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「新型コロナウイルス どう守る『ハイリスク』高齢者」(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

新型コロナウイルスの感染が広がっています。特に注意が必要なのが重症化しやすいと考えられている高齢者や持病がある人です。
ハイリスクの人をどう守っていけばいいのでしょうか。

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(高齢者は“ハイリスク”)
Q)高齢者は重症化のリスクそんなに高いのですか。
A)WHO=世界保健機関は中国で感染が確認された5万5000人余りのデータを分析しました。

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この中では、重症や死亡のリスクが高いのは60歳を超えた人や高血圧や糖尿病、循環器系の持病などがある人としています。致死率は3.8%、武漢では5.8%、中国のほかの地域では0.7%でした。高齢になるほど高くなっていて、80歳を超えた人の致死率は21.9%と5人に1人に上っていました。

Q)日本国内でも同様の傾向なのでしょうか。
A)きのう時点(3月11日)のデータを見てみますと、クルーズ船やチャーター機で帰国した人を除く国内で感染した620人のうち亡くなった人は14人。年代が明らかになっている10人は70代から90代でした。新型コロナウイルスは感染者の80%は軽症と言われています。ですが、リスクが高い人が感染すると重症化することや、死亡してしまうこともあるというのも事実です。ですのでこうしたハイリスクの人を感染から守ることが大きな課題となっています。

(警戒高まる介護施設)
いま、特に警戒が高まっているのが全国で感染が相次いでいる介護施設です。ウイルスを持ち込まない、そして広げないことが重要です。対策を強化した施設もあります。

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東京世田谷区にある特別養護老人ホームやデイサービスを運営する事業所です。1日最大で130人を超える高齢者が利用しています。職員が出勤するとまず行うのが体温測定です。職員だけでなく施設を訪れるすべての人が対象で、出入りする業者、そして私も施設に入る前に体温を測りました。37度を超えていたら施設には入ることができません。家族の面会は原則禁止。取材も決められたスペースでのみ許されました。職員に対しては休みの日の行動についてもルールをつくりました。外出は極力避け、人混みに近づかないようにする。そして飲み会など不特定多数の人が集まる場所への参加は禁止です。

Q)みなさん、守っているのでしょうか。
A)施設では休日の行動まで制限することに反発が出るのではないかと考えたそうですが、反対の声はなかったそうです。リスクの高い高齢者が集まる施設ということもあり、厳しいルールも受け入れられているようです。

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こちらの女性は、休みの日は買い物以外外出を控え、通っているヨガも休んでいるということです。こちらの男性は、「飲み会はしばらく行っていない。休むことになったら代わりがいないので常に気を張っている」と話します。若い世代は感染しても重症化するリスクは低いといわれています。ですが、こうした症状の軽い人がリスクの高い人に感染を広げてしまう可能性があると指摘されています。2人とも、「自分が感染しないことが高齢者の命を守ることにつながるので少し我慢が必要だができることはすべてやりたい」と話していました。

(デイサービス休止で・・・)。
Q)それでも感染者が出てしまうこともありますよね。
A)そうですね。実際、施設が休業するというケースも出てきています。
兵庫県伊丹市ではリハビリを行うデイケア施設が休業。名古屋市もデイサービスなどでの感染の広がりを防ぐため市内の126の事業所に対し2週間休業するよう求めました。

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Q)多くの高齢者が集まるので感染のリスクがあるかもしれないということはわかりますが、サービスが受けられなくなると困る人もいるのではないでしょうか。
A)そうですね。デイケアやデイサービスは手助けが必要な高齢者に食事や入浴のサービスを提供するほか、リハビリを行ったり、利用者同士でコミュニケーションを図ったりする集いの場です。ひとり暮らしの高齢者にとってここでの食事や入浴が生活に欠かせないという人もいます。家族にとってもこの間、介護の負担が軽減されるということもあります。ですので、サービスを休止した事業所の中には、入浴だけは受け入れているというところや短時間だけオープンしているところもあります。生活が立ち行かなくなるといったことがないよう、デイサービスを休止しても施設の職員が利用者の自宅を訪問して食事を届けるなど柔軟な対応が必要だと思います。一方、介護現場ではマスクや消毒液が手に入らないという声も聞きます。政府はマスクを介護施設に配布するとしていますが、感染防止対策がとれるよう迅速な対応を求めたいと思います。そして、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、介護サービスを休止するといった対策が別のリスクをうむという指摘も出ているんです。

Q)別のリスクですか?
A)はい。かえって高齢者の体調が悪化してしまうということです。

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例えば、定期的に通っていたデイサービスがお休みになり自宅に閉じこもりがちになってしまうと、体の機能が低下したり、元気が無くなってしまったりするおそれがあるんです。生活のリズムが崩れ、運動量が落ち、食欲も低下してしまうという悪循環に陥ってしまうというのです。高齢者は、子どもや働き盛りの世代とは異なり、数日歩かなくなっただけで車いすが必要になるケースもあるといいます。クルーズ船では、多くの高齢者が船室での隔離を求められた際、日を追うごとに体調を崩したこともありました。政府の専門家会議の副座長を務める尾身茂さんは「家の中に閉じこもる必要はない。散歩などを行って体と心の健康を守ってほしい」と話しています。

Q)過度に心配する必要はないということなんですね。
A)はい。そして、家の中にいてもできる運動やストレッチを心掛けることも大切です。
高齢者は転びやすいということも知られていますので、転倒に気を付けながら家の中でできる運動を日本転倒予防学会の武藤芳照理事長に聞きました。

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まず、つま先立ちとかかと立ちです。20回ずつ行います。その際、転倒しないよう固定された椅子や机などの支えがあるといいといいます。いすに座ったままできる運動もあります。あしで自分の名前を書いてみる。例えば右足でいわぶち。左足でこずえ。これはあし文字というそうです。

Q)テレビを見ながらできそうですね。
A)そうですね。ほかには畳の上で四つん這いになって背中や腰を伸ばす猫のポーズなどのストレッチも有効だといいます。ゆっくり伸ばし、無理は禁物です。そして、部屋の中にいても1日20分くらいを目安に日光を浴びることも重要だといいます。代謝を活発にする効果があるといいます。

Q)家の中にいても体を動かすという意識が大切なんですね。
A)そうですね。新型コロナウイルスの感染を防ぐことはもちろん大切ですが、
高齢者には環境が変わることで感染以外のリスクもあることを知っておくことが重要です。こまめに手を洗うなど感染予防を心掛けながら家に閉じこもることなく散歩をしたり、できる範囲の運動をしたりする。可能な限り普段通りの生活を送ることが高齢者の命を守ることにつながるのだと思います。

(堀家 春野 解説委員)


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