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「映画で難民を知る」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

世界の難民をテーマにしたドキュメンタリーなどを上映する映画祭が21日に開幕しました。難民映画祭は、日本ではあまりなじみのない難民問題を映画を通じて理解してもらおうと、14年前から開かれてきましたが、ことしから「WILL 2 LIVE映画祭」として生まれ変わりました。

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主催する国連UNHCR協会は、難民をかわいそうな人という目で見るのではなく、厳しい境遇に置かれながらも希望を捨てずに逞しく生き抜こうとする意志を持ち、私たちに勇気を与えてくれる存在であることを知ってほしいと話しています。どのような作品が上映されるのでしょうか、またそこにはどんなメッセージが込められているのでしょうか。

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ことし上映される作品は7本です。
アフガニスタンから逃れた一家を描いたドキュメンタリーが「ミッドナイト・トラベラー」は、映画監督のハッサン・ファジリさんが自ら撮影、制作したドキュメンタリーです。ハッサンはアフガニスタンの平和をテーマにした作品が、反政府武装勢力、タリバンの怒りを買い、命を狙われます。

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妻と二人の娘をつれて祖国を離れ、ヨーロッパを目指します。イラン、トルコ、そしてブルガリアへと安全な場所を求めて逃げますが、途中には様々な困難が待ち構えています。密航業者に騙されて所持金も失い野宿をしながら歩き続けます。一家は安住の地を見つることができるでしょうか。映像は3台のスマートホンを使って撮影されました。

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東京千代田区のイタリア文化会館で行われたオープニングの上映会はほぼ満席となり、常に前を向いて生きようとする一家に感銘を受けた人が多かったようです。上映後ある男性は、「ニュースとまた違った角度で見ることができ、心を打たれました」と話していました。また女性は、「平和に暮らす私たちと同じ人たちが、突然日常を奪われ苦しんでいることを知りました」と話していました。

難民たちは私たちの想像を超える苦悩を抱えていることがわかりますね。他にはどんな作品がありますか。

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「ヒューマン・フロー」は、地球上のいたるところで逃げ惑う人々を撮影したドキュメンタリーです。世界が今直面している難民危機が生々しく記録され、ベネチア国際映画祭などで高い評価を得ました。
ギリシャの海岸に満員のボートでたどり着いた難民たち。2015年から16年にかけて100万人もの人が命からがら地中海を渡ってヨーロッパに逃げこみました。途中で命を落とした人も5000人を超えました。
紛争が続くシリアからは600万人以上が周辺の国々に逃げ込みました。紛争はすでに8年目に突入しましたが、収束の見通しはたっていません。
アジアでは、ロヒンギャと呼ばれるミャンマーの少数派イスラム教徒が、最低限の権利も認められず、弾圧され続けてきました。100万人が国外に逃れたまま、祖国に戻るめどは立っていません。老人は、「我々も人間なのに漂流者だと呼ばれる。弾圧のせいだ。未来が奪われたのだ」と話します。
UNHCRによれば世界の難民や国内避難民は、去年末の時点で7080万人に上っています。戦後最悪の数字で、2秒に1人の割合で住む家を追われています。中東やアフリカ、アジアでは今も新たな難民が生まれ、ヨーロッパやアメリカでも社会に大きな不安を投げかけています。
スマートホンやドローンを駆使して撮影されたこの作品、ナレーションはいっさいありません。事実をありのままに描き続け、それがかえって胸に迫ってきます。

行き場のない絶望感に苦しんでいる人は少なくありません。しかし、そうした中でも生き続けようと希望を持ち続ける人。夢の実現に向けて頑張っている人たちも大勢います。

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「イージー・レッスン」、日本語のサブタイトが「児童婚を逃れて」です。結婚を迫られた少女が祖国を離れ、異国の地で新たな生活を送る姿を追い続けたドキュメンタリーです。世界では18歳未満で結婚した少女が6憶5000万人に上ると推定され、アフリカではその数が増えています。金のために10代前半で結婚を強いられる子どもも少なくありません。そんな少女が異国の地で悩みながら奮闘する姿を描いたのがこの作品です。
少女の名はカフィア。ハンガリーの高校に通うソマリア出身の少女です。
15歳のときに父親から年老いた男性との結婚を迫られましたが、自由に生きてほしいという母親の手助けによって単身祖国から逃れました。
高校に通いながら、独り立ちできるようにモデルの仕事をしています。
内戦や武装勢力のテロが続く祖国では満足に学校に行くこともできませんでした。
最初は授業についていけず教師からは卒業が難しいと言われます。
必死に勉強を続け、いよいよ合否発表の日。
教師の「見事でした。努力しましたね」という言葉にみな拍手をします。

難民たちは様々な苦悩をかかえながらも夢や希望を持っています。それを失わないように才能を伸ばし。自立を後押しすることが難民支援で重要だと映画を見て感じました。

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映画祭は来月半ばまで東京と名古屋で開催されますが、それ以外にも札幌市や山形県酒田市の酒田市、それに全国8つの大学などで、ことしの映画祭の作品や過去の映画祭で評判だった作品が上映されます。誰でも見ることができますので、ぜひ近くの会場で映画を見て難民問題を考えてほしいと思います。

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また、来年は東京オリンピックとパラリンピックに難民の選手団が参加します。困難を乗り越え世界のアスリートと競い合う難民の選手たちにもぜひ声援を送ってほしいと思います。

(二村 伸 解説委員)


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