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「パラサイト 韓国映画にみる格差社会」(くらし☆解説)

出石 直  解説委員

(VTR:授賞式)「アカデミー賞作品賞は、『パラサイト 半地下の家族』!!」
ことしのアカデミー賞の作品賞に韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が選ばれました。
去年のカンヌ国際映画祭での最高賞パルムドールに次ぐ受賞です。

(ON)「消毒?」「窓を閉めて」「いやタダで消毒してくれる」
   「実は美術の先生も探していて」「思い浮かんだ人がいるのですが」

アカデミー賞の監督賞や脚本賞なども合わせて受賞したこの映画は、韓国の深刻な格差社会を描いた作品です。映画を通して、分断が進む韓国の格差社会についてお伝えします。

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担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。
Q1、まず簡単にストーリーを紹介して頂けますか?

A1、この映画には対照的な2つの家族が登場します。

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まず半地下の家に暮らす貧しいキム一家。
おとうさんは、事業に失敗して失業中、長男は、大学受験に何度も失敗。
絵が得意な長女は、美術大学への進学を希望していますが、家が貧しいために予備校に通うことができません。

一方、こちらは高台のお屋敷に住むお金持ちのパク一家。
おとうさんはIT企業の社長さん。
高校生の長女といたずら好きの長男には、それぞれ家庭教師がついています。

物語は、半地下の粗末な家に暮らすキム家の長男が、友人の紹介でパク家の長女の家庭教師を引き受けるところから始まります。

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(ON)「代わりに英語の家庭教師を頼む」「何を言うんだ」「金持ちだギャラもいい。いい子なんだ。俺の留学中、よろしく頼むよ」
「どちら様」「お母さま、こんにちは、ミミョク君の紹介で」「どうぞお入り下さい」

招き入れられたのは、有名建築家が建てたという豪邸でした。
(ON)「24番の答えは?」「・・・」

これをきっかけにキム一家は、経歴を偽って家庭教師やお抱えの運転手としてパク家に入り込んでいきます。パラサイト=寄生していくのです。

(ON)「あなた 新しい美術の先生よ」「イリノイのジェシカ先生 ディス イズ ドンイク」
「こんばんは」「ダソンをよろしく」「授業は終わり?」「ええさっき」「ユン運転手」

やがて、思いがけない悲劇が2つの家族を襲います。

(ON)「計画を立てると必ず、人生その通りにいかない」

これ以上、お話すると映画を観る楽しみがなくなってしまうのでここまでにしますが、ストーリーは後半、思わぬ展開を見せます。

Q2、私もきのう見てきましたが、裕福な家庭と貧しい家庭とのコントラストが衝撃的でした。
出石さんはソウルでの駐在経験もありますが、この映画をどう見ましたか?

A2、フィクションではありますが、今の韓国社会が抱えている矛盾、病理を見事に描いた作品だと思いました。

Q3、矛盾、病理と言うのは?

【貧富の格差】
A3、韓国は大変な競争社会、格差社会です。2015年の調査では36万4000世帯が、この映画にあるような半地下の家に住んでいます。下水が逆流しないようトイレは一番高いところにあります。

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こちらは、私が以前、取材したスラム街の写真ですが、ソウルの高級住宅街カンナム(江南)のすぐ近くにこうした地区があるのです。こうしたスラム街や半地下の家がある一方で、カンナムやソウルの北側の高台にある高級住宅街には、映画に登場したような豪華なお屋敷が立ち並んでいます。韓国では、サムスン、ヒョンデ、LGといった主な10の財閥だけで韓国全体の富の4分の3を生み出し、所得上位10%の層が国民総所得の45%を占めているのです。

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Q4、わずか10%のお金持ちが国全体の半分近い富を得ているということなのですね。

A4、非正規労働者が多いのも格差が拡大する一因となっています。正規社員との賃金格差だけでなく、大企業と中小企業の間にも待遇に大きな差があるのです。

Q5、どうしてこんな格差社会になってしまったのでしょうか?

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【若者】
A6、大企業中心のいびつな経済発展の結果だと思います。中間層が育っていないのです。
こうした格差社会の犠牲になっているのが若者と高齢者です。若者の失業率は8.9%、就職を諦めてパートタイムで働いている人なども含めた潜在的な失業率はもっと高いと言われています。厳しい受験戦争を勝ち抜くために子供のうちから塾に通い、一流大学を出ても大企業にはなかなか就職できない。一方で、パク・クネ前大統領やチョ・グク前法相の事件で明らかになったように、有力者のコネがあれば一流大学にも入ることができる。こうした不満が社会全体に渦巻いているのです。

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韓国では、少し前に「7放世代」という言葉が流行りました。恋愛、結婚、出産、マイホーム、人間関係、夢、就職、この7つを放棄した、諦めた世代という意味です。

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「金のスプーン」「土のスプーン」という言葉もありました。金のスプーンを咥えて裕福な家に生まれてきた人はずっと豊かな暮らしができる。一方、貧しい家に生まれた人は塾通いもできず努力をしても報われないというのです。格差の広がりとともに格差の固定も深刻なのです。

Q6、「夢を諦めざるを得ない」「努力しても報われない」という若者が増えているのですね。

【高齢者】
A6、より深刻なのが高齢者です。

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韓国の高齢者の貧困率は43.8%とOECD諸国の中でも突出しています。

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こちらは高齢者がどうやって収入を得ているかを示しています。
40年前は子供からの支援が高齢者の生活を支えていました。しかし韓国でも核家族が増え、若者の暮らしも厳しくなっていく中で、お年寄りも自分で働かないと食べていけなくなってきました。

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韓国で国民年金の本格支給が始まったのは2008年と遅く、支給額も一か月に平均で3万円から4万円程度に過ぎません。少子化が進んでいる韓国は、2060年には高齢化率が40%を超え、日本を抜いて世界でもっとも高齢化が進んだ国になると推定されています。

Q7、すると生活が苦しいお年寄りがこれからもっと増えてしまうのですね。

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A7、こちらは10万人あたりの自殺者の数を示したものです。韓国は先進国の中でもっとも自殺する人の割合(24.6人)が多い国です。とりわけ高齢者の自殺が多く80歳以上ではこの3倍以上(78.6人)にのぼっています。苦しい生活と先行きへの不安が高齢者を自殺へと追いやっているのです。

Q8、こうした様々な社会矛盾が、この映画のテーマになっているのですね。

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A8、この作品の監督・脚本を手掛けたポン・ジュノ氏は1969年生まれの50歳。学生運動や民主化闘争の先頭に立っていた世代です。ポン・ジュノ監督は「格差が広がる中で富裕層と貧困層の共存や共生が難しくなりつつある」と今の韓国社会が抱える問題を指摘しています。

Q9、監督の言葉は、今の私達にも当てはまるような気がします。

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A9、私はこの映画を見ていて、是枝裕和監督の「万引き家族」との共通点を感じました。
こちらも社会の片隅でたくましく生きる家族を描いた作品で、おととしのカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞しています。格差や社会の分断は、何も韓国や日本に限った現象ではありません。世界各地で大きな社会問題になっています。
これらの作品が世界的に注目されるのは、格差や社会の分断が進む中で、人間の幸福とは何か、社会と家族はどう関わっていくべきなのかといった問題が、全世界的な課題になっているからではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)

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