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「高まる関心 リチウムイオン電池」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

 スマホなどのモバイル機器になくてはならないリチウムイオン電池。その実用化に貢献をしたとして吉野彰さんが今年のノーベル化学賞に選ばれ、リチウムイオン電池への関心が高まっている。水野倫之解説委員の解説。

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今回受賞が決まったのは3人。

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リチウムイオン電池の特徴は軽くて小型でも容量が大きい点で、その基本原理を提唱したのがウィッティンガムさん。
その仕組みはプラス極とマイナス極の間は特殊な液体・電解質で満たされていて、充電や放電のときにはリチウムがイオンと電子に別れ、リチウムイオンは電解質を通って移動し、電子は電線を移動することで電流が流れる。この時リチウムの特性から高い電圧が得られることから、軽くても大容量の電池となる。ただその開発は困難の連続。

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繰り返し使うと電極に結晶がこびりついてショートする危険があり、安全な電極が必要だった。
このうち安全なマイナス極を開発したのが吉野さんだが旭化成の研究所に配属されて3回連続で研究が失敗。4つめのテーマで安全なマイナス極に使える材料にめどをつけたが、プラス極の材料が見つからなかった。年末の大掃除でたまたま机の上にあった論文を目にしたことから、道が開けた。

その論文こそ同時に受賞が決まったグッドイナフさんらの論文で、リチウムを使った材料が安全なプラス極になるという内容。
これだ!と思った吉野さんは、さらに研究を進め特殊な炭素が安全なマイナス極になることを発見。
1985年にリチウムイオン電池の原型の開発に成功。

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でも3人の功績だけというわけではない。特にグッドイナフさんの功績は東芝エクゼクティブフェローの水島公一さんの協力なしには成しえないもの。
東大の助手だった水島さんは1978年にグッドイナフさんに誘われ、電極の研究。最初に目をつけた硫黄の化合物を電気炉で実験していたところ爆発事故をおこしてしまい、硫黄をあきらめざるを得なくなる。

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ところがこれが吉と出た。
研究対象をより安全性が高いリチウムに変え、コバルト酸リチウムをプラス極に使うと安全な電池が出来ることを見つけグッドイナフさんらと論文を書き、それが吉野さんの目にとまった。

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なので水島さんの研究もノーベル賞級だが、ノーベル賞には一つの賞で3人という枠があって、こればかりはどうしようもない。
水島さんは「グッドイナフ先生が受賞されたことは大変うれしく、実用化に向けた研究の一部に関わることができ光栄に思います。」というコメントを発表。
ほかにも90年代初めに商用化に初めて成功した日本のソニーの当時の技術者、西美緒さんの功績も高く評価。このように多くの日本人の功績もあって今のモバイル社会があるということを強調したい。

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そしてもう一つ注目点は、今回ノーベル賞の選考委員会は、脱炭素社会を実現する技術としてもリチウムイオンを高く評価している点。不安定な太陽光などの再生可能エネルギーによる電気をリチウムイオン電池に貯めれば安定した電源として有効利用。走行中CO2を出さない電気自動車の動力源としても利用の拡大が見込まれ、世界のリチウムイオン電池市場は、2022年には7兆3900億円あまりに伸びるという予測も。でも万能ではなく、事故が増えていることも注目。

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特にスマホに充電するモバイルバッテリーの発火事故。電解質に燃えやすい液体が使われているため、異物が混入したり衝撃を与えると電極同士がショートし発火事故につながりやすい。
そこで国は今年から、安全基準を満たしたマークをつけていないモバイルバッテリーの販売を禁止。しかし燃えやすい液体の電解質を使っている限り、高温や衝撃による事故は避けられない。

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そこでリチウムイオン電池をさらに発展させ、より安全な次世代電池の開発が急ピッチ。
それがすべてが固体の全固体電池。材料開発に成功した東京工業大学の菅野了次教授を訪ね、実際に見せてもらったが、金属製の容器の中はすべて固体。

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その優れている点は熱や衝撃に強く安全だという点。容量がこれまでのリチウムイオン電池の3倍、充電にかかる時間が3分の1。
今リチウムイオン電池で走る電気自動車は、走行距離が短く充電に30分かかるのがデメリット。全固体電池が実用化すればデメリットを解消できると期待。でも固体の中をイオンを動かす点が最も難しく、菅野教授は40年近くひたすらイオンを通すことができる固体材料の配合。これまでに1000種類以上の固体電解質を作り、2011年に今のリチウムイオンと同じ性能にたどりつき、2016年には容量が3倍の電解質の開発に成功。

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その材料はリチウムと塩素ケイ素とリン、硫黄。その結晶の中のリチウムイオンの動きを見てみると、固体の中にリチウムイオンだけが通ることができる隙間、通り道が存在。この通り道を太くしてやることで、容量3倍、充電時間3分の1、しかも安全という材料が開発。まだ材料の基本が固まった段階で、量産可能な電池に組み上げなければ。2020年代前半に電気自動車へ搭載することを目指して、現在、国の研究機関や自動車メーカーが開発。
今のところ日本が世界をリードしていますので、実用化も日本が世界に先駆けることを期待したい。

(水野 倫之 解説委員)

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