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「完成10年 きぼうの成果は」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

国際宇宙ステーションの日本の実験棟きぼうが完成してちょうど10年。きのうは10周年祝う式典も開かれた。日本はきぼうでどんな成果を上げ、今後日本の有人宇宙利用はどうなるのか。水野倫之解説委員の解説。

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式典はきぼうの管制室がある茨城県つくば市で開かれ、内外の宇宙関係者150人が参加する中10年の歴史が紹介され、宇宙からメッセージも届きました。

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きぼうは日本初の有人宇宙実験施設。
宇宙ステーションはサッカー場くらいの大きさで中心部に居住空間があり、奥からロシアの実験棟、その手前がアメリカ、さらに手前左がヨーロッパ。
そして右が日本のきぼう。

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大型バスくらいの大きさで内部は実験設備が並んでいるほか、船外にも実験装置を置けるのが特徴。

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この10年の成果は大きく2つあり、一つは有人施設を運用する技術を飛躍的に高めたこと。
そしてもう一つが無重力を利用した実験。

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きぼうにはこれまでに7人の日本人飛行士が8回長期滞在、来年には野口・星出両飛行士が再び滞在する予定。
このうち若田飛行士が2014年に日本人で初めて船長を務めたのに続いて、来年星出飛行士も務めることが決まっている。

船長は緊急事態で乗組員に対応を指示して危険を回避する重要な役割があり、多くは米露の飛行士が務めてきた。そうした中、日本人が任せられるようになったのは飛行士の活躍に加え、きぼうや無人輸送船こうのとりなど日本の安定した技術が各国から信頼を得ているからにほかならない。
それを象徴するのが4年前の物資輸送。
米露の輸送船が相次いで打ち上げに失敗して一部の物資がひっ迫する中、日本はH2Bロケットでこうのとりの打ち上げを成功させ、油井飛行士が宇宙ステーションのロボットアームを操作し予定の半分の時間でキャッチ。

この時日本では宇宙機構の管制官がこうのとりの状態を確認してNASAで管制チームのリーダーを務める若田さんに伝え、若田さんが最終的な指示を出すなど、日本チームの能力の高さを示した。

このほか、多くの超小型衛星を軌道に乗せたのも大きな成果。
10㎝角の超小型衛星を、きぼうだけにある外とつながるドアから宇宙へ放出する。
これまで軌道に乗せた38機の中には、これから本格的に宇宙利用を始めようというフィリピンやケニアなど11か国の衛星も含まれる。
こうした新興国にとっては宇宙利用の経験を積む貴重な機会になるわけで、きぼうは国際貢献の役割も果たしている。

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2点目の実験はこの10年で150行われ、1800件の論文が発表。
その最大の成果と言えるのが、筋ジストロフィーの治療薬につながる可能性のある実験。
筋ジストロフィーはしだいに筋肉がやせ細って動けなくなる命にも関わる病気、根本的な治療薬はまだない。その薬の開発につながる重要な成果がきぼうの実験で得られた。
実験チームは患者の尿から筋肉を萎縮させる主な原因物質を見つけた。
これは体内のあるたんぱく質によって生み出される。たんぱく質にカギのような物質がはまると、原因物質が作られる。そこでそこにはまる偽のカギを作って先にはめてしまえば原因物質は作られないはず。つまりこの偽のカギが筋ジストロフィーの薬になると考えた。
そのためにはたんぱく質の結晶を作って構造を解析しカギの形を詳しく知る必要があるが、地上で作ると、重量でばらばらで不完全なものばかり。
そこで無重力のきぼうで作る実験を行った。これを地上に持ち帰って観察するとどれもきれいに成長。
解析の結果、筋ジストロフィーの薬となり得るカギの形が突き止められ、動物実験も。
薬を与え続けた犬は元気に走れるのに対し、薬を与えられていない犬は…。
途中で止まってしまう。
こうした成果も参考に、大手製薬会社がヒトへの治療薬をあらたに設計して臨床試験が行われるなど、治療薬の開発が急ピッチで進められている。
このように成果が上がった分野がある一方で、高品質の半導体材料を製造する宇宙の工場にしようという構想は、打ち上げや回収コストが高くペイしないことがわかり実験は停滞。
これまでこうした宇宙実験など宇宙ステーションの経費は国の予算で賄われ、日本は総額で1兆円あまりを負担。
今後費用対効果をより高めていくためにも、さらに成果を出すことが求められ、いかに民間を取り込んでいくかがポイントになる。

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アメリカは月を周る宇宙基地を作り2024年に宇宙飛行士を着陸させる計画に軸足を移そうとしていて、国際宇宙ステーションについては2024年以降運用を民間主体にする方針。
日本も有人月面探査計画に参加する意向で、厳しい財政状況の中、国際宇宙ステーションにかける経費は減らさざるを得ない。そのためには日本も民間参入を促してコスト削減を進めることが考えられる。
すでに超小型衛星の放出の募集業務を民間に委託したところ、各方面に呼びかけが行われて衛星放出の依頼がたくさん来ている。
同じように船内の宇宙実験の募集業務についても今後民間に任せて、企業などにどんどん有償で実験してもらうことを考えていく必要がある。

(水野 倫之 解説委員)


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