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「ヨットレースで海洋プラスチック調査」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

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◆日本から3千km離れたパラオまでのヨットレースで海洋プラスチック調査が行われた

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 これは、パラオ共和国が独立して日本が外交を結んでから去年秋で25周年を迎えたことを記念して企画された親善レースです。パラオのレメンゲサウ大統領も来日して見守る中、12月29日に横浜港からスタートし、年をまたいで行われました。これだけ長距離の国際ヨットレースが日本で行われたのは実に28年ぶりです。参加したのは経験豊富な日本のヨット愛好家らの7隻ですが、双胴船タイプのヨットにはパラオ人のクルーも4人乗り込み日本とパラオの合同チームでした。

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 マイクロプラスチックとも呼ばれる海のプラスチックごみの増加は最近大きな問題になっていますが、このままだと「2050年には世界の海の魚の量を超える」とも予測されており、食物連鎖などで私たちの体内にも蓄積しないか懸念されています。そして、この海洋プラスチックの大きな流出元と見られるのがアジアの国々で、そこから黒潮に乗って流れてくるため、日本の南の太平洋上は特に高密度な海域と予測されています。ただ、これらの海域で実際にマイクロプラスチックの量を調べたデータはまだまだ少ないため、今回、日本からパラオはルート的にちょうどこの真っ赤な部分を通るので調査するのに絶好の機会でした。

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 そしてこのヨットレースでのプラスチック調査は、実は国や研究機関が考えたものではなく、レースを主催するヨット愛好家側から、こうした研究を行っている海洋研究開発機構に話を持ちかけたものです。近年はマリンスポーツをする人たちの間でも海の環境への意識が高まってきており、海外のヨットレースで既にこうした調査が行われたケースもあります。

◆海洋プラスチックの調査は具体的にはどう行う?

 世界的に研究者がよく行っているのが、「ニューストンネット」と呼ばれる網を使って海面を決まった方法でさらい、かかったプラごみの数や大きさなどを調べる方法です。ただ、これにはある程度の熟練も必要で、手間もかかることからレース中のヨットで何度も行うのは困難です。そこで、海外のレースでも使われたというドイツ製の採取装置を、レースに参加するヨットのうち1隻と、伴走船に取り付けました。この装置は、スイッチを入れると自動的に海水をポンプで一定量吸い上げて、中に入っているフィルターでごみをこしとる仕組みになっています。定期的にフィルターを交換すれば後でフィルターに残ったプラごみを調べることで、どんな大きさのものがどれだけあるかわかるわけです。伴走船には海洋研究開発機構の千葉早苗さんが乗り込んで、ニューストンネットによる採取も行いました。

◆ヨットレースでの調査はうまくいった?

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年末にスタートした7隻のヨットは、1月8日に先頭を切って北海道から参加したヨットがパラオに着いたのに続き、7隻全てが一月中旬までに無事パラオに到着しました。そして回収されたサンプルの一部は既に日本に持ち帰られて、横須賀にある海洋研究開発機構で分析が進められています。

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 研究グループのリーダー・千葉さんは、広大な海のマイクロプラスチックの状況を時間的な変化も含めてカバーしていくためには専門家だけでは不可能で、マリンスポーツを楽しむ人たちや商船などに幅広く協力を得てデータを集めていきたいと言います。
 今回の調査で期待されていることのひとつが、「ミッシング・プラスチック問題」の解明につながるのではないか、という点です。
  
◆「ミッシング・プラスチック」とは?

 世界の海に流れ込んだプラスチックのうち、実際の海面の調査などからそのありかが推定できているのはわずか1%以下とも言われていて、ほとんどは「ミッシング」つまり行方不明とされてきました。それがどこに行っているのか?可能性としては、まず海面から海中や海底に沈んでいて見つかっていないプラスチックが沢山あるのではないか。そしてもう一つ、海面に浮かんでいるものの波や紫外線で小さく砕かれたものが大量にあり、調査から漏れているのではないか、というものです。
 ニューストンネットは編み目のサイズが0.3mmというのが標準になっているため、それより小さなものはすり抜けて採取できません。そこで今回搭載した装置はフィルターが三層になっており、網目が標準的な0.3mmの他に、0.1mmと0.03mmとより小さい物まで採取できました。海面付近のものには限られますが、これを分析して例えば「0.3ミリ以下のものがそれ以上のものより何倍多い」などの傾向がわかってくると、マイクロプラスチックの推計をより正確なものにでき、ミッシング・プラスチックの行方を突き止めることにつながる他、対策を進める上でも重要な基礎データになりえます。

◆今回はヨットレースとしても成功だった?

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 はい。28年ぶりの長距離レースを事故もなく円滑に運営できたということで、自らのヨットにマイクロプラスチック採取装置を取り付けて調査にも協力した、日本セーリング連盟理事の新田肇さんは「今後も定期的にこうしたレースを行いたい」と話していました。また、伴走船にはパラオの子供たちも乗船して、航海中千葉さんたちが海の環境などについての教育プログラムも実施し、そちらも好評だったそうです。日本とパラオは、共に海に囲まれた島国で歴史的にも縁が深いですから、今後も協力して海の環境を守っていく取り組みが進むと共に、友好が深まることを期待したいです。
 そして、こうした民間の船に採取装置を取り付けたりすることが広がっていけば、海洋プラスチック対策に役立つデータを幅広く集められますので、国もそれを後押しするなど、海洋プラ問題の解決に向けた具体的な道筋を示していってほしいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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