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「新型コロナウイルス 外国人労働者は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は4月3日から多くの国を対象に、入国拒否の措置を取っています。これに伴って、日本で働く外国人技能実習生などにも影響が出ています。

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【73国地域で入国拒否】
Q:感染拡大が続いていますが、現在、海外から日本への入国はどうなっているのでしょうか。

A:4月3日現在、出入国在留管理庁によるとアメリカやヨーロッパ、そしてアジアの多くの国など73の国と地域を対象に、外国人は原則として入国拒否となっています。国際線は運休や減便が相次いでいて、各国との行き来も難しくなってきています。

Q:こうした国から帰ってくる日本人はどうなるのですか。

A:73の国・地域から日本人は帰国できるのですが、症状の有無にかかわらず、全員がウイルス検査の対象で、陰性の場合も自宅やホテルなどで2週間の待機を要請しています。
つまり、現在は外国人の来日は難しく、日本人の帰国も大変になっているわけです。

【実習生も来日できず】
Q:この状態はいつまで続くのでしょう。

A:入管庁によると感染拡大が続く中で当面、いつまでという見通しはまったく立っていないということです。

Q:外国人が来日できないと、働く現場にも影響は広がりそうですね。

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A:特に技能実習生は去年末の時点で41万人。外国人では永住者の次に多くなっていて、日本の産業を支える存在です。実習生として去年来日した主な国6か国のうち5か国が、現在入国拒否となっています。

Q:ミャンマーは入国拒否の対象ではないのですね。

A:ところが、ミャンマー政府は3月下旬に、実習生や労働者の送り出しを一時的にストップしたと発表しました。つまり実習生は現在、ほぼ来日ができなくなっているということです。実際、現場ではすでに影響も出ています。

【農業の現場は】
群馬県北部の昭和村で、ほうれんそうなどを栽培している臼木英幸さんは、毎年、中国人の技能実習生を受け入れています。
ところが、3月受け入れる予定だった3人の来日の見通しが立たずにいます。
春の種をまく時期ですが、人手がないため作付けの面積は通常の7割程度にとどめているといいます。
受け入れを担う監理団体となっている地元のJAも1か月の研修を行ったうえで、それぞれの農家に受け入れてもらう予定でした。しかし、3月の時点で中国からの119人が来日していないということです。今後の見通しが立たないため、担当者も困惑しています。

Q:今の時期、農業は人手が必要ですからね。

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A:農林水産省によると、農業や漁業などの現場で、実習生が来日できず困っているというという声があちこちで上がっているということです。
農業に限らずすべての業種を合わせると、去年は毎月1万人から2万人が実習生として新たに入国していますから、この状態が仮に1年続けば、全業種を合わせて去年のデータだと20万人の働き手が来日できないことになります。

【実習生の契約打ち切りも】
Q:それだけ来ないことになると困りますね。

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A:一方で、これとは正反対の問題も起きています。
製造業などで、実習生の契約が、業績悪化によって打ち切られるケースがあるということです。感染拡大によって急に仕事がなくなり、雇用環境が悪化していると言われます。
私はある監理団体の幹部に先日、話を聞いたのですが、「特に製造業で、このところ急速に景気が悪化していて、実習生の契約打ち切りは今後も増えるのではないか」と話していました。
本来は受け入れを担う監理団体が代わりの企業を見つけなければなりません。しかし、業種によっては新たな実習先を見つけることが難しいと懸念されます。また実習生は違う業種の仕事をすることは認められていません。

Q:感染拡大で、今、私たち日本人も仕事がなくなるのではないか、という不安を感じている人が多いと思います。

A:休業を余儀なくされる自営業の方や、非正規雇用の雇止めなど影響は各地で深刻になっていて、雇用を確保するための対策が急がれます。
外国人の場合はただ、仕事がないため母国に帰ろうと思っても、現在は帰れないという事情があるわけです。

【政府の対応策は】
Q:政府の対策はどうなっているのでしょうか。

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A:出入国在留管理庁がここまでにまとめた対策です。帰国が難しい実習生などで雇う側と働く側が「同じ仕事を続けたい」と希望すれば、「特定活動」という新たな在留資格を出して、さらに3か月間仕事を続けることができるようにしました。
人手が足りない職種では、ひとまず同じ人に残ってもらい、同じ場所で同じ仕事を続けてもらうことが可能なわけです。さらに帰国便の状況が変わらない場合、在留資格を延長することも可能です。

Q:同じ場所で働きたいという場合はいいですね。でも、契約を打ち切られる、あるいは契約が終わっても帰れない場合はどうなりますか。

A:こちらの在留資格は、現時点ではあくまでも同じ場所で同じ仕事をする人だけです。

【“短期滞在“では働くことができない】
入管庁に取材すると、帰国が難しい状態で同じ仕事を続けられない場合、現状では別の「短期滞在」という90日の在留資格を許可するということでした。ところが、こちらには問題があります。

Q:何ですか。

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A:「短期滞在」では、仕事をすることが認められていないのです。。
つまり、今のままだと帰国できないうえ、新たな在留資格を得ても働くことができない、となってしまう恐れがあるのです。
これでは帰国できない外国人が生活することはできません。

【一層の柔軟な取り組みを】

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外国人労働者の問題に詳しい指宿昭一弁護士は「政府は、外国人技能実習生の制度は国際貢献が目的であると説明しているのだから、実習生が不利益を受けることがないように、政府は企業側に帰国できない実習生を継続して雇用するように指導するか、責任をもって代わりの仕事を世話する必要がある」と指摘しています。
今回は新型コロナウイルスによる感染拡大という事態だけに、政府は特別な事情があることを汲んで、まずは実習生が仕事を失わないようにすること、場合によっては異なる業種で働くことも認める、さらに「短期滞在」の在留資格でも仕事をできるようにするなど、いっそう柔軟な取り組みが求められると思います。

Q:この状態が長引けばさらに影響も出るでしょうね。

A:現状では店舗や事業所の休業も相次いでいて、日本人の雇用への幅広い対策を急ぐ必要があります。
一方で、来日できない、あるいは帰国できない外国人もいるということも忘れないでほしいと思います。
このままでは数十万人に上る働き手を、将来にわたって失ってしまうことになりかねません。一層の取り組みを望みたいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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