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「新型コロナウィルス感染拡大~日本経済への影響は」(くらし☆解説) 

神子田 章博  解説委員

くらしキラリ解説です。中国から始まった新型コロナウィルスの感染拡大が日本経済にも様々な面で影響を及ぼしています。神子田解説委員です。

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Q.新型コロナウィルスの感染拡大がどのような形で影響をしているのでしょうか?
A.おもに三つあります。

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ひとつは中国国内で生産活動が停滞したことによる影響。もう一つが、中国からたくさんの人が日本を訪れて消費をする、いわゆるインバウンド消費への影響です。最後に日本で感染が広がっていることを受けての経済活動の萎縮です。

一つずつ見ていきましょう。
まず中国での生産の停滞の影響です。

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中国では先月24日から一週間、日本でのお正月にあたる春節の連休となっており、それを前に数億人ものひとが、故郷に里帰りしていました。
しかしその後、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、上海や広州などの主要都市や20を超える省などが、連休を延長し、操業再開を2月10日以降までひかえるよう求めていました。大勢の人が再び移動する時期を遅らせることで、感染の拡大を食い止めようとしたのです。
こうした中で日本の自動車メーカーもようやく今週に入ってから生産を再開しました。しかしこうした中国での生産活動は本格的な再開にはいたっていません。
例えば中国南部広州にある自動車部品メーカーでは、今月14日から操業を再開しているものの、従業員140人のうち7割程度しか出社できておらず、人手不足から稼働が落ち込んでいます。従業員のうち8人は、感染拡大が最も深刻な湖北省出身ということですが、出社のめどはたっていないということです。
このように中国各地で生産活動が停滞する中で、影響は、日本国内の生産にも及んでいます。日産自動車の九州にある工場で、中国からの部品の調達が滞り一時的な生産停止に追い込まれました。

さらに、影響は自動車業界にとどまりません。今週気になるニュースがありました。
アメリカの大手IT企業アップルが、中国で生産しているアイフォンの台数が減っていることなどから、今年1月から3月までの売り上げの見込みを達成できない見通しになったと発表したんです。このアップルのアイフォンは、日本で製造している電子部品を使っていて、アップルの製品の売り上げが落ちれば、日本からの製品の生産や販売も減ってしまうことになるんです。

次にインバウンド需要への影響について考えます。

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中国から日本に来た旅行客は去年1年間に959万人あまり。外国人旅行客のおよそ3割を占めています。また中国人旅行客が買い物や宿泊など日本で消費した金額も1兆7000億円余りと全体のおよそ37%にのぼっています。しかし中国の旅行会社は新型コロナウィルスの感染拡大を受けて先月27日から団体旅行を中止しています。

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日本旅行業協会によりますと、先月27日から来月末に団体旅行で日本を訪れる予定だった40万人のほぼすべてがキャンセルとなる可能性があるとしています。さらに中国と日本の間の航空便は7割も減っていますし、中国発のクルーズ船も今月中に日本に14隻寄港する予定だったのが、このうち13隻=大半が中止となったということです。

Q.そう聞くと、ものすごい数の中国人観光客が減ることになりそうですね?
A.はい。すでに観光産業では顕著な影響が出ています。
茨城県古河市のバス会社では、いまおよそ30台の貸し切りバスのほとんどが稼働してない状況だといいます。この会社では、海外からの旅行者向けに東京・大阪を周遊するツアーバスを運行し、売り上げの3分の1を占めています。しかし中国からの予約はすべてキャンセル。それだけでなく日本国内での新型コロナウィルスの感染拡大を心配して、タイや台湾からのツアー予約もキャンセルが相次いでいるということで、売り上げに2000万円近い影響が出ているということです。

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東京から大阪というのはゴールデンルートと言われて人気がある観光ルートなのですが、外国人旅行客が日本で消費する額のうち中国人が占める割合を関東地区・関西地区それぞれみてみますと、関東が32%なのに対し、関西は39%を占めていて、関西のほうがより深刻な影響を受けることになるかもしれません。

Q.日本経済全体としてはどのくらいの影響になりそうなんでしょうか?
A.大和総研では感染拡大が3か月程度で収束したとして、日本の経済成長率を0点2%押し下げることになるということです。もちろん感染拡大が長引けば影響はより大きくなりますが、気になるのは、日本経済の基調が弱い時に今回の問題が重なったことです。

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今週月曜日に発表された去年10月から12月のGDPの速報値は、年率に換算した数字で前の期に比べてマイナス6点3%と大幅なマイナスとなりました。これは大型の台風の影響もあったんですが、消費増税前のかけこみ需要の反動で自動車や家電製品などの売れ行きが落ち込んだことなど大きな要因として挙げられています。政府は、前回6年前に消費税を引き上げた時に比べて影響は小さいという見解を示しているのですが、気になるデータもあります。
例えばこのグラフをごらんください。

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これは去年と2014年の消費税引き上げ前後のスーパーの売上高の推移をある時点を100とした数字でそれぞれ示したものです。引き上げ3か月前からの推移をみると、確かに前回に比べて去年は駆け込み需要の大きさもその反動も緩やかなものになっています。

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しかし1年さかのぼってみてみると、そもそも今回は消費税引き上げ前から国内の消費自体の勢いが大幅に衰えていたことがうかがえます。こうした中で外国から来てものを買ってくれるインバウンドよる消費は、これからの拡大が期待されるいわば成長分野なだけに、中国旅行客の減少は、大きな打撃となります。

最後に、日本国内で感染が広がったことで経済活動が委縮する問題についてです。

Q.経済活動の萎縮とは具体的にどういうことなんでしょうか?

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A.例えば国内旅行。旅行会社各社によりますと、先週末あたりからツアーや宿泊施設の予約のキャンセルする動きが、例年より多くみられるようになっているということです。
さらにマラソン大会や大勢の人を集めての講演会などの開催が中止されたり、規模が縮小される動きも広がっています。これにともなって、飲食や交通も含めサービス産業全体の消費の落ち込みが懸念されています。
さらにタクシーになるだけ乗らないようにしようという人もでているほか、企業によっては、社員が新幹線をつかって移動しなければならないような出張はなるべくしないよう呼び掛けているところもあると聞きます。このように新型コロナウィルスの感染拡大が新たな段階に入り、どこでとう感染するかわからないという言い知れぬ不安から、企業活動が委縮し、経済全体の勢いも弱まってしまうことによる懸念が強まってきているんです。 
新型コロナウィルスの感染拡大は、健康面だけでなく、経済の観点からも一刻も早い終息が望まれます。政府としても、観光業をはじめ経済への影響をみながら臨機応変に必要な政策を講じていくことが求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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