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「人もペットも 野外のダニ感染症に注意!」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

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▼最近、野外にいるダニが原因の病気が広がっている

 これは、SFTS「重症熱性血小板減少症候群」という感染症で近年、日本と中国、韓国で患者が出ています。国内では西日本を中心に累計450人ほどと今のところ患者数は限定的ですが、徐々に地域が広がっているとされています。そして「致命率」(病気になった人のうち亡くなる割合)が約2割と高い、つまりかかると危険な病気で、特に高齢者が重症化しやすいと考えられます。季節的には春から秋にかけて多く、これからの時期も注意が必要です。

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▼SFTSの症状

 発熱や食欲低下、下痢などの消化器症状、他に頭痛や重くなると意識障害などが起きることもあり、初期はかぜの症状にも似ているとされます。

▼感染経路

 マダニ、つまり野外にいるダニの一部がSFTSのウイルスを持っていて、このマダニにかまれることで感染します。ダニと言っても家の中にいるイエダニはこの病気には関わりがありません。そのため従来は、「山菜採りや山歩きをしていた人がマダニにかまれて感染する」とされていました。ただ、マダニにかまれた痕がない患者もいて、実は猫や犬など動物あるいはペットを介して感染するケースもあるらしいとわかってきました。つまりマダニから人へ直接だけではなく、野良猫や散歩に連れて行った犬がマダニにかまれて感染し、そこから人へと感染するおそれもあるわけです。
 しかも、SFTSは感染してから症状が出るまで6日から2週間も潜伏期間があるので、何が原因だったか本人にも思い当たらないこともあります。

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▼猫や犬から人にはどう感染?

 例えば2016年に西日本で50代の女性が弱った野良猫を見かけて動物病院に連れて行こうとしたところ猫にかまれ、気の毒なことに、この女性はおよそ10日後にSFTSで亡くなっています。
 しかし、かまれていないのに感染したと見られるケースもあります。飼い犬2匹が発熱などの症状があり動物病院に連れて行った後で、飼い主の家族全員とさらに獣医師と動物看護士まで発熱などの症状が出て、うち4人は入院するほどだったというケースです。この全員が、SFTSのウイルスが体内に入ったことを示す抗体が後の検査で見つかっていますが、犬にかまれてはいなかったとのことです。そこで例えば、犬に顔をなめられたとかトイレの始末などを通じて何らかの体液の接触で感染した可能性も考えられますが、はっきりしていません。

▼SFTSにかかる猫や犬は多い?
 
 人間と違って公式な統計はありませんが、日本医療研究開発機構の研究班によると今年7月までの累計で猫と犬をあわせて160匹以上が確認されています。
 その他、シカやイノシシなど様々な野生動物でもSFTSの抗体が見つかっています。

▼ペットにはどう気をつけたらいい?

SFTSのウイルスを持ったマダニは山奥だけでなく街なかの草地などにもいる場合があり、犬の散歩などでも感染のおそれはあります。ですから散歩後はマダニがついていないかをチェックするためにもブラッシングなどをしてやるといいでしょう。そしてダニよけの薬、忌避剤なども一定の効果があるとされますので定期的に使うとよいでしょう。
 猫は屋内のみで飼育していれば心配ありませんが、放し飼いにしているとリスクがあります。また野良猫の餌付けなどは感染症予防の観点からも避けるべきだと思います。
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 そして犬猫を問わず口移しでエサをやるなど過剰なふれあいはしない、動物にさわった後は必ず手洗いをする、なども心がけましょう。
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▼万一自分がSFTSかもという症状が出た場合は?

 SFTSかどうかを特定するにはウイルスの遺伝子検査が必要で、医師も気づかない場合があります。ですから、マダニにかまれたことがあればもちろん、そうでなくても山に入ったり犬や猫と濃厚な接触があって風邪のような症状が出た場合は、医師にそのことを伝えて下さい。
 ただ、今のところ治療は解熱剤などいわゆる対症療法に限られていて、SFTS自体を治療出来る薬はまだ確立していません。こうした中で最近、あるインフルエンザの新薬が治療に効果があると報告されて注目を集めています。一般には出回っていない薬ですが、臨床研究ではSFTSの患者に一定の治療効果があったとされています。早く安全な治療法が確立することが望まれます。
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▼まずはSFTSにならないために

 山歩きなどをする時はマダニにかまれないよう肌を露出しない服装で、また市販の虫除け剤の中にもマダニを避ける成分を含むものもあるので、効能書きなどを読んで使ってほしいと思います。帰った後は衣類にマダニがついていたら粘着テープで取り除いたり、早めにシャワーや入浴でマダニが体についていないかチェックするのも大事です。
 そして、ペットなど動物からの感染にも注意しましょう。最近はジビエブームで野生動物の肉を食べる機会もあるかもしれませんが、野生のシカなどからもSFTSの抗体が見つかっています。肉を食べることによる感染リスクはまだよくわかっていませんが、SFTSだけでなく他の感染症対策などの面からも、まず十分に火を通すようにしてほしいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)


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