幹線10編成が水につかりました。車両センターでは、列車の定期点検も行っていますが、点検を行う車庫も水に浸かってしまいました。北陸新幹線の運転が全線で再開されたのは、13日後でした。

◇新幹線の浸水対策
このため、国土交通省とJR各社が浸水対策を検討してきました。

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その結果、浸水の危険があるときには、車両を車両基地より高いところにある本線などに避難させるということになりました。

実は、過去に大規模に車両を避難させたことがあります。

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上の写真を見てください。東海道新幹線の開業3年後の1967年(昭和42年)、大阪の鳥飼車両基地です。光っているところが水で、一面、水びたしになっています。

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写真右の川から水が来てしまいました。この時、車両への浸水を心配した当時の国鉄の担当者が、高いところを通っている本線に避難させて、車両を守ったということです。
今後、こうしたことをしようというわけです。

◇全国の車両基地の浸水被害の危険性
長野車両センターのようなことが、他でも起こる恐れはあると考えておく必要があります。

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全国の新幹線には、車両基地など車両を留め置くところが、28か所あります。JR各社によりますと、このうち、想定される最大規模の雨、つまり概ね1000年に一度の大雨で浸水するとみられるところは、一部浸水も含めて上の図の青印の13か所あります。めったに降らない大雨を想定することになりますが、最近は記録的な雨が珍しくないので、これくらい考えておく必要があるのです。
このうち、50センチ以上浸水、つまり車両が浸かるくらいの深さまで浸水するところが、赤印の7か所です。
この7か所については、大雨で浸水の危険があるときは、車両を避難させることにしました。特に長野と鳥飼の車両基地は、浸水が10メートルないし5メートルに達する恐れがあると想定されています。

◇車両基地の立地
なぜ浸水する場所に車両基地があるのでしょうか。広くて平らな敷地ということで、川の近くが多いという背景があります。また、車両基地ができたあとに作られたハザードマップで浸水の危険が分かるケースもあります。

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たとえば、長野の車両基地です。これは、鉄道・運輸機構が作りましたが、過去の最大級の水害を考慮して2メートル盛り土して作られました。しかし、もっと浸水する危険があることがのちにつくられたハザードマップで分かりました。
車両基地を使いながら盛り土を高くすることはできませんし、新たに車両基地を作るのも難しいということで、そのまま使われています。

◇車両の避難の利用者への影響
車両の避難は、浸水対策には有効ですが、利用する私たちとしては運行に大きく影響する面があるというのが気になります。

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まず、車両の避難の手順を見てみます。
▽雨の予報や近くの川の水位の情報から浸水の恐れがあるとなれば、避難させるためのダイヤを編成したり、運転士などを手配したりと、準備を進めます。
▽基準に基づき、避難を判断、
▽車両を安全なところに避難させます。
避難先は、高架になっている本線や浸水の危険のない別の車両基地などです。本線では、駅に止める、やむを得なければ駅と駅の間に止めることもあるということです。
車両基地には、点検するための車庫もありますが、出入り口に止水板や土のうで水が入るのを防ぐなど、車庫の機能を守る対策も進めることになっています。

車両を逃がすには、どれくらい時間がかかりそうなのでしょうか。
避難の規模などによって大きく違うので、一概には言えないということですが、関係者に聞くと、台風のようにある程度予測できるときは、2日前ころに準備をはじめ、1日前に避難の判断、その後、避難させるといったようになるとみられるということです。
最近は、台風などの時に「計画運休」が行われるようになっています。計画運休の情報の中に、「新幹線を避難させることにしたので、いつから運行を取りやめる」といった内容が盛り込まれるようになると考えられます。
車両の避難は、台風に限らず、大雨で浸水の恐れがあるときに行われることがあります。

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車両を避難させると、運転再開の際に時間がかかる可能性があります。たとえば台風の時、通り過ぎると「台風一過」で比較的早く運転が再開されることがあります。しかし、車両を避難させていると、本来、車両がいるべき車両基地が“カラッポ”で、一方の本線には、車両が詰まっていて、逃がした車両を戻すなど、列車のやりくりが必要になります。つまり、平常ダイヤになるのに、相当の時間がかかるとみられているのです。

◇JR各社の準備と2020年の夏
影響を小さくするために準備が必要です。JR各社では、シミュレーションを行ったり、机上の訓練をしたりするなどして、準備を重ねています。また、実際に車両を動かして避難させる訓練も計画していると話しています。
ただ、すでに2020年の夏、車両を避難させたケースがありました。7月8日に、長野県や岐阜県で特別大雨警報が出されたときです。

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JR東日本は、川の水位や雨の量などが車両の避難に向けた一定の基準の達したことを知らせるシステムを新たに開発し、運用を始めています。7月8日の夜、システムが「翌9日の早朝に基準値を超える」というアラームを出しました。このため、長野車両センターに止めてあった2編成を、9日の未明に長野駅に避難させたということです。

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このときは、逃がす車両が少なく、鉄道の施設に被害がなかったため、運行に影響はありませんでしたが、多くの車両を避難させることになれば、影響は大きなものになったと考えられます。
最近は、大雨が多いですから、新幹線を避難させるケースが増えると考えておく必要がありそうです。

2019年の千曲川の氾濫のように、地域で災害が起きたとき、新幹線も被害を受けて運行できないということになると被災地の支援も遅れてしまいます。
新幹線の浸水対策は、始まったばかりという面もあります。JR各社、それに鉄道・運輸機構には、浸水に強い鉄道にする取り組みを一層進めてほしいと思います。

(中村 幸司 解説委員)

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