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「芸術の秋 現代アートを楽しもう」(くらし☆解説)

片岡 利文  解説委員

秋といえば芸術の季節。現代アートに関する最新の話題を片岡利文解説委員とともにお伝えする。

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・10月6日まで東京渋谷区で現代アートの展覧会が開かれ、コンクールに入選した12人の作品が展示されていた(現代芸術振興財団主催 CAF賞)。

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・現代アートを志す学生の中から、草間彌生や村上隆のような才能を発掘しようというコンクール。6回目となる今回は1500人に迫る過去最多の応募があったという。12の入選作から、最優秀賞などが選ばれた。最優秀賞は後ほど紹介する。

<現代アートといえば、何か抽象的で、一目見ただけではよくわからないという印象があるが?>

・現代アートというのは、第二次世界大戦後、アメリカを中心に花開いた、新しい表現に挑戦する芸術活動。絵画や彫刻だけでなく、映像や空間芸術など様々な表現手段がある。

・現代アートの話題といえば、この風船ウサギをかたどった高さ1メートルほどのステンレス製の彫刻。今年5月、ニューヨークで行われたオークションで、日本円にして100億円ほどの値がつき、世界を驚かせた(取引手数料込みの金額)。

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・ジェフ・クーンズというアメリカを代表するアーティストの作品で、存命中のアーティストの作品としては史上最高値となった。

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・しかしこの彫刻、1986年に作られた当初の価格は400万円ほどだったという。このように、いま一部の現代アーティストの作品が高騰するという現象が起きている。

<現代アート高騰の原因は?>

・原因は大きく2つある。

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・1つは現代アートの金融商品化。2008年のリーマンショック以降、まだ美術館に収まっていない現代アートの名作に、投資対象として、より一層注目が集まるようになった。
もう一つは、中国や中東諸国など、以前は美術品市場にあまり縁のなかった国からのオークション参加者が増えたこと。どうしてもほしい人が2人いれば、価格がどんどん釣り上がるのがオークションだが、このウサギの彫刻のオークションには、34の国から参加者が集まった。

・こうした流れに乗り、AI・人工知能を使って現代アート作品に投資しようというビジネスも始まっている。

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・AIに150万個のデータを学習させ、現代アート作品のオークションでの落札価格を予想させようというのだ。オークションハウスが見立てた予想落札価格よりも、AIが予想した落札価格の方が安い場合、将来 市場での価格の伸びが期待できるということで、その作品は「買い」と判断する。つまり、市場価値よりも低く落札されそうな割安の作品をAIが見つけ出すわけだ。このAIを開発したニューヨークのベンチャー企業は、創業5年で、集めたファンドを10倍以上に膨らませたと話している。

<ただ、現代アートを買う人がみんな投資目的ではなく、やはりアート作品が好きで買う人も多いと思うのだが?>

・もちろんそういう人もたくさんいる。例えば、横浜美術大学教授で美術品コレクターとしても知られる宮津大輔さんは、今から24年前、32歳のときに、当時500万円したこの絵がほしくてたまらず、貯金を全部はたいて、毎晩ホテルのフロントでアルバイトをして、ようやく手に入れた。その500万円で買った絵、いま売れば、10億円程の価格がつくとみられている。

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・しかし、宮津さんは絵を売ることはないと明言している。この絵、草間彌生さんが1965年に制作した「無限の網」という作品。宮津さんは草間さんが今ほど有名になる前からのファンで、草間さんを応援したいという思いから作品を購入したという。現代アートの楽しみ方の一つは、新たな才能との出会いであり、その才能が世に出るプロセスにわずかでも関わることだと宮津さんは考えている。

<なるほど、しかし高価な絵を買う余裕はないし、結局美術館にでも行こうか、というところに話が収まってしまいそうだが、一方で気に入ったアーティストを見つけて、手ごろな価格なら作品も買って、ぜひ応援してみたいという思いもある>

・そういう人に向けて、インスタグラムで自分の絵を世界中に販売している画家もいる。
アメリカ・ボストン在住のジュリア・パウエルさんは、インスタグラムに作品の画像をカカタログのように載せるだけでなく、世界に向けて自分の絵を実況販売している。

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・ジュリアさんのインスタグラムのフォロワーは全世界で70万人、作品の価格は500ドルからということもあって、インスタグラムで売れた作品は、ここ5年で200枚を超えるという。

・また、たとえ絵を買わなくても、気に入ったアーティストを支援できるしくみが日本にある。

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・これは自分が気に入ったアーティストを少額のお金から支援できるサイト。支援する金額を自分で決めてネット支払いで気に入ったアーティストに送金すると、代わりに作品の画像をもらえる。手のひらの中のスマホで、アーティストとつながる楽しみを味わえる。

・さて、そろそろ冒頭で紹介した現代アート・コンクールの最優秀賞を発表したい。
最優秀賞を受賞したのは、武蔵野美術大学大学院のサカイケイタさんの作品、「命がけ」。

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・様々な形に折り曲げられた針金ハンガーが卵を落ちないように、まさに「命がけ」で支えている。壁に映り込む影の美しさも合わせて、作者のサカイさんのセンスの良さを感じる。しかも離れて見ると50音表のようで、何か未来の新しい言語を表しているようにも見える。
現代アートは抽象的で一目見ただけはよくわからないところもあるが、よくわからないがゆえに想像力を刺激され、様々な解釈を膨らませていくことができる。それこそが、現代アートのおもしろさだ。

・こうした若い才能をネットで応援するのもよし、また展覧会に足を運んでお気に入りのアーティストとの出会いを見つけるのも楽しみのひとつだ。

(片岡 利文 解説委員)

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