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まもなく面接解禁 どうなる?就職活動

今井 純子  解説委員

今年の大学生の就職活動。コロナウイルスの感染拡大で、様々な影響が広がっています。今井解説委員。

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【まもなく面接解禁ですか?】
はい。政府が要請しているスケジュールでは、3月から企業の説明会、そして、エントリーシート(応募)の提出が始まり、6月から面接・内定が解禁されます。去年まで、経団連が加盟企業に示していた指針と同じスケジュールです。が、今年は、新型コロナウイルスの感染拡大で、様々な影響がでてきています。

【どのような影響ですか?】
まずは、説明会が始まる直前のタイミングで、感染が国内に広がり始めました。大手就職情報サイトが全国で開く予定だった合同企業説明会、そして、各地の大学で、その大学の学生向けに企業が開く説明会も、相次いで中止となりました。

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それでも、いずれかの企業から内定、あるいは、内々定をもらっていると答えた学生の推移を見ると・・4月1日までは去年を上回るペースでした。

【なぜですか?】
もともとは、今年も学生側の売り手市場でした。IT系や外資系など、これまで経団連のルールに縛られず選考活動をしてきた企業が、今年も早めに内定を出したこと。そして、経団連に加盟している企業も、去年の夏などにインターンシップに参加した学生を対象に、「早期の選考会」「面談」などと称して、早めに面接をして内定を出したこと。こうしたことが背景にあるとみられます。ウイルス感染に配慮して、少人数、あるいは1対1での面接をしていたところもあったと言います。
ところが、今月1日の内定率を見ると・・去年を下回りました。4月に入って明らかにペースが落ちています。このまま、失速して、内定がもらえないままの学生が増えるのではないかと心配する声があがっているのです。

【なぜ内定のペースが落ちたのですか?】
専門家は「オンライン化の影響」。そして、「採用活動の中断」。二つの理由が考えられるとしています。

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まず、オンライン化の影響です。4月7日に東京などに緊急事態宣言が出された後、企業は、学生と直接会うことを控え、オンラインでの活動に切り替えました。
こちらは、学生に対して4月に「どのような活動をしたか」を尋ねたアンケートの結果です。
▼ 個別企業のWEB上での説明会に参加した
▼ WEB上での面接を受けたが、去年より大きく増えました。

【4月も、オンライン上では、就職活動は続いていたのですね】
そうなのです。企業側は、オンラインでも会社について知ってもらおうと、動画のコンテンツを充実させたほか、質問の時間を付けた座談会やオンラインでのOB・OG訪問など、双方向でやりとりできる機会を増やしました。そして、事実上の面接をオンラインで行う企業もありました。面接官も在宅、ということもあるそうです。

【オンラインだと、きちんとやりとりできるか、不安ではないですか?】
確かに、学生からは、オンラインだと社内の雰囲気がわからないという声の他、途中で音声や画面が途切れてしまった。面接官の目とパソコンのカメラとどちらを見て話をすればいいかとまどった、といった声も聞かれました。一方、直接会うより緊張せず、質問もしやすかった。交通費がかからない上、いくつもの企業の説明会や面接を、効率よく受けることができると評価する声もでています。

【地方の学生にとっては、交通費がかからないというメリットが大きそうですね】
企業の側からも、会場に制限がある実際の説明会より、多くの学生に参加してもらえた。特に、遠方から応募してもらえる学生が増えた。という評価する声があります。
ただ、最終面接だけでも、実際に会いたいという企業もあって、それで「内定率」が足踏みしている面がある、という見方があるのです。

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【でも6月1日以降、面接はできるのでしょうか?】
まだ、多くの企業の本社がある東京で、いつ緊急事態宣言が解除されるのかは、わかりませんし、6月1日までに解除されたとしても、感染を防がないといけない状況は変わりません。いくつかの企業に聞いたところ、
▼ 最終面接までオンラインで行う方針という企業。あるいは、
▼ とりあえず、オンラインで一次面接を始めて、その先は、状況を見ながら判断していくという企業が増えています。
結果的に、オンラインで内定を出す企業が増えるのではないかと思います。

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ただ、その上で、もっと心配なのは、「採用活動を中断する企業」がでてきているという点です。

【採用活動を中断ですか。心配ですね】
こちら。今月15日から20日にかけて200社あまりを対象に、採用活動の状況について緊急調査をした結果ですが、
▼ 採用活動を予定通り進めているという企業が58%にのぼる一方
▼ 採用人数を縮小して実施しているが11%
▼ 一時的に中断したという企業も13%に達しました。

【なぜ採用活動を中断しているのですか?】
業績の悪化を受けて、しばらく様子を見たいという企業がでてきているのです。今月中旬までに決算を発表した企業のまとめでは、新型コロナウイルスの影響を受けた1月から3月の3か月は平均で74%近い大幅な減益で、赤字に転落した企業も多くいます。4月から6月の業績はもっと悪くなると見られ、
▼ ANAホールディングスやスカイマークは採用活動を中断すると公表しました。ANAは、いずれ再開する予定ですが、採用の抑制を検討せざるをえないとしています。

【採用を縮小する動きもあるのですね。心配ですね】
はい。今後、採用を抑制する動きがさらに広がるのではないかと心配はあります。
一方、リーマンショックよりも企業活動への影響が大きいとも言われる中、60%の企業が予定通り採用計画を進めていると言います。
▼ 過去の危機の時に採用を絞った結果、中堅・若手の層が薄くなるゆがみがでて、困った経験がある。
▼ 特に、今は、AIやIoTなどの技術の進展で、100年に1度と言われる大変革の時代。優秀な若い人材はぜひほしい。という声も聞こえてきます。

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【採用意欲がある企業はまだあるということですね】
大企業だけではありません。
こちらは、中小企業を対象にしたアンケート調査です。こちらでも70%近い企業が計画通り採用すると答えています。ここ数年人手不足が続いていたため、積極的に採用したいという意欲はまだ高いと、アンケートをした東京商工会議所は話しています。

【少し視野を広げることも大事かもしれませんね】
特に今年は、多くの企業を集めた大規模な合同説明会や大学での説明会の中止が相次いだため、学生が、中堅・中小企業、あるいは素材系など、知名度がそれほど高くはない企業と出会うチャンスが少なかった。その結果、学生の関心がもともと名前を知っている有名企業にかたよりがちだという指摘もあります。今後、WEBシステムを導入したり、大学との連携を進めたりして、採用を進めたいという企業も多いといいます。WEBあるいは大学を通じて、まだ様々な企業の情報を集められると思います。オンラインで、いろいろな地域の企業を受けることもできます。ぜひ、視野を広げながら、がんばってほしいと思います。

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一方、企業も、長期的な視点で、選考の機会を複数回設けるなど、できるだけ学生に多くのチャンスを与えるようにしてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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