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「より速く より高く より遠くへ パラ陸上世界選手権」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

より速く、より高く、そして、より遠くへ…。パラリンピック競技のなかでも屈指の人気を誇るパラ陸上。その世界選手権が11月7日から中東・ドバイで開幕します。

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【パラ陸上世界選手権とは】
Q.今日から開幕するパラ陸上の世界選手権、どんな大会なんでしょうか?

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A.パラ陸上の世界選手権は国際パラリンピック委員会が創設した大会で、1994年のベルリン大会が始まりです。当初は4年に1度でしたが、2011年からは2年に1度開かれており、今回が9回目。世界一を決める大会ですが、今回は東京パラリンピックの出場権もかかっているため、過去最高のおよそ120の国と地域から、1400人以上の選手が出場します。日本からは43人が参加。4位以内で内定を勝ち取ることができます。

Q.パラ陸上ですが、どんな種目があるのでしょうか?

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A.基本的には一般の陸上の大会と一緒で100mや400m、5000mなどのトラック競技。走り高跳びや走り幅跳び、やり投げなどのフィールド競技があります。そのなかにはパラ陸上でしか見られない「こん棒投げ」もあります。大きな違いを挙げるとしたら種目の数が圧倒的に多いことです。今回のメダルイベントは172に上ります。

【障害の種類や程度によるクラス分け】
Q.具体的には?

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A.たとえば100m。100mのメダルイベントは33あります。出場できるのは、手や足などに障害のある運動機能障害の選手と視覚障害の選手です。運動機能障害といっても、手に障害があるのか、足に障害があるのかといったことや、もっと細かく言えば、膝があるかないかでも分けて競技を行う必要があります。その結果、そうした「クラス分け」をパラ陸上ではアルファベットと数字で表しています。

Q.どんな風に表すんですか。
A.たとえば、こちらのT52で説明します。アルファベットは競技の種類を表します。Tはトラック競技、跳躍競技。やり投げのような投擲競技はFを使います。そして、アルファベットの隣の数字は障害の種類を表します。この場合は5なので車いすを表します。その隣の数字は障害の程度を表します。車いすの競技では1から4で表記され、数字が小さいほど障害の程度は重くなります。この場合は2なので障害は重いことす。パラ陸上では種目によって知的障害の選手も出場でき、その場合のクラスはT20となります。

Q.なかなか複雑ですが、覚えてしまうと楽しく観戦できますね。
A.ただ、そのクラスのなかでも、少しずつ使える筋肉が違うなど、誰一人同じ障害の選手はいません。選手たちは障害と向き合いながら、「創意工夫」をして記録を出しています。そして、その創意工夫に欠かせないものの一つが用具です。

【パラ陸上に欠かせない「義足」】
Q.用具といって思いつくのは義足ですね。
A.こちら、鉄道弘済会義肢サポートセンターからお借りした義足です。足の形をしている日常用。一般的な歩き方と同じで、かかとから踏み込んで歩けるようになっています。一方、競技用は足の先端部、いわゆる板バネと呼ばれる部分が、湾曲しているため、かかとは浮いています。この競技用義足、ちょっと力を岩渕さんに上から押してみて欲しいのですが…。

Q.びくともしないですね!たわむと思っていました。
A.炭素繊維強化プラスチック、いわゆるカーボンのシートを70~80枚重ねて出来ているですが、体重をかけてもちょっとやそっとではたわみません。通常、走るときには体重の2~3倍、跳ぶときには5~6倍の負荷が体にかかると言われています。当然ですが、選手はその負荷に耐えられる肉体になるようトレーニングをしなければなりません。加えて体に接するソケットの部分と板バネの部分をミリ単位で調整して競技に臨んでいます。義足の選手たちの世界記録が毎年のように更新されていることを考えると用具の進化も、用具と肉体との融合も発展途上と言えると思います。

【パラ陸上に欠かせない「車いす」】
Q.車いすも進化しているんですか?

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A.東京パラリンピックといまとを比べるとだいぶ違います。1964年のパラリンピック当時の最新モデルは、いまの日常生活用の原型になっていますが4輪です。一方、現在。流線型の3輪タイプでレーサーと呼ばれます。

Q.素材も違いますか?

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A.かつては鉄でしたが、いまは軽くて丈夫なアルミやカーボンなどが使われていて、かなり軽量化されています。特にカーボンは強度もあり適度にしなるため衝撃を吸収する特性があるため、世界のトレンドになりつつあります。そして、この開発をリードしてきたのは日本のメーカーです。ただ、開発競争は激化しており、リオ大会ではBMWが参戦。選手が受ける空気抵抗など科学的な分析をしたレーサーを作り上げ、このレーサーを見事に操ったタチアナ選手が金4つ銀2つとメダルを量産しました。

Q.タチアナ選手だけが最新のレーサーを使えたんですか?
A.いいえ、パラ陸上の用具は市販されていることが条件ですので、タチアナ選手だけが特別なものを使ったわけではありません。同じタイプの車いすでも勝てなかった選手もいます。スピードを出すためには、肉体の筋力を鍛えることはもちろん技術も要求されます。これは上半身を使える選手の一般論ですが、体重を乗せられるように上半身も使い、そして、ハンドリムを叩くようにして車輪を回転させます。こうすることで効率よく力を車輪に伝え、時速は最高トラックで30キロ。マラソンの下り坂だと70キロ出さるようになるんです。

【注目選手① 佐藤友祈】
Q.そんな選手たちが集まるパラ陸上世界選手権ですが、竹内さんが注目している日本の選手は?
A.男女一人ずつ挙げると、男子は車いすの佐藤友祈選手です。佐藤選手はT52という車いすのクラスで4つの種目で世界記録を持っています。佐藤選手の強みは抜群の集中力と、加速した後のスピードの維持です。これは地道に走り込みやウエイトトレーニングをしてきた結果です。今大会は400mと1500m、2つの種目で金メダルが期待されます。

【注目選手② 兎澤朋美】
Q.女子はどうでしょうか?
A.兎澤朋美選手、20歳です。若手の有望核筆頭の兎澤選手は⽚側に⼤腿義⾜をつけて競技するT63というクラスで走り幅跳びと100mに出場します。日体大に所属しており、一般の選手と切磋琢磨しながら、走力アップを図ってきました。その成果もあってか、走り幅跳びは世界ランク3位、100mでは世界ランク4位と急速に力を付けてきています。

【パラ陸上の展望】
Q.ライバルは、どこの国になるのでしょうか?
A.男子は群雄割拠ですがアメリカ、イギリス、ドイツ。女子は中国が強いです。また、ドーピングで今後どうなるか分からない有力国のロシアですが、今大会に出場の予定です。日本は、前回のリオパラリンピックで金メダルを逃していますから、ひとつでも多くの出場権を取るのが至上命題です。そして来年のパラリンピックを前に世界の実力が分かるのもこの大会です。それぞれが実力を発揮して、来年の試金石として欲しいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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