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「どうする?所有者不明の土地 新たな対策は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

今回は所有者不明の土地についてです。
国の法制審議会は所有者の所在が分からない土地への対応策や防止策の検討を進めていて、先週、中間試案がまとまりました。
私たちの暮らしにも関係する内容を、事例として紹介します。

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【法制審議会の中間試案とは】
Q:所有者不明土地は、この番組では何度か紹介しています。今回はその対策が示されたということでしょうか。

A:ただし今回示されたのは、「中間試案」という検討途中の案です。
「所有者不明土地」は長い間登記が行われないなどの結果、努力をしても現在の所有者の所在が分からない土地のことです。
そこまでいかなくても、皆さんの近所にも「住んでいたお年寄りが亡くなって、その後何年も敷地が放置されている。肉親はどこにいるか分からない」という土地があると思います。ごみの放置や防犯上で、困っている人もいるのではないでしょうか。

Q:空き家で荒れたままの土地ってありますね。

A:そのままにしておくと、新たな所有者不明土地になります。そこで国の法制審議会で今対応が検討されているんです。
検討項目は多岐にわたりますが、今回は中間試案の中でも、取材した内容も踏まえて、特に私たちの暮らしに関係しそうな内容を3つ、皆さんに「考えられる事例」として紹介します。

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ポイントは「“お隣”が不明土地になったら」「一部不明でも土地管理を」最後に「土地の放棄も可能に」です。

【お隣でがけ崩れや越境物も】
Q:隣の土地の所有者が分からなくなったら困りますね。

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A:例えば隣が崖になっていて、がけ崩れや土砂が流出していたら危険ですよね。現在は、所有者を探して、対策を求めるというのが基本です。

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しかし、今回の中間試案では、「現に利用されていない土地」について、自分の土地に損害が及ぶような場合などは、自らも予防の工事などができる、としています。
ただし、この場合は、事前に公告することや、危険が迫るなど緊急な事情があることなど、いくつかの条件があります。
また、工事費用を誰が負担するのかという課題もあります。この点はさらに検討が必要です。

Q:草とか樹木も伸び放題で困りますね。

A:特に木の枝が隣まで伸びた場合、本来は所有者に切ってもらうことになります。
しかし、所有者不明だと、法律上ではどこにいるか分からない所有者を相手に裁判を起こして確定した上で、民事執行という手続きを経て切り落とすことになっています。

Q:でも、枝を切るのにわざわざ裁判を起こしません。

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A:そこで、今回の中間試案では「所有者が不明、あるいは居場所が分からない場合」などは、境界線を越える樹木の枝は自分で切ることができるという案が示されました。こちらも複数の案が出されています。

Q:じゃあ、もし、柿の実がなって自分の敷地に落ちてきたらどうなるんですか。

A:現在は、所有者不明でも勝手に果実を自分のものにしてはいけないとされています。
ただ、これだと、枝は切ることができるのに、果実は落ちてきてもダメということになってしまいます。ですから中間試案では果実の扱いは「さらに検討する」とされています。

【お隣のライフライン工事も】
Q:お隣の人がいないって困りますね。

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A:さらに、こんな場合もあります。手前の土地に家を建てて水道を引こうと思いました。でも、所有者が分からない土地を通らないと、ほかの土地に囲まれて水道管を引くことができなかった場合はどうしましょう(導管袋地)。

Q:相手がいないから伝えることができません。

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A:今回の中間試案だと「所有者が不明、あるいは居場所が分からない場合も」工事を認めるとしています。ほかにも電気やガスなどライフラインが対象です。
ただ、他人の土地で工事を行うわけですから、あらかじめ「公告」という手続きを取る案などが示されています。具体的な方法はさらに検討が必要です。

Q:ご近所なので勝手に工事をして、後からトラブルになるのは、避けたいですね。

【管理人による管理制度も】
A:次に例えば、複数の人で同じ土地を持っているケースです。例えば、この私道を1つの土地として、3つの家の人が同じ割合で共有していた場合です。

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もし、1か所穴が開いていた場合、これは現状を維持する「保存」行為なので、民法上は1人の判断で補修できるそうです。
ところが、私道のあちこちに穴が開いてしまったとします。
私道を全部舗装しようとすると、これは土地の「管理」にあたるので過半数の同意が必要とされます。ところがこうだったらどうでしょう。

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Q:あら、3軒中2軒が所有者不明です。これだと過半数になりません。

A:でも穴がたくさん開いた私道を放置していると、誰かがけがをするかもしれません。

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そこで、中間試案では、必要があると認められれば、不明の所有者に代わる第三者の管理人を選任するという制度の案が示されました。裁判所に申し立てて弁護士などを選ぶことがイメージされているということです。そうするとこの土地も「管理」が可能になります。
ただ、管理人も第三者ですから、どこまでの権限を持たせるのかは、今後の検討課題になります。

【土地の放棄も認めるけれど・・・】
Q:そもそも所有者不明土地を生まないようにすることが必要ですね。

A:そこで、今回の対策の柱は、「土地の放棄」を条件付きで認めるという制度を示したということです。

Q:例えばこういう空き家を持っていて、もういらないから国にあげる、とすればよいのですか。

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A:そう簡単ではありません。
中間試案では、まず、建物は取り払わないといけません。それから、権利関係に争いがないこと、そして、あらかじめ不動産会社に相談するなど、土地を譲渡するための十分な努力が必要とされます。

Q:それで売れなかったら放棄できますか。

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A:いえ。ここからさらに公的な審査機関で審査して放棄を認可してもらうことが必要です。
これが認められても、放棄する際には、今度は国に「管理費用」を支払わないといけません。

Q:土地をあげるのに、お金も出さないといけないのですか!こちらがお金をほしいくらいです。

A:収める金額をどの程度にするかは今後検討されます。
ただ、こんな調査結果があります。全国市長会が自治体に土地の寄付について調査しました(調査対象数91都市・回答数81都市)。

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それによると昨年度62の自治体で寄付の申し出があったと回答しましたが、公共施設の用地取得に伴う寄付の事例を除くと、土地を受け取った自治体は調査対象のうち1つもありませんでした。
自治体にとっても、使い道のない土地は受け付けないことが多いんです。

それに、土地の放棄を安易に認めると、いらない土地だからと管理が行われなくなり、その後も放棄が相次いで国土保全にも支障が出てしまいます。

Q:そうなると困りますね。

A:自治体からすると適切に管理してもらわなければ地域の荒廃につながるという危惧もあるわけです。さらに放棄した土地をどう活用するかなど課題はたくさんあります。

【土地=「財産」でなくなる?】
Q:こうして見ると、新たな対策も課題が残っていますね。

A:日本では、土地というのは長い間「財産」でした。その前提がいま、場所によって変わろうとしています。
今回紹介した制度はまだ中間試案ですから、すぐにそのまま実現するわけではありません。
法制審議会はさらに議論を続けるほか、年明けからパブリックコメントを募集する予定です。今回紹介した中間試案の内容は、法務省の法制審議会「民法・不動産登記法部会」のホームページにある第11回会議分(12月3日開催)から見ることができます。
結論をまとめた上で、法務省は、来年の国会にも民法などの改正案の提出を目指したいとしています。
私たちの生活にも大きく関わるだけに、一般からの意見も聞いたうえで、活発な議論を重ねてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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