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「国際学力調査 気になる読解力は」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

OECD経済協力開発機構が世界各国の15歳の子どもの学力を測定した国際学力調査の結果がまとまりました。結果はどうだったのでしょうか。担当は西川龍一解説委員です。

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Q1.この国際学力調査、どういうものなのですか?

A1.この調査は、「PISA」と呼ばれるもので、各国で義務教育を終えた段階の15歳の子どもたちを対象にOECDが2000年から3年に1度行っています。前回からパソコンで受けることになりました。今回結果が公表されたのは、去年2018年の調査です。今回は、79の国と地域からおよそ60万人が参加して、「数学」「科学」「読解力」の3つの分野を測定しました。日本では、今の高校2年生が1年生の時に受け、およそ6100人が参加しました。

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Q2.結果はどうだったのですか?

A2.大ぐくりで言うとこちらの2点になります。
「数学・科学は引き続きトップレベル」「気になる読解力」

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Q3.まず、「数学・科学は引き続きトップレベル」ということですね?

A3.点数を見ますと、「数学」は527点、「科学」は529点でした。点数は各国の調査結果を比較するためOECDが平均点を換算して発表しています。全体の順位では、数学は6位、科学は5位といずれも順位は下がったものの依然、トップレベルとの判定で、OECD加盟国だけでみると数学は1位、科学は2位でした。数学・科学については、日本は調査が始まった当初からトップレベルを維持しています。特に日本の場合は、ほかの国や地域と比べて低得点層が少なく、高得点層が多いのが特徴です。日本の学力を下支えしていると言われる小中学校での教育は、国際的に高い評価を受けてきましたが、それが維持されていることを示す結果と言えます。

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Q4.一方で「気になる読解力」ということですが?

A4.元々日本の子どもたちには、読解力に課題があるとされていて、前回の調査でも順位を4つ下げて8位でした。そのため、今回の結果がどうなるかは、教育関係者の間でも大きな関心を集めていた経緯があります。気になる読解力の結果は、504点。順位は15位となり、さらに7つ下がりました。

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Q5.それはちょっと心配になりますね。何か原因があるのですか?

A5.順位は落としたものの、OECDは、読解力そのものは高い水準にあるとしています。上位3位は、中国の北京、上海、江蘇、浙江(こうそ・せっこう)の4つの地域が1位、シンガポール、マカオが続きます。必要以上に順位に一喜一憂することはありません。ただ、読解力に課題があるのは、日本の教育システムそのものが、読解力が育ちにくいものになっているからだという指摘があります。日本の学校では、教科書を使って機械的に回答を導き出す方法を教えていくというのが一般的です。逆に言うと、教え方が正解を導く形から抜け切れていないというわけです。一方、読解力というのは、一つの文章を読んでもAという見方もあればBという見方もあるといった様々な考え方を許容することから身につくものとされています。たとえば今回の読解力の問題のうち、自由記述式の問題で、「自分の考えを他の人に伝わるような記述ができない」、「問題文から語句を引用するだけで、説明が不十分」といった理由で正答にならない例が多く見られたということです。

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Q6.コミュニケーションにも関わる問題ですね?

A6.読解力に関しては、さらに気になる結果がありました。PISAは、前回2015年の調査から、紙を使う従来型の調査から、すべてパソコンを使ったものに切り替えられました。日本の学校のテストではあまり経験がない形式です。
今回公表された「読解力」の問題を見てみましょう。モアイ像で知られるイースター島について書かれた大学教授のブログと本の書評、科学雑誌の記事の3つの異なる文章を読み比べ、島から大木が消滅した原因について、資料から根拠をあげて記述するよう求めています。
さらに、パソコンを使ったテスト形式の特性を生かす形で、「オンラインで情報を探し出し、その情報を評価し、それを元に考える」といった問題が出されました。
その中で、「必要な情報がどのサイトに記載されているか推測し探し出す」という問題や「情報の質と信憑性を評価して自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する」という問題の正答率が、OECD加盟国平均と比べて低かったのです。ネット時代と言われて久しいわけですが、そうした中では日々、我々は必然的に多くの情報と接するため、必要な情報を探し出し、情報の信憑性を判断する能力を育むことが生きていく上でも不可欠です。今回の結果は、奇しくもそうした力が十分育まれているとは言えないことが示されたことになったわけです。

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Q7.ネットの正しい使い方を身につける必要がありそうですね?

A7.PISAでは、生徒のデジタル機器の利用状況について尋ねる調査も同時に行われています。ここでも日本の生徒にはかなり気になる結果が出ているんです。
学校外で平日、どのように利用しているかを見てみると、日本の生徒は、毎日またはほぼ毎日「ネット上でチャットをする」が87.4%、「1人用ゲームで遊ぶ」が47.7%で、いずれもOECDの平均より20ポイント高くなっています。特に、ネット上でのチャットは、6年前に比べて60.5ポイント増えていて、SNSの普及に伴って若年層に急激に利用が広がってきたことがうかがえます。
一方で、「コンピュータを使って宿題をする」「学校の勉強のためにインターネットのサイトを見る」といった勉強にデジタル機器を利用するという生徒は3%から6%程度でほとんど活用していないことがわかりました。OECD平均は20%程度です。これはそもそも学校の授業でデジタル機器をあまり活用していないことが要因と見られていて、同じ調査の中で、80%の生徒が学校の授業ではデジタル機器を利用しないと回答しています。

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Q8.文部科学省はどう受け止めているんですか?

A8.来年度の小学校、再来年度の中学校と順次実施される新しい学習指導要領で導入される子どもたち同士が自ら主体的に話し合いながら探究するアクティブラーニングという新しい形の授業や小学校でのプログラミング教育などを通して教育の質の向上に取り組んでいくとしています。また、小中学校では1人1台のパソコンが使えるようにするなど学校のICT環境の整備を急ぐ方針です。この点は、政府の新たな経済対策の中で、児童生徒に1人1台のパソコンの配備を目指すことが盛り込まれ、追い風です。しかし、いわゆる「ゆとり教育」から「脱ゆとり教育」へと日本の教育政策が大きく転換した中で、文部科学省が継続的に力を入れてきたのが「読解力」の育成でした。今回はその成果が見られなかったということになりますから、パソコンの配備で終わるのはなく、それをいかに「読解力」の育成につなげるかが重要ですし、これまで育成できなかった要因をしっかり分析する必要があります。

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「読解力」の育成には時間をかけた取り組みが必要です。学校の働き方改革が待ったなしの状況の中で、現場の負担を増やすことなく課題を克服するにはどうするのか、今回の調査結果は、学校の持続に関わる大きな課題を突きつけています。

(西川 龍一 解説委員)

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