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「知っていますか?『ソーシャルファーム』」(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

障害者や引きこもりだった人など働きたくても働く場所がなかなか見つからないという人を受け入れる“ソーシャルファーム”がいま注目されています。

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(“ソーシャルファーム”とは)。
Q)“ソーシャルファーム”という言葉、始めて聞きました。

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A)聞いたことがないという方も多いと思います。社会的企業と訳され、ヨーロッパを中心に広がっています。障害者など一般企業での就職が難しいという人を雇用しほかの従業員と一緒に働くところで、いわば社会に貢献する役割を担う企業や団体のことです。ヨーロッパでは、例えば会計事務所やレストラン、農場など業種は様々で、企業やNPO法人など運営主体も多様です。ここでは、▽通常のビジネスを行って利益を上げることを目指し、▽働く人は雇用契約に基づき最低賃金以上が保障されます。この“ソーシャルファーム”の創設を進めていこうという条例が12月18日、全国で初めて東京都議会で成立しました。

(ソーシャルファーム条例とは)。
Q)条例もできたんですか。どのような内容なのですか。

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A)就労困難者、つまり働きづらさを抱えている人を相当数雇用して、他の従業員とともに働いている企業をソーシャルファームとして認証して財政的な支援をしていくとしています。

Q)働きづらさを抱えている人というのは具体的にどのような人なのでしょうか。

A)それはこれからつくる指針で定めるということなんですが、障害者やひきこもりの人、病気のためいったん職場を離れた人、ひとり親、刑務所から社会に戻ってきた人など様々な人が想定されると思います。

Q)条例ができることで何が変わるんでしょうか。

A)いま、国の制度は、障害者は障害者、高齢者は高齢者と就労支援も縦割りで包括的な支援になっていません。その壁を無くすことは働きづらさを抱えている人の選択肢を増やすことにつながると思います。条例ができた背景には働く場が見つけられないために社会から孤立してしまっている人が少なくないという問題があります。何らかの働きづらさを抱えている人は1500万人以上に上る(日本財団)という試算もあります。こうした人たちにとって雇用の機会を得るということは、単に賃金を得るだけでなく、生きがいや、社会貢献、健康づくりや人とのつながりを持つことにもつながります。だからこそ、“ソーシャルファーム”をつくろうという動きが出てきているのだと思います。

(“ソーシャルファーム” 海外事情)。
Q)そもそも“ソーシャルファーム”の考え自体はどこから出てきたのでしょうか。

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A)“ソーシャルファーム”発祥の地はイタリアです。1970年代に精神科に入院していた患者が退院した後、自立して生活できるよう地域で住民と一緒に働く場所をつくろうということで始まったんです。“ソーシャルファーム”を広げようという活動を日本で行っているソーシャルファームジャパンによりますと、その後、ドイツやイギリス、オランダなどに広がりヨーロッパ全体では1万社ほどが設立され、韓国でも2006年に制度ができたということです。こちらオランダの椅子を修理する会社では、従業員の3割は障害者です。ライバルの一般企業と競い合っているということです。200社ほどの“ソーシャルファーム”があるオランダでは、自治体からの助成や優先的に発注を受けるしくみがあるということです。そして、こちらはドイツの“ソーシャルファーム”が経営するホテルです。受付やベッドメーキングを障害者が担います。“ソーシャルファーム”のホテルだからと出張先として契約している企業もあるそうですが、多くの人は“ソーシャルファーム”かどうかに関係なくサービスが気に入って選んでいるとのことです。ドイツ国内には700社ほどの“ソーシャルファーム”があり、設立する際にかかるコンサル料などに対して国からから補助金が出るほか、ホテルを利用する際、消費税にあたる付加価値税が低く抑えられ、利用者を誘導するしくみも設けられています。このほか、3年間は人件費についても支援が行われるということです。

Q)自治体などから手厚い支援があるということですが、それだけで経営が成り立つわけではないんですよね。

A)例えばドイツでは事業が軌道に乗るまである程度手厚く支援するけれどもそこからは自立してがんばってくださいということなんですね。ソーシャルファームにとっては価格や品質、サービスの内容で勝負していく必要があります。厳しいですが、うまくいくと働く人の賃金を上げることができ、働く人にとってはそれがモチベーションにもつながります。

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社会福祉法人済生会とソーシャルファームジャパンの理事長を務める炭谷茂さんによりますと、「働きづらさを抱えた人を社会から切り離して支援するのではなく、社会の中に取り込んで支援し、働くことによって社会にも貢献してもらうという考え方が根付いている」と話します。

Q)日本でも根付くんでしょうか。

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A)実は国内でも“ソーシャルファーム”と似たような取り組みをしているところもあるんです。NPO法人が経営する東京・八王子市の農場では春の七草やしいたけなどの野菜を栽培しています。もともとは障害者の働く場をつくりたいと家族が設立しましたが、いまでは、障害者だけでなく高齢者や働きづらさを抱えている人が一緒に働いています。こちらでつくった野菜は、ショッピングモールなどで販売されるほか、NPO法人が経営するレストランの材料としても使われています。農薬を使わないで栽培された野菜を目当てに訪れる、“リピーター”のお客さんもいます。

Q)レストラン、人気のようですね。

A)利用者にとっては安心して選べるいわばブランドになっていると感じました。
こちらのNPO法人は農場や、レストラン、カフェや、公園の清掃を行う事業所などを運営していて、そこで障害者や引きこもりだった人、刑務所から社会に戻ってきた人や高齢者などが一緒に働いています。複数の事業を連動して行うことで雇用の場を増やすことができたといいます。ですが課題もあるといいます。

Q)どのような課題ですか。

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A)やはりビジネスを軌道に乗せ、利益を上げていくのは簡単ではないといいます。そして、ここで働く人は仕事を始めてすぐにスムーズに働ける人ばかりではありません。休みがちになったり仕事に慣れるまでに時間がかかったりする人もいます。その分、手厚いサポートも必要になってきます。NPO法人では障害者を雇用していますので、障害者の就労支援の枠組みをつかって国から給付金を受け取れることができ、それで何とか事業をまわしているのが現状です。

Q)雇用の場を確保するだけでなく、どう事業を継続していくかが課題なんですね。

A)そうですね。そのためには魅力的な商品開発や販売方法にも工夫が必要で、そのための人材育成も欠かせません。そして社会全体でもこうした活動に価値を見出し、支援していくことが必要です。“ソーシャルファーム”のように、働きづらさを抱えた人を雇用し、社会に取り込んでいく重要性は増しています。全国で初めての条例もできました。今後、“ソーシャルファーム”が広がっていくのか注目したいと思います。

(堀家 春野 解説委員)

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