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「計画運休 去年の台風の教訓は生かされたか」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

2019年8月、西日本を通過した台風10号では、鉄道各社が「計画運休」を実施しました。計画運休をめぐっては、2018年9月から10月にかけて日本列島を縦断した台風24号で、多くの課題が指摘されました。
そこで、今回の計画運休に2018年の台風の教訓は生かされたのか、考えます。

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◇台風10号に伴う計画運休
台風10号は、お盆の時期に日本列島に接近・通過したため、大きな影響がありました。山陽新幹線が8月15日に終日運休して、およそ19万8000人に影響したとされています。在来線でも、15日を中心に広い範囲で計画運休が行われました。
ただ、今回の計画運休では、2018年の台風24号の時ほどは課題を指摘する声は聞かれませんでした。旅行の計画を1日前倒ししたり、後ろにずらしたりした人が多かったとみられます。影響は大きかったですが、その一方で、あらかじめ運休が分かったことから、それを見越して予定を変更することができたということだったかと思います。

◇台風24号と検討会議のとりまとめ
それでは2018年の台風24号のときと今回で何が違ったのでしょうか。それは、鉄道各社の準備状況だと思います。
2018年、台風24号の接近に伴って、JR東日本は首都圏全線という規模で計画運休を行いました。このとき、計画運休を伝えてから運休開始まで8時間ほどしかなかったので、利用者に十分伝わらず、混乱しました。

このため、国土交通省やJR、私鉄の各社が、新たに「検討会議」をつくって、対策を話し合いました。その結果が、2019年7月2日にとりまとめられていたのです。
「とりまとめ」の内容は以下の通りです。
まず、いつ、どのような情報を伝えるのかというスケジュール、つまり「タイムライン」を鉄道各社が作ることにしました。

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上図は、そのモデルケースです。
▽運休が予想される48時間前ころ、これは概ね気象予報で暴風域が通過する可能性があることが分かるころと想定さていますが、そのころに計画運休の「可能性」があることを発表する、
▽24時間前、あるいはそれ以降、どの路線で、いつから運転を取りやめるかといった具体的な詳しい情報を発表する
▽情報は随時更新して、運休を実施するというものです。

とりまとめには、情報の発表の仕方についても書かれています。

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▽ホームページやSNS、駅の表示など様々なツールを使って伝えること、
▽外国人にも理解できるよう日本語だけでなく多言語で伝えること、
▽学校など影響を受ける機関に連絡するため、沿線自治体との連絡体制を整備すること
などが盛り込まれています。

◇とりまとめと台風10号での対応
今回の台風10号では、このとりまとめが初めて実践されました。

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まず、山陽新幹線についてです。
JR西日本が運休が見込まれる2日前の8月13日の午前に「8月15日は終日、運転をとりやめる可能性がある」と発表しました。このとき、台風はまだ日本列島の南海上にいます。
14日午前には、「新大阪-小倉間で15日の始発から、すべての列車の運転をとりやめる」と発表しました。可能性や具体的な運休内容をタイムラインに沿って伝えていることが分かります。

在来線の計画運休も実施されました。

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台風が早く接近するJR九州は、8月12日に、地域を示して運休の可能性を発表しました。JR四国やJR西日本は、13日以降、在来線の運休の可能性を伝えました。その後、各JRは運休の路線や区間、時間などを具体的に発表しました。
他にも、山陽新幹線と直通運転している東海道新幹線の影響をJR東海が、九州新幹線の影響をJR九州が発表しました。JR以外の私鉄も、台風による影響の可能性を伝えました。
このように、いくつもの鉄道会社が情報提供したのです。
2018年の台風のとき、あらかじめ計画運休の手順を決めていた会社は、JR西日本以外にはほとんどありませんでした。このときの反省は、多くの鉄道会社が準備不足だったということだと思います。それに対して今回は、鉄道各社が早い段階からそろって対応したのが大きな特徴です。この点が2018年と大きく違う点です。

今回の対応を評価するうえで、もう一つ見ておく必要があるのが、計画運休の目的です。

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計画運休の目的には、乗客が混乱しないようにすることもありますが、一番は安全確保です。列車が雨や風の影響で、駅と駅の間で止まらざるを得なくなるといったことを防ぐためなのです。駅の間で止まると乗客を降ろすことは危険ですし、点検も危険でできません。台風が過ぎるまで、車内に閉じ込められることにもなりかねません。
国土交通省によると、台風10号で立ち往生したケースは報告されていないということで、 安全は一定程度確保されたと考えられます。

◇見えてきた課題
一方で、課題もみえてきました。その一つが、情報のわかりやすさです。
例えば、JR西日本のホームページでは、在来線の情報を7つの地区ごと、別々に表記しています。

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分けている理由について、JR西日本は「計画運休は7つの指令所ごとに判断しているので、7つの地区に分けた方が決定したことを速やかにホームページなどに掲載できる」と説明しています。

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しかし、例えば山陽線は複数の地区をまたがる路線で、3つのページを見なければなりません。

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今回、山陽線の計画運休について、3つの地区それぞれで上図のような区間が掲載されました。一見すると山陽線の3つの別々の区間が計画運休になるように見えます。
しかし、下図のように広島・山口地区に書かれている区間の東の端と岡山・福山地区に書かれている区間の西の端は重複しています。同じように、岡山・福山地区の東の端と京阪神地区の西の端も重複しています。結局、3つの地区の計画運休区間はすべてつながっていて、山陽線は神戸から下関までの全線が計画運休の対象だったのです。

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文字情報で運休区間を理解するのは難しいという一つの例だと思います。計画運休の区間を文字だけでなく路線図などで表示するのも一つの方法です。乗客の視点に立って、伝え方を一層工夫してほしいと思います。

◇次の計画運休の備えて
今回の計画運休では、検証できていない点があります。

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台風10号は、首都圏や近畿といった大都市圏を直撃しないコースでした。首都圏などは路線が複雑で、相互乗り入れや終点で別の鉄道に接続するようなケースが多くあります。
こうした駅で乗客が乗り換えられず、先に行けなくなるようなことがないよう、鉄道会社にはお互いに運転見合わせのタイミングを調整するなど難しい対応が求められています。そうした連携が果たしてうまくいくのかが、未検証の一つです。
もう一つは、今回が夏休み、それもお盆の時期で、社会の活動は比較的少ない期間だった点です。計画運休の情報を自治体から学校に伝えるなど各方面に連絡する体制は整っているのかも検証できていません。
今回の計画運休で対応ができたからといって、次も対応できるとは限らないということだと思います。引き続き、対策のレベルを上げていく取り組みが必要です。

◇利用者はどうすれば・・・?
利用者の側も知っておいた方がいいことがあります。

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それは鉄道会社が、上図あるようなタイムラインに沿って、48時間つまり概ね2日前くらいからホームページやSNSなどで情報提供すること、このことを知っておくと計画運休の状況をいち早く知ることができ、便利だと思います。
計画運休を鉄道会社も私たち利用者も、うまく利用できるよう考えていくことが大切になってきていると思います。

(中村 幸司 解説委員)

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