NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「『マーダーボール』への招待 熱戦!車いすラグビー」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

日本が快進撃を続け、初の決勝トーナメント進出を果たしたラグビーワールドカップ。日曜日には南アフリカとベスト4をかけて戦います。
そして、昨日、“もう一つのラグビーW杯”と銘打たれた、車いすラグビーの国際大会が東京で開幕しました。日本の世界ランキング2位。頂点を目指します。

k191017_01.jpg

【マーダーボールとは】
Q.今日のタイトルはマーダーボールへの招待となっていますが、これは車いすラグビーのニックネームなんですか?

A.車いすラグビーは1976年にカナダで考案されたんですが、その時に正式に名付けられていた名前が“マーダーボール”なんです。“マーダー”は殺人ですから、“殺人球技”というなんとも物騒な名前ですが、車いす同士が激しくぶつかり合う特徴を表したものでした。

k191017_02.jpg

Q.車いす同士のチームスポーツというとバスケットボールを思い浮かべるのですが、どんな違いがありますか。

A.ぶつかり合いができるという点です。車いすバスケもぶつかっているという印象があるかと思いますが、故意ではありません。故意にぶつかると反則になります。車いすラグビーはパラリンピックで唯一、接触プレイが許されている競技です。また、障害の程度も違います。車いすバスケの選手は、手に障害のない選手が多いですが、車いすラグビーは四肢麻痺など手足に障害のある選手を対象としています

Q.手にも障害があるのに激しいんですね。

A.はい。少しルールを細かく説明しますと、プレイヤーは4人。コートのサイズはバスケットボールのコートと同じです。ボールはラグビーのような楕円のものではなく、バレーボールのボールを基に作られたものを使います。
試合はボールの奪い合いからスタート。パスやランを使って、トライラインを超えると1点です。ラグビーとは異なり、前方へのパスも認められています。日本の強みはこのロングパス。走り込む選手との息のあったプレイで世界ランキング2位にまで上り詰めました。

k191017_03.jpg

Q.一般のラグビーと、大分違いますね。

A.はい。ただ、その人気は世界中に広がっています。現在、世界31の国が車いすラグビーの代表チームがあり、26の国と地域で代表チームを発足させるための準備が進められています。日本の連盟に登録されている選手はおよそ100人います。ところで岩渕さん、タックルの衝撃はどのくらいだと思います?

k191017_04.jpg

【魅力はぶつかり合い!その衝撃は10G】
Q.なかなか想像つかないですよね。

A.NHKの番組でその衝撃を重力加速度で測る実験を行い、専門家に分析してもらったところ、その衝撃は10Gだということが分かりました。10Gと言われても、あまりピンと来ない数字ですが、例えば、相撲の立ち合いがそのくらいだと言われています。私も体験したことがありますが、「怖い」というより「けがをしてしまう」と感じました。もちろん、危険な行為、後ろからぶつかったり、横からぶつかったりするのは禁止されていますし、選手たちはぶつかり合ったときにけがをしないように体の守り方は学んでいます。そうはいってもリスクがあるので、その点をある選手に聞いたところ「日常で車いすは人にぶつからないように気を使って動いている。そこから解放されて、しかもこちらからぶつかっても良いのは気持ちが良い」という答えが返ってきました。なるほど自由になれるという感じなんだと納得しました。

【車いすラグビーのなかの“多様性”】
Q.ぶつかり合いが選手にとっての大きな魅力のひとつですが、ほかにはありますか?

A.一言でいうと、多様性ということかと思います。車いすラグビーはかなり障害の重い選手がプレイできるようにルールが決められています。それが、持ち点です。選手は障害の重い選手から軽い選手まで0.5点刻みで持ち点が与えられます。一番障害の重い選手は0.5点。一番軽い選手は3.5点になります。チームを編成するときには、4人の選手の持ち点を組み合わせて、合計8点以下にしなければなりません。たとえば、1.0の選手が二人、3.0の選手が二人。障害の軽い選手だけでは、チームは構成できないようになっています。

k191017_06.jpg

Q.きちんと障害の重い選手も試合に出場できるようになっているんですね。

A.さらに、女性選手も男性と一緒に一つのチームで戦えるというのも大きな特徴です。こちらは、来年のパラリンピック代表候補の一人、倉橋香衣選手です。倉橋選手は頸髄を損傷しているため、手足に重い障害があります。岩渕さん、倉橋選手の車いすで何か気づくことはありませんか?

k191017_07.jpg

Q.足をのせている先になにかありますね。

A.バンパーが突き出ていますよね。これで相手の車いすを引っ掛けてブロックするんです。一方、こちらは攻撃型の車いす。日本のエース池崎選手が乗っています。バンパーが丸くなっていて細かいターンなど素早い動きができるようになっています。障害の程度に応じて車いすの性能を分けているんですが、それでも障害の重い選手が普通にプレイしては、スピードに勝る障害の軽い選手にはかわされてしまいます。

Q.では、どうやってブロックするんですか?

A.このシーンですが、倉橋選手が海外の屈強な選手を見事にブロックしています。これは相手の動きを先読みして、動いているんですが、一歩でも出遅れるとブロックはできません。判断力、洞察力、そしてその一瞬にかける勇気。障害の重い選手はこうした能力を鍛えて、先を読んでプレイをしているんです。

【パラリンピック前哨戦!車いすラグビーワールドチャレンジ2019】
Q.ここまで車いすラグビーの魅力を伺ってきましたが、冒頭にありました日本代表が出場している車いすラグビーワールドチャレンジ2019、どんな大会ですか?

A.この名称の大会が開かれるのは初めてで、ラグビーワールドカップ期間中に行うことで、同じ“ラグビー”という名称のつく車いすラグビーの機運も盛り上げようと開かれた大会です。参加国は日本を含む世界ランキング上位8か国。この8チームを2つのグループに分け総当たりの予選を行い、その後、上位2チームが決勝トーナメントに進出します。大会は5日間。今週、日曜日に世界一が決まります。

k191017_08.jpg

Q.最大のライバルは?

A.世界ランキング1位、パラリンピック2連覇中のオーストラリアですね。勝敗も気になるところですが、もうひとつ、注目して欲しいものがあります。

Q.“ハカ”ですね!

A.ニュージーランド代表のオールブラックスが試合前に行うマオリ民族の伝統舞踊です。車いすラグビーの代表は“ウィールブラックス”と呼ばれていて、試合前にオールブラックス同様、この踊りを行います。自らを鼓舞し戦う相手と先住民族への畏敬の念を込めて踊るハカ。多様性を重んじる車いすラグビーに通じるものがあるように感じます。

A.今大会のスローガンは「NO SIDE, GO FORWARD」。そこには「互いに興味を持ち合う社会へ一歩踏み出そう」という意味合いも含まれています。ラグビーワールドカップ同様、こちらの日本代表にも熱い声援を届けて欲しいと思います。また、パラリンピックの車いすラグビーの観戦チケットも2次抽選が行われるとのことですので、この大会をきっかけに車いすラグビーへの関心が高まり、来年につながることを期待したいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

キーワード

関連記事