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「抗原?抗体?どうなる新型コロナウイルス検査」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆最近、新型コロナウイルスの「抗原検査」や「抗体検査」が話題に

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 これまでも行われてきた「PCR検査」は、コロナウイルスの遺伝子そのものを調べるのに対して、「抗原検査」はウイルスに特徴的な「抗原」と言われるたんぱく質を調べることで、PCRと同様、「今、感染しているかどうか」を診断できます。
 一方、「抗体検査」は、この抗原が体に入ると免疫の働きで何日か経ってからできる「抗体」という物質を調べることで、「過去に感染したことがあるか」を判断するものです。
 先週の13日に、国は「抗原検査」用のキットを承認し保険適用にもなりました。そして、15日には「抗体検査」について、1万人規模での調査を早ければ来月にも始めると発表しました。

◆「抗原検査」の特徴は?

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 「抗原検査」はPCRと同じく「今、感染しているか」を調べるために行われます。どちらも、鼻の奥などをぬぐって検体を採取するのは共通ですが、PCRでは分析結果が出るまで数時間かかるのに対し、抗原検査は30分ほどで結果が出ます。
 ただし、精度はPCRほど高くありません。抗原検査で陽性だった場合はそれで感染していると判断できますが、陰性だった場合はかかってないとは言い切れず、さらにPCR検査を行う必要があります。
 抗原検査はまだ導入が始まったばかりで行っているところは限られますが、PCR検査の不足を補う意味でも今後普及が期待されます。

◆一方「抗体検査」とはどういうもの?

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 抗原と抗体で名前はまぎらわしいですが全く別物で、こちらは「過去にコロナウイルスに感染したことがあるか」を調べる検査で、血液を採って調べます。
 この抗体検査を早ければ来月から、感染者が多い東京と大阪、そしてそれほど多くない宮城県の3か所で、1万人規模で始める計画を国が公表しました。
 大きな目的は、各地域でどれぐらい感染が広がっているのか状況を把握することです。新型コロナウイルスは、感染しても症状が出ず、気づかないうちに治った人も多いと考えられていて、そういう人は後からPCRや抗原検査をしてもわかりませんが、抗体は一度できると長期間残るので、見つけられる可能性があります。そこで、大規模に抗体検査を行えば、例えば“東京で人口の何%が既に感染している”といった状況が、ある程度わかるというわけです。そしてもう一つ、「集団免疫」の可能性についても探るとされます。

◆「集団免疫」とは?

 社会全体で一定の割合の人が病気に対する免疫を持つようになると、(つまり、この盾を持った人がある程度多くなると)そこで感染の拡大は食い止められるとされていて、これを「集団免疫」と言います。
 そして、いったん感染して抗体ができた人は、この病気への免疫つまり抵抗力がつきやすいと考えられています。そこで、大規模な抗体検査を通じて、この集団免疫につながる可能性があるのか、情報が得られないかも関心が持たれています。

◆抗体を持つ人が多ければ感染が終息に向かうかもしれない?

 まだはっきりしない面もありますが、アメリカなどで大規模な抗体検査を行って、それを社会活動の制限を緩めるなどの判断材料にできないかという動きがあります。
 日本でも最近は一般のクリニックで「抗体検査を受けられます」と掲げる所も多くなっています。この背景には、「抗体があれば免疫が出来ていて安心できるのでは」との考え方があります。

◆経済的に苦しい人や企業が増える中で制限を緩められる科学的な根拠が出来るとよいが?

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 ただ、現状では色々な課題があります。
 まず、検査精度です。先週この抗体検査のキットの性能評価の結果が公表されましたが、ある検査法で新型コロナ感染症がまだ出ていなかった時期に採血しておいた血液を調べたところ、500人中2人、単純計算だと0.4%の人が陽性になりました。これは実際は感染していないのに抗体があると判定してしまう「偽陽性」と見られます。検査の数字にある程度の誤差はつきものとは言え、今感染者が最も多い東京都でも感染が確認されている人は5千人台で、人口比では0.04%に過ぎません。それなのに、仮に誤差が0.4%あったらこの10倍も大きな数字ですから、とても信頼できる調査になりません。
 海外はどうかと言うと、例えばニューヨークでは既に感染率が10%を超えているとの報告もありますので、そういう地域では零点数パーセントの誤差があっても影響は小さいわけですが、日本はまだ感染率が低いので誤差の影響が大きくなってしまうと見られ、より精度の高い検査が求められる面もあります。

◆抗体があっても安心できない?

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 さらに根本的な問題として、抗体が本当に出来ていたとしてもその人が必ずしも新型コロナに対する抵抗力がついているとは限らない、ということがあります。
 WHO世界保健機関は先月、抗体がある人でも再感染しないかどうかはわからないとして、抗体検査への過剰な期待に釘を刺しています。実は新型コロナ感染症が治った人が再度発症するケースも報告されていますし、さらに「抗体」の中にもウイルスを防ぐ働きをしない、むしろ悪さをする「悪玉抗体」も存在することが最近の研究で指摘されていて、この病気にはまだわからないことが多いのです。

◆抗体検査をする意味は?

 地域や国で広くデータを集め、およそ何%の人に抗体が出来ていると把握することは、感染の広がりの傾向をつかんだり対策を進める上で重要な基礎になります。
 一方で個人のレベルで抗体検査を受けることには、現時点では疑問符をつける専門家も少なくありません。抗体検査で陽性でも必ずしも感染を防ぐ保証にはならないので、むしろ「自分は抗体があるから大丈夫」などと誤解した人が、三密を避ける意識やマスクなどを怠って以前のように行動すると、かえって感染の拡大にも結びつきかねないのです。

◆今後求められることは?

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 広く検査という面では唾液で簡単に出来る検査法の開発なども進んでいますが、国や研究者、産業界にはぜひより優れた検査システムの実用化を急いでほしいと思いますし、ワクチンや治療薬の開発に関しても、日本の科学技術がこの世界的な危機を乗り越える力になることを期待したいです。
 そして、私たち個人のレベルでは、やはり「自分も感染を広げる可能性がある」という前提で、人と距離を取ったりマスクや手洗いなど注意を続けることが大切だと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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