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「早く始まったインフルエンザの流行 対策は?」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

2019年もインフルエンザの感染に注意が必要な時期になりました。国立感染症研究所は、「全国的にインフルエンザの流行に入った」と発表しました。今回は「早く始まったインフルエンザの流行 対策は」というテーマです。

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◇インフルエンザの2019~20年シーズンの流行入り
国は、全国5000の医療機関を対象に、インフルエンザと診断された患者の報告数を1週間ごとにまとめています。1つの医療機関あたりの患者報告数が平均「1」を超えたら、「全国的に流行入り」となります。

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図中の赤線が2019~20年シーズン、他の折れ線は、過去9年間の推移です。右上が拡大図です。19~20年シーズンは、立ち上がりが早いことがわかります。全国的な流行入りの時期は、新型インフルエンザが発生した2009年以降では最も早く、平均すると1か月ほど早いことになります。11月10日までの週に「1」を超えました。
しかし、よく見ると、9月の時点で一度「1」を超えています。このとき、実は沖縄県で感染が広がっていました。沖縄県の値は「50」を超えていましたの、全国の平均を大きく引き上げたのです。このため、9月は全国的な流行とはならず、11月に全国的流行に入ったとされました。

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流行入りが早まった要因のひとつに、このころ東京都でも患者の報告が比較的多かったことがあげられています。東京は、全国各地と人の行き来が多いので、東京都から全国にウイルスが広がった可能性があると考えられています。

◇この後の流行状況は
今後を推測するのは難しいです。ただ、気になるのがここ2シーズン続けて、下の図のピークが高くなっている点です。

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このピークは、統計を取り始めた1999年以降、2018~19年シーズンが最多で、その前のシーズンが2番目となっています。
インフルエンザのウイルスは、大きくA型の「H1」と「H3」、それに「B型」に分類されますが、2018~19年シーズンは、A型の「H1」と「H3」の流行が重なって、ピークが高くなったと考えられます。その前のシーズンは、いつもはシーズン後半に多くなるB型のウイルスの患者が当初から多かった上に、「H1」と「H3」が同時流行するなどしたため、ピークが高くなったと考えられています。
今シーズンは、これまでのところ「H1」のウイルスが中心で、複数の流行が重なってはいません。
今後、状況が変わることも考えられるので、注意してみていく必要があります。

◇治療薬ゾフルーザと耐性ウイルス
今シーズンは、治療薬で注目されている点があります。

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治療薬には、飲み薬の「タミフル」、吸入するタイプの「イナビル」などがあります。このうち、「ゾフルーザ」という薬は、日本の製薬会社が開発しました。本格的に使われだしたのは2018~19年シーズンからですが、一気に40%近くと多く使われる薬になりました。
ゾフルーザは、「何日も薬を飲み続ける」というのではなく、「診断後、1回飲むだけでよい」という特徴があります。
ただ、薬を飲んだ患者の体の中で、ウイルスがゾフルーザに耐性を持ったもの、つまりゾフルーザが効きにくい、あるいは効かないウイルスに変化しやすいのではないかと懸念されています。

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耐性ウイルスについては、国立感染症研究所や開発した製薬会社が調べています。昨シーズンは、見つかっていますが、今シーズンは、これまでのところ報告されていません。
タミフルなど他の薬でも、患者の体でタミフル耐性のウイルスができることがあります。

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耐性ウイルスが現れた場合、薬で治療することはできなくなるのでしょうか。
仮に、ゾフルーザ耐性のウイルスに感染した場合、タミフルなどの薬が効くとみられています。一方、タミフルなどに耐性を持つウイルスに感染した患者には、ゾフルーザが効果があると期待されます。
ゾフルーザは、タミフルなど他の薬と作用の仕方が大きく違うため、こうしたことが可能と考えられています。
仮にゾフルーザに耐性があるウイルスが広がるようなことになると、インフルエンザの患者に、ゾフルーザが有効に使えなくなる恐れがあります。
これまでのところ、そうした状況になっていません。
ただ、インフルエンザは常に性質を変えています。将来、そのようなことにならないために、耐性をもったウイルスができないようにしておくことが大切です。

◇耐性ウイルスの対策
耐性ウイルスがでないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。

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ゾフルーザについては、12歳未満は耐性ができやすいとされています。日本感染症学会は、2019年10月に提言を発表し、12歳未満の小児に対しては、慎重に投与を検討するよう求めています。

タミフルなどについても耐性が起きないよう、私たちも注意が必要です。具体的にはどうすればいいのでしょうか。
例えば、薬を5日分出されたら、症状が治まっても、最後まで医師の指示通りのみ切ることが大切です。熱が下がったということで、薬をのむのを途中でやめると、体の中で耐性を持ったウイルスが増えてしまうことがあります。
また、薬をのんでもなかなか効果が現れない、症状が長引くといった場合、ウイルスが耐性を持ったためかもしれませんから、医師の診察を受けて、よく相談してほしいと思います。

◇インフルエンザの対策としての予防
インフルエンザを予防するには、手洗いやうがいといった基本的なことのほか、予防接種をしてほしいと思います。
インフルエンザのワクチンというと、2017~18年シーズンにワクチンの製造が遅れて医療機関でワクチン不足し、問題になりました。2019~20年シーズンは、厚生労働省によると供給量が確保されているということで、そうした心配はなさそうです。
このほかには、加湿器などを使って部屋の湿度を50%~60%程度にしておくと、気道の粘膜の状態を保って、予防に役立つとされています。

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インフルエンザにリスクがある人は、特に注意が必要です。リスクの大きい人としては、高齢者や子ども、持病のある人などがあげられます。
このうち、高齢者のいる施設では、2018~19年シーズンに集団感染で死亡するケースが相次いで問題になりました。
働いている職員が自分の健康管理を徹底して、ウイルスを施設に持ち込まないようにすること、さらに日ごろの予防や患者が発生した時の対応などについて相談できる専門家と連携する体制を作っておくことも大切です。
2019~20年シーズン、インフルエンザがどういった流行になるのか、わかりません。
ここ2年ほど、患者数のピークが高くなるような感染が起きていますから、今後とも流行の規模や地域での感染の広がり方を確認しながら、対策を進めていくことが大切です。

(中村 幸司 解説委員)

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