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「米中摩擦で日中間の意識に変化」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

米中貿易摩擦が続く中で、中国と日本の人々がお互いにどう見ているか、意識の変化がみられることが、日中の共同調査で分かりました。神子田解説委員です。

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Q 神子田さん、米中摩擦で日中間お意識が変わるとありますが、まずこの調査、どういうものなのでしょうか?

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A これは日本のNPO「言論NPO」と、中国の外国向けの出版発行機関である「中国国際出版集団」が毎年行っているものです。
 9月に両国であらゆる世代を対象に行われたこの調査、日本では1000人、中国では1597人の有効回答を得ました。

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 その結果なんですが、まず中国人に日本に対しどのような印象を持っているかを聞いたところ、「良い」または「どちらかといえば良い」と答えた人が45.9%と去年よりも3.7ポイント増えて過去最高となりました。その一方で、日本人に中国に対しての印象を聞いたところ「良いまたはどちらかといえば良い」と答えた人は去年よりも増えてはいるものの、15%にとどまっています。

Q ともに改善ということですが、中国側の日本に対する印象が改善したのはどうしてなんでしょうか?

A 日中間では、首脳同士の往来が復活するなど政治的な関係が改善していることが大きいと思います。

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それと、きょうは調査結果を経済的な観点からもみていきたいと思うんですが、中国から日本を観光などで訪れる人は、年々増えていて、今年も9月までに740万人、去年の同じ時期に比べるとおよそ15%増えています。日本を訪れて日本の暮らしぶりなどをみた人が増え、日本に対する印象がよくなったということではないでしょうか。

Q 逆に、このグラフをみますと、日本からみた中国の印象はあまり改善していないようですが、これはなぜですか?

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A 印象が改善しないということは、何か悪いイメージがあるのではないか、ということなんですが、この調査で、日本人が中国によくない印象を抱いている理由を複数回答で聞いたところ、ごらんのような理由を挙げているひとが多くなっています。この中で去年よりもとくに増えたのがこれです。「共産党の一党支配という政治体制に違和感を覚えるから」。背景には、香港で続いている反政府デモに対して治安部隊にあたる武装警察を隣の広東省に待機させるなどの中国政府の対応ぶりなどをみて、自由な思想を力で抑えもうとするかのような中国の異質性が意識されたことがまずあると思います。それに加えて、私は米中貿易摩擦の影響もあるのではないかと考えています。

Q 貿易摩擦の影響とはどういうことでしょうか?

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A 米中貿易摩擦では、アメリカが中国に対してかかえている貿易赤字の問題に加えて、中国政府が国有企業に事実上の補助金を与えて外国企業との競争を不公正なものにしていたり、中国に進出した外国企業に対して、合弁相手の中国企業に最新技術を移転するよう強制している問題を改善するよう求めています。これに対し、中国側は共産党が経済までも統制する国家体制の根幹に関わる原理原則の問題では譲れないとし、アメリカの要求に応じようとしません。このように西側の自由主義経済体制とは異なる国家資本主義といった中国の異質性が貿易摩擦を通じて浮かびあがったことも、中国に対する印象の改善を鈍らせる一因となったのではないかと思います。

Q その米中貿易摩擦は中国の人々の日本に対する意識にはどのような影響を与えていますか?

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A はい。それに関しても気になる数字があります。こちらをごらんください。
日中関係は現在重要かと尋ねたのに対して、日本側は 重要であると答えた人の割合が去年よりも増えたのに対し、中国側は、去年よりも7ポイントも減りました。ではなぜ減ったのか。ヒントになるのが次の調査結果です。中国に、日中関係と対米関係、どちらが重要かと尋ねた質問に対し、対日関係が重要だと考えている人も増えてはいるのですが、対米関係が重要だと答えている人がより増えています。アメリカとの摩擦で中国経済が大きな打撃を受ける中で、アメリカとの関係の重要性が再認識される傾向があるのではないかとみられます。
ただ、これは中国のひとたちの意識が日本から離れていくということではないようです。

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こちらをごらんください。
中国の人に日本とアメリカどちらに親近感を覚えるかを尋ねたところ、日本のほうだという人の割合が去年にくらべて増えた一方で、アメリカと答えた人は減っています。

Q 日本への親近感は増しているということでちょっと安心しますね

A ただ、今後日中の経済貿易関係が拡大すると思うかという質問に対しては、拡大するという人の割合が、日中双方で減っています。

Q そう聞くとまた心配になってしまいますが、中国の人たちは日本との関係改善にむけて何を求めているんでしょうか?

A はい。中国はいまアメリカとの貿易摩擦で、経済が厳しい状況に追い込まれています。
そうした中で日本との経済面での協力を強化したいという思いがこれまで以上に強まっているようです。

 実は今年9月、日本の経済界のトップが北京を訪問して李首相らと会談した様子を取材したのですが、その際に象徴的な場面を目にしました。中国の工業情報化省との会談で、両国側からあらかじめ予定された経営者や政府の幹部が発言した後に、中国側から三人の担当者が質問をしたのです。

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どんな質問かといいますと、中国が世界をリードする次世代の通信規格5G,これは大容量のデータを超高速でやりとりできる技術なんですが、この技術を自動運転などに応用するための技術開発を、日中両国で推進できる可能性はないか、とか。日本が強みをもつ高画質が特徴の4K8Kの技術を各産業に応用する際の成功体験についてうかがいたいといった、非常に具体的なものでした。

Q ビジネスに直結する様な質問ですね。

A そうですね。私はこれまで何度もこうした日中間の会議を取材してきましたが、中国側の対応といえば、あらかじめ用意された原稿を読むだけで、どこか形式的な感じがしていたのですが、今回は違いました。日本の経済界との会議を、友好を確認するためのセレモニーに終わらせることなく、中国の経済発展にむけて具体的な果実を得る場に変えようとしていたよう意気込みが感じられました。

また、先週末には北京で、さきほど紹介したアンケートを行った「言論NPO」などが日中両国の有識者を集めたフォーラムが開かれたのですが、このの場でも、中国側からは、「日本はアメリカとの貿易摩擦にどう対応したのか」とか、「日本は金融改革をどう進めたのか」など、具体的なテーマで日本の知恵を借りたいという姿勢が目につきました。

Q 中国側は日本との関係強化にかなり熱心なようですが、日本側はどう対応すればいいんでしょうか?

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A 日本の経済界としては、巨大な市場をもつ中国でのビジネスの拡大を望んでいます。しかし中国では、さきほどお話ししたような技術の強制移転の問題や、知的財産権の保護が徹底していないこと、さらに現地で企業が守らなければならないルールが突然変わるなど、ビジネスを進めにくい環境がまだ残っているといいます。日本としては、政府や民間などさまざまなレベルで中国側に対しこうした問題の改善を求めていくことが必要です。米中貿易摩擦は日本経済にも影を落としていますが、日本は、アメリカとはもともと親密な関係にあり中国とも関係が改善しています。そうした立場を生かして中国に対しては、グローバルスタンダードに沿う行動をとるよう促してゆく。中国側に改善が見られれば、アメリカにそう伝える。そうしたいわば橋渡し役を果たすことで米中摩擦の緩和につなげていくことができるかもしれません。そうなれば、米中だけでなく、私たち日本の経済にもプラスに働くのではないでしょうか。

(神子田 章博 解説委員)

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