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「人生100年を支えるデジタルツイン『もう一人の自分』」(くらし☆解説)

竹田 忠  解説委員

人生100年時代、どんなに歳をとっても、
変わらないもう一人の自分がそばにいて、自分を支えてくれる。
そんなSFのような話しを実現しようという計画がスタートしました。
竹田忠解説委員です。

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【 “もう一人の自分”とは、具体的にどんな話し?】

もう一人の自分と言えば、我々の世代では、子供のころ夢中で読んだ藤子不二雄さんのマンガ「パーマン」に出てくる“コピーロボット”で決まりですが、
別にこのマンガのように、見た目そっくりな自分を作ろうというのではありません。
コンピューターのAI・人口知能の中に、自分のコピーを作っておく。
そうすれば、歳をとって一人暮らしになっても、そのAIが、
自分の大切な話し相手になったり、
また、体が弱った時は、自分のかわりに必要な情報を
まわりの人に伝えてくれる、というイメージなんです。
つまり、もう一人の自分としてデジタルツイン(双子)を作っておこう、
という話しなんです。

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【 “デジタルツイン”という言葉が、以前からあるの? 】

そもそもデジタルツインというのは、主に産業界で
最近使われている言葉です。
大規模な工場や複雑な生産ラインをそっくりコンピューターの中に再現して、
現実には影響が大きすぎてできない、いろんな動かし方をして、
事故や故障を未然に防いだり、
生産効率をあげるためのいろんなシミュレーションをする。
そういう手法をデジタルツインと言います。

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リアルなモノを、コンピューターの世界に
どんどん移し替えていくというデジタル化の波が
ついにヒトの世界にも押し寄せてきている、という感じです。

【 なぜ、ヒトの世界でデジタルツインを進めるのか? 】

一言でいうと、人生100年時代に備えるためです。
ヒトはこれからもっと長く生きる。
そうすると、どうしても一人暮らしの高齢者が増えます。
たとえば、政府の推計では、
高齢者のうち、一人暮らしの人の割合は、
男性が、2015年の14、0%から、2040年には20、8%に、
女性は、21、8%が、24、5%に増えます。

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これだけ大勢の人が一人暮らしになると、
地域のつながりや支え手が足りなくなってしまうおそれがある。
そういうとき、そばにもう一人の自分がいて、
支えてくれれば助かるのではないか、そういう発想なんです。

【 どうすれば、AIがもう一人の自分になれるのか? 】

そのためには、まず自分でAIを育てることが必要です。
今回始まったプロジェクトでは
持ち運びのできる、小型の専用端末の中に
AIの機能を収めることになっています。

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このイラストでは、わかりやすいように大きく書かれていますが、
実際はもっと小さなイメージで、
フタをパカッと開けると、
そこに自分の顔の画像が写されていて、
その自分と向かい合っていろんな会話をする。
するとAIがその会話の中から
その人の記憶や趣味、嗜好、価値観、生活環境など、
様々な情報を読み取って勉強していく。
こうしてAIが、どんどん自分に近づき、
本人そっくりのAI、つまり、もう一人の自分・デジタルツインが完成します。

先日、こうしたAIとのやりとりが疑似体験できる催しがありました。

《 VTR 》

先月開かれた、国内最大のIT見本市、CEATEC。
ここでデジタルツインの簡単なイメージが紹介されました。。
展示をしていたのは、プロジェクトの中心である
株式会社日本総合研究所と、その親会社の銀行です。
ここでは、デジタルツインのことをsubME(サブミー)、
もう一人の自分と名付けて
文字入力で会話しながら、育てていく様子が疑似体験できました。

ユーザーが学校の思い出について入力していると、
AIが、仲直りしたい人はいるの?と掘り下げたことを聞いてきます。
素直には答えられないユーザー。
その戸惑いを受け入れ、寄り添う姿勢さえ、AIは見せます。

