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「外国人受け入れ拡大から半年 介護現場は?」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  解説委員

働く外国人の受け入れを拡大する、新たな制度がスタートして半年が過ぎました。受け入れは進んでいるのでしょうか。人手不足が深刻な介護現場の現状について、飯野解説委員です。

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Q1.介護の現場は、人手不足が深刻ですから、外国人への期待も大きいのではないですか?

A1.そうですね。これから介護を必要とする高齢者が増えるので、介護を担ってくれる外国人を増やしていかないと、現場が回っていかないという状況だと思います。そこで、今年4月に、受け入れを拡大するために、「特定技能」という新たな在留資格が設けられました。出入国在留管理庁によりますと、介護の分野で「特定技能」の資格が認められたのは、先月末時点で17人です。そのうちの1人を取材しました。

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フィリピンから5年前に来日して、大阪の特別養護老人ホームで仕事をしているロケ・カトリナ・レヘスさんです。10人のお年寄りが過ごすフロアーで介護を任されています。明るく前向きで、いつも気持ちに寄り添ってくれると、お年寄りからも信頼を寄せられています。

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レヘスさんはフィリピンで看護師の資格を持っていて、日本でも介護福祉士の国家資格を取ることを目指してきました。しかし去年と今年受けた試験に合格できず、今年8月には帰国する予定でした。5年の間に合格できなければ帰国するルールがあったからです。今回新たにできた「特定技能」の在留資格が認められて、仕事を続けられることになったのです。

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レヘスさんは、「仕事を続けられてうれしい。介護の仕事は大変だけれど、楽しい。ずっと日本で仕事を続けたい」と話しています。

Q2.レヘスさんは、特定技能が認められたから、帰国せずにすんだということですが、どういうことですか?

A2.介護現場では、これまでもあの手この手で外国人を受け入れてきたので、いろいろな形で仕事をしている人がいます。全体の大まかな枠組みをみながら、説明します。

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まず、レヘスさんが目指していた介護福祉士です。外国人でも国家資格をとって働いている人たちがいます。リーダー的な役割を担っていて、希望すればいつまでも日本で働くことができます。
レヘスさんは、EPAという政府間の協定によって来日しました。候補生とあるのはみんな介護福祉士の国家資格を目指して働きながら勉強しているからです。これまでは最長5年の間に試験に合格できなければ、帰国するルールでした。しかしせっかく勉強してきたのに帰国するのはもったいないという施設からの意見もあって、試験に合格できなくても、4年以上の就労経験があるなど一定の条件を満たせば、今年4月に始まった新たな特定技能に移れることになったのです。

Q3.だからレヘスさんは帰国せずにすんだのですね。

A3.はい。特定技能で滞在できるのは最長で5年、レヘスさんはこの間に介護福祉士の国家資格をとって日本で仕事を続けたいと話しています。
このほかにも、おととしから受け入れが始まった技能実習生も3年以上の経験があれば、試験を受けずに、特定技能に移れます。
これによって、最長で10年の間、仕事を続けられる人が出てくることになりました。

Q4.介護の分野で特定技能の在留資格を取得した人が17人いるということですが、
レヘスさん以外の人は、どんな人ですか?

A4.ほかの人たちもEPAで来日して、レヘスさんと同じように介護福祉士の試験に合格できずに特定技能に移ったとみられています。
さらに、海外からも受け入れるようと、フィリピンとカンボジアで特定技能の試験が始まっています。しばらくすると、試験に合格した人が、一定程度日本にやってくると思います。

Q5.介護に携わってくれる外国人が増えていくのは有難いと思いますが、心配なのは言葉の問題です。大丈夫でしょうか。

A5.そこが最も心配な点です。日本の介護施設の関係者からも、試験に合格してもどれだけ介護の仕事に対応できるか、コミュニケーションがとれるのかわからないと、戸惑う声がきかれます。

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日本語能力の試験は最も高いレベルのN1から最も低いレベルのN5まで5段階あります。試験はマークシート方式で会話力を測るものではなりませんが、私が話した感じだとN1レベルだと日本人と変わらない、N2レベルもスムースに会話ができますし、N3レベルだとゆっくり話をすれば会話は成り立ちます。N4レベルになると、ときどき「わかならい」という答えが返ってきて片言の日本語という感じでしょうか。N5はそれ以下です。
介護施設を対象にした調査では、仕事をする上ではN3以上の語学力が望ましいとする施設が大半です。
介護福祉士の資格を持つ人はN2レベル以上でしょうし、EPAの人たちも、施設で仕事を始める前に語学教育を受けているので、ほとんどがN3レベル以上です。ところが特定技能は、介護で使われる日本語などの試験もありますが、日本語能力はその下のN4レベル。3年以上の経験をつんだ技能実習生が移ってくる、一段上のレベルとされているのに、技能実習生と同じです。これに対して、日本語能力よりも、外国人の数を集めることを優先させているのではないかという専門かもいます。

Q6.でも日本語が十分理解できないままでは、心配ですよね。

A6.日本語能力のハードルを下げれば、日本に来る外国人は増えるかもしれませんが、介護の質が低下したり、一緒に働く日本人の職員の負担が大きくなって、離職したりする人が出ないか心配です。
食事の介助や薬の管理など、十分コミュニケーションがとれないと、命にかかわる事故にもつながりかねません。特定技能や技能実習で外国人を受け入れるというのなら、施設の側が責任をもって日本語を学べる環境を整えてほしいですし、国や自治体もそうした施設の取り組みを支援していく責任があるのではないでしょうか。

このように新たな特定技能を巡って不安もある中で、今、介護の現場で注目されているのが、介護福祉士を目指して、専門学校などで介護を学ぶ留学生です。

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介護福祉士を養成する学校に入学した外国人留学生の数を、日本介護福祉士養成施設協会が調査した結果をみると、今年度は2037人と急増しています。2年前に制度が見直されて、養成施設を卒業した外国人も、介護福祉士として仕事ができるようになったからです。
この留学生を支援することで、地元で働く外国人の介護福祉士を確保しようと、取り組みを始める自治体も出てきているのです。

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そのうちの一つ横浜市です。行政と介護施設、養成施設などが連携して去年から本格的に留学生の支援を始めています。
横浜市が協定を結んだベトナムの都市で、日本に来る前に日本語などの研修を行いN4レベルを目指します。日本に来てからは、日本語学校や専門学校で学ぶ間にN2レベルを目指してもらい、その間の学費の一部を市と介護施設が支援します。さらにURなどの団地を活用して住宅も支援して生活の相談にも応じています。
留学生は学校に通っている間、横浜市内の介護施設でアルバイトをしながら、介護の技術を学んでいます。学校を卒業して介護福祉士の資格を取った後も、そこで就職して、引き続き仕事をしてくれることを期待しているのです。市内の施設で働けば、住宅支援や生活相談もそのまま受けることができます。

Q7.留学生にとっては学費や生活費の負担が減り、受け入れる施設も介護福祉士の資格をとった外国人に働いてもらうことができれば、双方にとってメリットがありますね。

A7.そう思います。
横浜の取り組みを通じて感じるのは、日本に来てくれる外国人を大切に育てて安心して学び働ける環境を整えることが大事だということです。
外国人がつらい思いをして帰ってしまうようでは、このあとに日本に来て介護に携わってくれる人はいなくなってしまいます。留学生だけでなく、特定技能や技能実習で外国人を受けいれる場合も、日本語教育や生活支援を通じて大切に育てていくことが必要だと思いますし、そのことが、介護を受ける私たちの安心につながるのではないでしょうか。

(飯野 奈津子 解説委員)

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