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「気候変動に立ち向かう支援を」(くらし☆解説)

出川 展恒  解説委員

年の瀬を迎える中、世界の災害被災地や紛争地で暮らす人々は、非常に苦しい生活を送っています。そして、今、NHKと日本赤十字社の「海外たすけあい」が行われていますが、今年は、気候変動に立ち向かうための支援にも取り組んでいます。出川展恒解説委員です。

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Q1:
今年は、世界的に気候変動の問題が関心集めていますね。

(出川展恒 解説委員)
A1:
はい。今、ちょうど、地球温暖化の問題を話し合う国際会議COP25が開かれていますが、温室効果ガスによって、地球の平均気温が上昇し、今後、極端な気象現象が増えてゆくと考えられています。

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今年の「海外たすけあい」は、すでに起きた災害の被災地に食料や物資を届ける従来型の支援に加えて、気候変動の影響で、これから起きる恐れのある災害に、あらかじめ備える支援にも、力を入れています。できるだけ被害を減らし、速やかに復興できるよう、現地の人々やコミュニティの力を養う、長期的な取り組みです。

(岩渕)
Q2:
なるほど。でも、気候変動は地球規模で少しずつ進みますから、どこから手をつけていいか、難しいですね。

(出川)
A2:
そうですね。日本赤十字社では、ひとつのモデルケースとして、アフリカの国、ルワンダでの防災と減災に取り組み始めました。

(岩渕)
Q3:
ルワンダですか。

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(出川)
A3:
はい。アフリカ大陸の中ほどにある小さな国で、人口は1200万人あまり、今から25年前、民族対立が原因で、80万人以上が虐殺の犠牲になるという悲劇を経験しました。
内戦終結後、首都キガリなどでは、「アフリカの奇跡」と呼ばれる、目覚ましい経済発展を遂げる一方、国民の半数近くは、依然として、いわゆる「貧困ライン」以下の生活で、大きな格差が広がっています。農村部はインフラが整備されていないので、気候変動による災害の被害を受けやすいとされています。近年、豪雨が相次ぎ、洪水や地滑りで、家や畑が流されたり、農作物が育たなくなったりして、食料不足が深刻です。最も深刻な影響を受けるのは子どもたちで、栄養失調になったり、マラリアや下痢など感染症にかかったりしています。

(岩渕)
Q4:
そういう厳しい現状に対して、日本赤十字社では、どんな支援計画を立てているのですか。

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(出川)
A4:
ルワンダ南部の貧しい5つの村を対象に、今後、5年間で総額およそ1億円をかけて支援事業を行う計画です。この秋、日本から職員が出向いて、まず、現地調査を実施しました。気候変動による災害は、人命を奪う人道危機に直結しますので、防災、減災、災害からの立ち直りなど、あらゆる角度から対策を立てることが必要です。具体的には、次の4項目で、それぞれ「海外たすけあい」の募金が使われます。

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▼まず、防災では、急斜面の土地に「テラス」と呼ばれる段差を設ける工事を行います。斜面に、雨水を逃がすための溝を掘り、その周囲に木を植えて、地盤を固め、大雨が降っても、地滑りが起きないようにするしくみです。住民たちを動員して、力を合わせてテラスをつくり、賃金も払われます。これまで、住民たちが、薪をとるため、無計画に木の伐採を行ってきたことも、地滑りの原因となってきました。植林によってそれを食い止めるとともに、地球温暖化を防ぐ意味合いも込められています。

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▼次に、住民による食料生産です。個人で畑を持つことができない貧しい農家のため、赤十字が土地を購入し、そこを地元住民が共同で野菜や果物を栽培したり、家畜を育てたりして、食料を自ら生産し、現金収入を得られるようにするのです。写真は、村の女性たちが、共同でナスを栽培している場面です。一般的に、貧困家庭は、安全確保に気を配るゆとりがなく、災害の被害をもろに受けやすく、立ち直りにも時間がかかるとされています。

(岩渕)
Q5:
防災と貧困対策には、関連性があるわけですね。

(出川)
A5:
はい。日々の生活のことで精いっぱいでは、とても、まさかの自然災害に備えようという気持ちにはなれません。安定した収入があって初めて、災害への備えについて考えるゆとりも生まれるわけです。

▼次に、保健・衛生面の対策です。大雨による災害時には、感染症が広がり、大勢の人々の命が危険にさらされます。このため、衛生環境を整えることが必要です。トイレを整備すること。手を洗うこと。安全な飲み水を確保することは、その基本です。
対象となる村には、このような給水タンクと水道施設を、地元の人々の力で設置する計画です。山の湧き水を貯めて、供給するしくみです。この村、以前は水道がなかったため、女性や子どもたちが、家から水汲み場まで、毎日、何度も水を取りに行かなければなりませんでした。

(岩渕)
Q6:
毎日利用する水道を、自分たちの手でつくることで、保健衛生に対する意識も生まれてくるわけですね。

(出川)
A6:
そうです。住民自らの力で生活基盤を整備する。自分たちの命は自分たちで守る、という意識を大切にしています。

▼その意味で、教育・啓発活動も重要です。防災や保健・衛生に関する広報映画の上映会を各地で開いています。ここでは、エボラ出血熱にかからないようにするには、
どんなことに注意すれば良いかを、住民がアニメーション映画で学んでいます。ルワンダの赤十字社が、地元住民のボランティアを募って、こうした支援活動を展開しています。あくまで地元の人々が主役です。

(出川)
また、気候変動がもたらす災害にどう立ち向かうかという課題では、支援する側も、学びの機会が必要だと思います。今回の「海外たすけあい」に関連する行事として、先週、東京都内で、子どもたちを対象にした「ワークショップ」が開かれました。

(岩渕)
Q7:
それは、どんなイベントですか。

(出川)
A7:
気候変動の影響で、ルワンダで起きている災害や人道危機について、小学校高学年の児童20人が、4つのグループに分かれ、ルワンダの人々になりきって討論を行い、支援の進め方について発表するというものです。もし、村が集中豪雨に見舞われたら、どんな被害が起きるか。被害にあった人々のために、何ができるか。想像力を巡らせて討論し、まとめた案を、みんなの前で発表します。

(参加した児童)
「世界には大変な問題を抱える人たちがいることを知りました。大変、大変って、みんなで考えて、一生懸命行動すれば、そういう人たちを救えると感じました」。

Q8:
日本にいる私たちが、海外の紛争や災害の現場にいる人たちを想像して、募金することで、その人たちを支えることができるのですね。

(出川)
A8:
はい。長年にわたる戦争や紛争に苦しむアフガニスタンでも、今、気候変動による干ばつが非常に深刻になっています。日本赤十字社は、来年度から、アフガニスタン北部の5つの州で、干ばつの被害から人々の命と暮らしを守る支援活動を行う計画です。干ばつが起きると、土地や水の争いなど、紛争の原因にもなりやすいのです。

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先日、武装グループに襲撃され亡くなった中村哲医師はこの問題に着目し、長年にわたって灌漑事業に取り組んできました。
私たち一般の市民が、紛争地の災害現場に入って、活動するのには危険がともない、多くの困難があります。

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ですから、赤十字などの機関やNGO、そして、地元の人々の取り組みを資金の面で支えることも大切だと思います。NHKと日本赤十字社の「海外たすけあい」、今月25日まで行われます。

(岩渕)
「NHK海外たすけあい」の問い合わせ先は、ご覧の通りです。「くらし☆解説」、出川解説委員でした。

(出川 展恒 解説委員)

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