NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「ちょっと変だぞ その英語」(くらし☆解説)

出石 直  解説委員

日本を訪れる外国人は年々増えて去年は3000万人を突破しました。ことしはラグビーのワールドカップ、来年は東京オリンピック、パラリンピックがありますから、この数はさらに増える見込みです。外国人観光客の増加に伴って、街中でも英語による表示が目立つようになってきました。
しかしその中には、おかしな表現や意味が通じない“ちょっと変な英語”も少なくないということです。担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

k191004_1.jpg

(岩渕)出石さん。日本語がわからない外国人にとっては英語の表記はわかりやすくて親切だと思うのですが。

(出石)その通りです。ただその英語が間違っていたり、意味が通じなかったりすると、親切がかえって仇になってしまうこともあるのです。

いくつか例をご紹介したいと思います。

k191004_2.jpg

k191004_3.jpg

▽こちら(This water does drink.)
「この水は飲めません」と言いたかったようですが、英語ではthis water が主語ですから「この水は飲みます」となって、まったく意味が通じません。正しくはこちら Don’t drink this water.

k191004_4.jpg

k191004_5.jpg

▽こちらは「静かにしてください」のつもりが、Disturb the neighborhood.「ご近所に迷惑をかけてください」と反対の意味になってしまっています。「してはいけない」という Don’t という大事な言葉が抜けてしまっています。

(岩渕)これではかえって近所迷惑になってしまいますね。

(出石)こちらは、日本人がよくやってしまう前置詞の間違いです。

(岩渕)私も時々迷ってしまいます。

(出石)前置詞の使い方を間違えると、とんでもない意味になってしまうことがあります。
▽こちら Carry of mini child.

k191004_6.jpg

k191004_7.jpg

(岩渕)小さいお子様向けのカレーと言いたいのでしょうね。

(出石) of という前置詞を使うと、子供でできたカレーという意味になってしまいます。
 of ではなく for を使ってCurry and rice for childrenなどとしなければなりません。

英語を母国語にしていない私達には気づきにくい間違いもあります。
▽例えばこちら、Please do not see the sun.

k191004_8.jpg

(岩渕)これは間違っていないような?

k191004_9.jpg

(出石)see という単語は「自然に視野に入ってくる、見える」という意味で使われます。
do not see ですと日中は目隠しをして歩かなければなりません。
この場合は、see ではなく look at を使って、Don’t look directly at the sun. などとすべきでしょう。

(出石)実は、街中にはこうした“変な英語”があふれているのです。
こうした“変な英語”を集めたSNSのインスタグラムのサイトもあります。

k191004_00.jpg

ごらんのように街中でみつけた“変な英語”の数々を写真に撮って投稿しています。

k191004_01.jpg

さらに、どこがどう間違っているのか、例えばこの立て札の場合は、Don’t throw away dog.
「犬の糞」poop という単語がないために「犬を捨てないで」という意味になってしまっています。
Don’t throw away your dog’s poop. 「犬の糞を捨てないでください」にしましょうと、どこをどのように直せば良いのかというコメントも合わせて掲載しています。

このサイトを立ち上げた榑谷美紀(くれたに・みき)さんに活動を始めたきっかけを伺いました。

(ミニストリー・オブ・ジャパニーズイングリッシュ代表 榑谷美紀さんインタビュー)
「街中にあふれている正しくない英語のサイン、公共の場所だけでなく一般のお店などにもかなり増えてきていますので、こういった英語を直していこう、少しずつ直していこうというプロジェクトで立ち上げています。このままでオリンピックを迎えるのでは日本として恥ずかしいのではないかと思いがあったので、遅すぎるかなとも思ったが、少しずつそうした活動をしていければと思っています」

(出石)榑谷さんと一緒にこの活動をしているオーストラリア人のルーシー・デイマンさん。
日本に来て3年になりますが、特に交通機関の表記に戸惑うことが多いと言います。

(ルーシー・デイマンさんインタビュー)
「たくさんの変な英語や変な翻訳を目にします。特に公共交通機関で、行先やプラットホーム、エレベーターの場所についての英語表記が外国人にとってはわかりにくいです」

(VTR:2人の作業風景)
榑谷さん達は、ただ間違いを指摘するだけでなく、将来的には英語でどう書いて良いのかわからないという人達からボタンティアで相談を受けつけアドバイスをしていくことも検討しているそうです。

(岩渕)そうした相談ができれば間違いも減ると思いますが、そもそもどうしてこうした間違いが起きてしまうのでしょうか?

(出石)最近、多いのが自動翻訳によるミスです。岩渕さん、こちら Sakai Muscle Line 
何のことだかわかりますか?

k191004_10.jpg

(岩渕) ???

k191004_11.jpg

(出石)大阪メトロの英語版のウェブサイトに実際に掲載されていたものです。Muscle は筋肉、大阪メトロの堺筋線をSakai Muscle Lineと表記していました。大阪メトロによりますと、担当の社員が自動翻訳ソフトを使って翻訳したものをチェックせずにそのまま掲載してしまったために起きたミスだったそうです。利用者からの指摘で、現在は、Sakaisuji Line と改められています。

外国語で表記する場合には、こうした誤解や混乱を招かない正確な表現を心がけることが大切だと思います。

(VTR:インスタを見る鳥飼さん)
こうした“変な英語”について、NHKの語学番組「世界へ発信!SNS英語術」の講師で立教大学名誉教授の鳥飼玖美子(とりかい・くみこ)さんに、いくつか実例を見て頂きました。

「これはやりそうですよね。おかしいですよね」

(鳥飼玖美子さんインタ)
「一番悪いのは、日本語をそのまま訳そうとしてそちらに気を取られるあまり結局何を言いたいのかわからない。おもてなしの心は大切だし、いいこと。だけどその気持ちを表すのにはやり方がある。なんでもいいからとりあえず英語に訳しておけば通じるかといえば通じない」

(岩渕)日本語がわからない人にも理解してもらいたいという善意が伝わらない、かえって誤解されたり混乱を招いたりするのは残念なことですね。

(出石)ではどういった点に注意すれば良いのか、鳥飼さんに伺いました。

k191004_13.jpg

▽「自動翻訳に頼るのは危険」
▽自分で書くにせよ、自動翻訳を使うにせよ、「基本的な英語力は絶対に必要」
▽何を言いたいのか、「簡単な単語を使ってシンプルに」

k191004_14.jpg

今回は、英語に限ってお話しましたが、例えば中国語でも駅の「ホーム」が「家」になっていたり、ハングルで鴨蕎麦としたつもりが鴨のそばになっていたりするなど、外国語表記の間違いというのは意外に多いそうです。

鳥飼さんがおしゃっていたように、外国語で表記すること自体は素晴らしいことだと思います。
外国の人にも理解してもらいたいという、おもてなしの心だと思います。そうした親切が仇になってしまわないためには、まずはその国の言葉を母国語にしている人が身近にいれば、その人に聞くのが一番だと思います。「危ない」とか「立ち入り禁止」といったきちんと正確に伝えなければならない短い単語であれば、辞書などを使って簡単に調べることができます。

日本はいまラグビーのワールドカップで盛り上がっています。来年には東京でオリンピックとパラリンピックが開催されます。日本語がわからない外国の人にも、日本での滞在を安心して楽しんでもらえるよう、外国語に翻訳する際にもちょっとした心遣いと努力が必要ではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)
###

*放送で紹介したインスタグラムのサイト名は、
 Ministry of Japanese English
the_moje_official で検索してください。

キーワード

関連記事