▼(体験者インタビュー 中年男性A )
「ちょっとえぐられるというか。
いい感じの質問が来るので、ちょっとドキドキします。
一人暮らしの人とか、こういうコミュニケーションに飢えているのでは?
自分の親とか、使ったらいいんじゃないか」

▼(体験者インタビュー 中年男性B)
自分の家族に自分のことをすべて知ってもらっているわけではないので、
そういう意味では非常に面白いなと。

▼(日本総研 開発チーム 辻本まりえさんインタビュー)
「高齢者が自分の本心や悩みを一人でも語れる。
それこそがパートナーであり、デジタルツイン。
高齢者の方に自分の力で生きていってほしい」

【 デジタルツインの質問が、なかなか鋭いようだが? 】

そこなんですが、実はこれはまだ、開発中ですので、
実際のやりとりはまだ人の助けをかりてやっています。。
ただ、開発陣としては、このレベルの会話はぜひ実現させたいと。

そして、AIがこれから高齢者の人生を、支えていくには
三つの段階にわけて役割を考える必要がある、と開発側は言っています。

まずは、その人が元気な時。
日常の話し相手としてその人を支えて、
AI自身も知識を吸収していく。

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次は、その人の体が衰えたとき、
AIは、「杖を使って、自分でも歩いてみたら?」
「でも段差には気をつけて!というように
助言や励ましをして、
その人の健康が維持できるよう、支えます。

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最後に、その人の認知機能が低下したり、
意思の表明が難しくなった時。
デジタルツインは、
その人の代理人のような役目を果たして、
その人が日頃どういうことを希望していたかをまわりの人に伝えます。

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また、将来、もし、こうしたサービスが発展すれば、
いろんな期待も膨らみます。
たとえば、振り込めサギの電話を見破ったり、
自分から意思表示をすることが難しくなった場合、
デジタルツインが、病院側や家族に対し、
本人は最期は自宅で迎えたいと言ってました、と重要なことを伝えるとか、
いろんな期待も出てくると思います。

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【 便利な話しだが、どこまで安心して頼りきっていいのか? 】

それも重要な視点だと思います。
今後、もしこうしたサービスが普及するようになれば、
それはそれで、課題や懸念もでてきます。

たとえばデジタルツインが、その人の代理人として
重要なことを関係者に伝えるとき、
AIの話しを聞ける人をどう制限するか?
そうしないと、本人が望まない人に
重要なプライバシーがもれてしまうおそれがある。

また、本人が意思表明できなくなった場合、
AIが、以前、本人は終末期医療を受けたくない、と言っていました、
というふうに主張するかもしれない。
しかし、それはあくまで、以前、元気な時に言っていた話しであって、
それを今、どこまで本人の意見として尊重したり、重視すべきか、
これも難しい問題です。

そして最後は、本人が亡くなった場合、
デジタルツインをその後も残していいのかどうか?
たとえば遺族の中には、大切な家族のかわりに、
ぜひデジタルツインを手元に残してずっと会話を続けたい、
そういう希望が出るかもしれない。
しかし、今後AIが優秀になればなるほど、
まさにもう一人のその人としての存在感を持つはずです。
本人のいない世界で、もう一人の本人がずっと存在し続けることが
社会通念上、倫理上、どこまで許されることなのか?

例えばまさにSF的な発想ですが、
歴史上の人物がデジタルツインとして
多数存在し続けて、
メディアのインタビューで真実を述べたり
論争を展開したりして、
もう歴史がなりたたなくなるかもしれない。
そういうことさえ、空想でなくなるかもしれません。

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【 プロジェクトはいつ実現? 】

計画では
もう今年度末には限定的なサービスのテストをはじめ、
再来年の秋には事業を開始したいとしています。

とにかく重要なのは、人生100年、一人暮らしの高齢者をどう支えるか?
こうした新たな技術も含めた、安心な仕組みの検討を急いでほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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