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「大学入試 受験機会の確保は?」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

テーマは、大学入試です。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大学入試がどうなるのか、不安な受験生は多いと思います。西川解説委員です。

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Q1.受験機会の確保は?ということですが、どうなるのですか?

A1.今年度の大学入試の日程は、大枠がようやく決まりました。結論から言うと、「日程はそのままにして受験生への最大限の配慮を大学側に求める」ということになりました。
実施のルールを定めた文部科学省の「大学入学者選抜実施要項」が、全国の大学や都道府県教育委員会に通知されたのは、6月19日でした。いつもは、5月末から6月初めに通知されていますから、今年は2週間以上遅れました。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国の高校が休校しました。感染状況が地域によって異なるため、休校期間に最大で2か月の差が出ることになりました。今でも分散登校が続く高校もあるため、学習の進捗状況の格差への配慮を求める声が高まっていました。特に高校側からは、入試全体を1か月程度後ろ倒しすることを求める動きもありました。

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Q2.結局、日程はそのままになったんですよね?

A2.一般入試の日程を見てみましょう。今回から、大学入試センター試験は、大学入学共通テストに変わります。すでに大学入試センターが示している通り、来年1月16、17日に行う日程はそのまま実施します。そして、2週間後の1月30、31日にもう一度本試験となる試験を別の問題を使って実施します。

Q3.共通テストを2度行うということですか?

A3.そういうことです。どちらか1回しか申し込むことはできませんが、1回目の共通テストを受けることになっていたものの、新型コロナウイルスに感染するなどの事情で受けられなかった受験生には追試験扱いで2回目の共通テストを受けることができるようにします。さらにその2週間後の2月13、14日にはもう1度追試験の日程を設けました。これまでの大学入試センター試験の場合、追試験は本試験の1週間後に設定され、会場も全国で2か所だけでした。今回は新型コロナウイルスの特性をみて、試験の間隔を2週間取ることにしたほか、感染状況が予想できないことから、2つの試験の会場はすべての都道府県に設置し、追試験の会場も状況次第で拡大することにしました。希望者が共通テストを受けられないという事態をなんとか避けようというわけです。

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Q4.大学側にはどんな配慮を求めたんですか?

A4.大学が個別に行う入試について、日程と出題範囲の2つで配慮を求めました。まずは、日程です。追試もしくは振り替えの受験日を必ず設定することを求めました。たとえば私立大学の場合、同じ学部でもペーパーテストのみのもののほか、共通テスト利用や小論文など複数の方式の試験を設定しているところがあります。通常、それぞれに志願しなければ受験できませんが、別の日程に振り返ることを認めるというわけです。
一方、出題範囲については、休校の長期化によって教科のすべてを学びきれなかった3年生に配慮して、たとえば数学Ⅲや物理、日本史などで複数の問題から選択できるようにすることや、「発展的な学習内容」から出題しないことなどを求めました。

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Q5.これで受験生は無事受験ができるようになりますか?

A5.実際に受験する高校3年生にしてみれば、入試日程がなかなか決まらなかったことで、勉強に集中できなかったという面もあり、ようやく本気で取り組めるという人も多いと思います。一方で、実効性には疑問の声もあります。特に共通テストです。本試験は2つの日程が設定されましたが、2つ目の日程は「学習が遅れた生徒が選ぶことができる」とされているため、すでに高校を卒業している浪人生は選べないことになっています。

Q6.学校によって学習進度が違うわけですから、学校単位で選べるかどうか決まるということですか?

A6.そこはまだ決まっていません。今回は、センター試験が共通テストに切り替わるという大きな節目です。受験生にとっては、出題傾向がどう変わるのかは大きな関心事です。それを見極めようと、2つ目の日程に志願が集中するような事態が起きないか。その場合、学習の遅れはないと判断してそれを認めないということになれば混乱しますので、基準を決めておかなければなりません。
一方で共通テストが3段構えとなったことで、大学入試全体のスケジュールがかなり窮屈なものとなりました。2つ目の日程や追試を受けるとなると関西地方の主要私立大学の入試が直後に迫ったり、場合によっては始まっていたりすることになりますし、2次試験の出願までの期日が迫ることになり、じっくり検討する時間がないという事態になります。受験生にしてみれば受験できる大学の選択の幅が狭まる可能性があり、高校の進路指導にも大きな影響が出ることになります。

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さらに感染予防という観点からみて、十分な対策が可能なのかという課題があります。共通テストは50万人が受験します。2つの日程に分散するとしても、相当数の受験生がいる中で、感染のリスクが高いいわゆる3密を避けた会場設定ができるのか。真冬の時期に、十分な換気をすると言っても、特に雪国の会場では限界があります。
そもそも共通テストの実施時期に感染の第2波、第3波が起きた場合はどう対処するのか。具体的に考えれば考えるほど課題は山積しています。

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Q7.大学の個別試験はどうなるのでしょう?

A7.具体的にはこれからですが、大学側はすでに入試問題の作成が佳境を迎える時期なだけに、厳しい対応を迫られた形です。ある私立大学の関係者からは、今から問題を作り替えることは難しいとか、試験の日程の変更や追試験の会場を確保することはできないのではないかと言った声も聞かれます。確かに私立大学の場合は、試験会場を各地に設置する「地方試験」もあって、対応はより複雑になります。追試をする場合も難易度が同じ2種類の問題をつくることができるのかという公平性に関わる問題も指摘されています。一方で、大学にとって、受験生の受験機会を確保できなければ、自らが望む学生を集めることはできません。入試は各大学がどのような学生を求めているのかを示すアドミッションポリシーに基づいて大学の責任で実施するのが原則です。大学には責務をしっかり果たして欲しいと思います。

Q8.決まってないことも多いことを考えると文部科学省の対応もまだまだ必要になりますね?

A8.文部科学省には、実施要項を示したから、あとの責任は大学入試センターと各大学に丸投げということにならないよう釘を刺しておきたいと思います。

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今の高校3年生は、共通テストでいったん決まった国語と数学の記述式試験や英語の民間検定試験の導入が見送られるなど、国の政策に振り回される形で不安定な状況に置かれてきました。そして今、また新型コロナウイルスの感染拡大という新たな不安材料が積み重なる状況です。受験生が安心して進学に向けた準備に専念できるよう、あらゆる事態を想定し、2重3重の備えをしておくことは、文部科学省の責務です。

(西川 龍一 解説委員)

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