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「地域の資源で持続可能なまちづくり」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆人口減少や高齢化が進む中、最近各地で「地域循環共生圏」と呼ばれる取り組みが進んでいる

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 これは、各地域ならではの資源を活用して、環境・経済・社会の様々な課題を解決し、持続可能な地域社会をめざすような取り組みです。「地域ならではの資源」というのは、美しい景観や希少な生き物、温泉などの観光資源や地場産業、自然をいかした再生可能エネルギーなど色々なケースがあります。既に全国百か所ぐらいで行われています。
 まず、その一例をご紹介します。【VTR】

 岡山県真庭市は県内で最も広い市ですが、その8割が山林で人口減少が続いています。
ここでは6年前に「バイオマス産業杜(と)市」を宣言し、森林資源などをいかした再生可能エネルギーで自給率100%をめざしています。
 間伐材やこれまで出荷できなかった未利用材などから燃料になる木質チップを年間10万トンも生産。こうした木質チップや地元の建材メーカーから出る木くずなどを燃やして、出力1万kWという大規模なバイオマス発電所を稼働させています。発電した電気は再生可能エネルギーの固定価格買取制度で売電し、年間の売り上げは20億円以上。十分黒字とのことで新たな産業にもなっています。
 もう一つの柱は、これまで多額の処理費用もかかっていた生ごみや浄化槽の汚泥などの資源化です。発酵させて液体肥料を作ると共に副産物として天然ガスの主成分でもあるメタンガスも生産しています。メタンガスは木質チップと同様、発電に利用しています。
 肥料は無料で市民に提供。市内各地に「肥料スタンド」があります。これを活用しているのが市内の若手グループです。農家の高齢化が進んで耕作放棄地が増える中で、そうした土地をまとめて耕作し、この肥料も使って野菜作りを行っています。野菜は直接販売するほか、レストランなどにも提供されています。

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◆まとめると真庭市では大きく2つの循環がある

 ひとつは生ゴミやし尿の汚泥を資源化することです。できた肥料を無料で提供し、これを使って農業を行う会社は若い人たちの働く場にもなっていますし、市もごみ処理の削減というメリットがあります。
 もうひとつは活用されていなかった木材で発電し売電収入を得ていること。木は成長するときに空気中の二酸化炭素を吸っているため、燃料にして燃やしても森を育てて循環利用しているなら実質的に二酸化炭素は増えない、再生可能エネルギーになります。
 しかもこれは、防災面でも効果があるそうです。山林は間伐など手入れが行われることで樹木が深くしっかり根を張るようになり保水力も高まると言われます。林業の衰退と共にこうした山の力も損なわれてきましたが、真庭では山林に付加価値がつくことで手入れも行われるようになり、保水力の維持、つまり水害や土砂災害の防止につながると期待されているんです。
 このように地域の資源をいかして、環境、廃棄物処理や産業・雇用、防災といった様々な解決につなげるのが、地域循環共生圏の一例と言えます。

◆これは真庭市に広い山林があるからできたわけで、よそではできないのでは?

 確かに真庭市は元々林業に加えてそれを加工する建材メーカーも市内にあります。地域循環共生圏は「それぞれの地域ならではの資源を生かすこと」がポイントなので、別の地域ではまた適した方法も異なります。
 そこでもうひとつ、酪農をベースにした取り組みもご紹介します。 【VTR】

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 北海道十勝地方の鹿追町。人口は5千人台に対し牛がおよそ3万頭いる酪農・畜産の町です。ここでは悪臭の原因になると厄介者扱いされていた牛の糞尿を回収し、町の施設で発酵させてメタンガスと肥料を作っています。このメタンガスで発電して電力を売っているのは真庭市と共通ですが、その際の余熱も利用しています。例えばキャビアが取れるチョウザメの養殖、南国の果物マンゴーのハウス栽培も始めています。
 さらに3年前、国の実証事業としてメタンから水素を作るプラントを稼働しました。まだ試験的な運用ですが牛1頭分の糞尿から燃料電池車1台分の燃料になる水素ができるとわかり、将来的には「二酸化炭素排出ゼロ」の水素社会につなげていくことも期待されています。
 水素は燃やしても二酸化炭素を出さない燃料として温暖化対策で注目され、水素で走る燃料電池車はエコカーの中で電気自動車と比べると航続距離が長く、燃料の充填に時間がかからない、といったメリットがあります。現在は水素を充填できるスタンドがまだ全国で100カ所程度と少ないですが、鹿追町の様に地域で廃棄物などから水素が生産できるところが増えていくと、まだまだ先の話と思われていた水素社会が近づいてくるかもしれません。

◆こうした取り組みが広がる上で課題は?

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 一番はやはり経済面で持続可能にできるかだと思います。真庭市も鹿追町もランニングコストでは黒字にできているそうですが、最初の立ち上げは国や県・道などの補助金が欠かせませんでした。そういう意味でやはり背中を押す仕組みは必要でしょう。また再生可能エネルギーでの街作りをする場合は、固定価格買い取り期間が20年と決まっているので、それが終わった後も続けられるか?コストダウンやその後の電力の活用法なども課題です。
 一方で売電だけで黒字にならなくても、こうした取り組みによって廃棄物処理の負担が減ったり地元の雇用や環境保全などメリットは大きいとも言われます。
 実現に向けて重要なことは、それぞれの地域で生かせる資源は何か?気がつけるか、ではないでしょうか。未利用の木材や牛の糞のように、これまで無駄になっていたり厄介者と思っていたものに実は価値があるかもしれません。だからこそ、知恵を出し合って、今後の地域社会のヒントになっていくことが望まれます。

(土屋 敏之 解説委員)

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