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「被災史料を後世に」(くらし☆解説)

高橋 俊雄  解説委員

阪神・淡路大震災の発生から、ことしで25年。このときから本格的に始まったボランティア活動の1つに、被災した地域の歴史資料の救出があります。
各地に広がりを見せている歴史資料の保存について、お伝えします。

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【地域の歴史を伝えるために】
阪神・淡路大震災のあと関西の歴史学会が中心になって、地域の歴史資料を救い出すボランティアの団体が発足。被災した古い家を回って、古文書などを運び出しました。
歴史資料というと、文化財に指定されて博物館に展示されるような、いわば「お宝」を想像しがちですが、古い家などに残されている古文書なども、地域の歴史を解明するうえで欠かすことのできない史料です。
ところが、地震や水害などで家が被災してしまうと、災害ごみと一緒に捨てられてしまうことがあり、これが重なれば地域の歴史の断絶にもつながりかねません。
そこで、災害が起きたときにこうした歴史資料を救出・保全して後世に残そうというボランティア活動が行われています。対象は古文書や掛け軸、仏像など多岐にわたり、アルバムなど個人の思い出の品を救い出すこともあります。

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【4回の災害を経験】
この活動、当事者は当初、「1年程度で終わる」と考えていましたが、この25年の間に、全国に広がりました。今月8日と9日には各地の団体の担当者などが神戸市に集まり、これまでの活動を振り返るとともに、それぞれの取り組みについて報告し、情報を共有しました。
そのうちの1つ、宮城県で活動する「宮城歴史資料保全ネットワーク」は、これまでに4つの大きな災害を経験しています。

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活動のきっかけとなったのは、2003年7月に宮城県の北部で震度6が相次いだ地震です。
5年後の2008年には岩手・宮城内陸地震が起き、史料の救出に当たりました。
そして2011年の3月11日に東日本大震災が発生、このときは事務局も被災しましたが、4月以降、被災地での活動を続けてきたということです。
これに加えて去年は台風19号による水害もあり、休む間もなく史料の保全にあたっているのです。

【各地への広がりは】

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こういった活動を行っている団体、最初にできたのは「歴史資料ネットワーク」です。阪神・淡路大震災をきっかけに作られ、神戸大学に事務局があります。
それが、大きな災害があるたびに数が増え、25年たった今、全国の24か所に広がっています。
2番目にできたのは、鳥取県と島根県で活動する「山陰歴史資料ネットワーク」。2000年の鳥取県西部地震がきっかけでした。その翌年には芸予地震があり、愛媛県と広島県で団体が立ち上がりました。
2011年の東日本大震災の時には、宮城と福島には団体がすでにありましたが、岩手と茨城に新たな団体ができました。
2016年の熊本地震では熊本、そして去年の台風19号では長野と、災害が起きるたびに新たな団体ができています。
こうした団体、「史料(資料)ネット」と呼ばれています。
規模や活動の方法はさまざまで、歴史の研究者や学生などが多く参加しています。災害が起きたときは手弁当でレスキューを行い、募金やボランティアの参加を呼びかけながら、史料の保全にあたっているのです。

【大切な連携】

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各地で災害が続くなか、とても重要になっているのが、史料ネット間の連携です。
例えば去年の台風19号の被災地となった長野県には、「信州資料ネット」ができました。立ち上げにあたっては、カビの繁殖を防ぐために史料を入れる冷凍庫などを新潟から借りたり、神戸の史料ネットから保存処理のノウハウを教わったりしたということです。

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また、災害が起きる前の活動も大切です。
宮城県石巻市では、およそ1万2000点の古文書が収められていた蔵が、東日本大震災の津波で跡形もなく流されてしまいました。

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中にあった古文書は失われてしまいましたが、事前にすべてをデジタルカメラで撮影していたため、「宮城歴史資料保全ネットワーク」の事務局に保存していたデータは残されました。担当者は、「最も悲しい実証」という表現で、災害前の活動の大切さを訴えています。
また、事前に撮影ができなくても、県内のどこにどんな史料が残されているのかをあらかじめ把握しておけば、いざという時に速やかに対応できるといいます。

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全国の史料ネットの中には、こうした「予防」を進めようと、災害が起きる前に立ち上がった団体も9か所があります。例えば「岡山史料ネット」は2005年に立ち上がり、おととしの西日本豪雨で被災した史料の救出にあたっています。
また、今月16日には南海トラフの巨大地震を見すえて、東海地方で新たな団体が発足する予定で、他の地域でも検討が進んでいるところがあります。

【災害の記録も保存】
実は災害が起きたときに歴史資料を後世に残す活動は、もう1つあります。
ここまでは過去の歴史資料を災害からどう守るかという話でしたが、これと並行して、災害が起きた時の「今の記録」を残す取り組みも行われているのです。
新潟県長岡市立中央図書館の文書(もんじょ)資料室には、避難所に関する資料が保存されています。長岡市は2004年に新潟県中越地震による大きな被害を受け、図書館も避難所になりました。
隣には、その7年後、2011年の東日本大震災に関する資料も残されています。

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長岡市には、原発事故のあと福島県南相馬市から避難してきた人たちのための避難所ができました。そこで新潟の史料ネットなどとともに、再び避難所の資料を収集・整理したのです。中を見せてもらうと、お風呂のローテーションや、避難所に向かうバス乗り場の案内など、用が済んだら捨てられてしまうような資料が入っていました。
災害はそこに暮らす人々にとって大きな出来事なので、その記録は、時がたてば大切な歴史資料になります。

【今後に向けて】

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阪神・淡路大震災から25年間、この活動を続けてきた奥村弘さんは、「地域の歴史を災害によって断絶させないためにも、被災した歴史資料と、災害そのものを伝える資料、その両方を保存していく必要がある」と指摘しています。
また、今後の課題としては「史料ネットを都道府県ごとに作ることと、若い人に参加してもらい活動を継続していくこと」をあげています。そのうえで、地域の実情に応じて各地で動きやすい形を作り、いざというときには速やかに連携することが大切だと話していました。

被災した歴史資料と災害の記録を後世に伝えるこの活動、毎年のように災害が起きるなか、多くの人の理解と協力を得て、さらに充実させていってほしいと思います。

(高橋 俊雄 解説委員)

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