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「はやぶさ2 葛藤乗り越え再着陸も成功!」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

はやぶさ2がリュウグウへの再着陸に成功。世界で初めて小惑星の内部の物質を手にしたとみられるが、着陸への再挑戦には大きな葛藤もあった。
水野倫之解説委員の解説。

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昨日の会見でチームの責任者は「100点満点で言うと1000点で言うことはない」と話していたとおりほぼ計画通りで、世界初がまた一つ積み上がった。これまで以上に、安全最優先の姿勢で臨み、チームが団結できたことが結果につながった。
はやぶさ2はおととい降下をはじめ、きのうの朝30mまで接近。
ただ着陸点は直径7mの狭い円の中。
あらかじめ地表に投下しておいた目印を視野にとらえながら、はやぶさ2が自らの判断で降りていき、きのう午前10時すぎに一気に着陸。
小さな弾丸を発射し岩石のかけらを採取して、すぐに飛び立った。

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これははやぶさ2のカメラが捉えた画像。

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これは着陸4秒後。
岩石のかけらが大量に舞い上がっていて、確かに着陸したことが分かる。

1回目の着陸と大きく違うのは、かけらの多くが小惑星の内部の物質という点。
はやぶさ2は4月に金属の塊を打ち込み、クレーターを作ることに成功。
内部の物質がむき出しになり、そのままクレーター内への着陸も検討されたが、傾きがきつく危険なことがわかり、今回少し離れた安全なところに着陸。

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クレーターから離れたところでも、画像のコントラストを鮮明にしてみると黒く、内部の物質が1cmほど降り積もっていることが分かったから。
ただ今回すんなり再着陸となったわけではなく、チーム内には着陸すべきかどうか大きな葛藤が。

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1回目の着陸で、岩石が舞い上がる様子が映っていたことから地表の岩石を十分に採取できたと考えられ、岩石の分析チームは分析装置を作り、岩石が地球に帰ってくるのを待ち構えていた。
それなのに再着陸に挑戦してトラブルが起きれば、すべてを失うリスクもある。
分析チームからは再着陸はやめるべきだという声も。
これに対して運用チームは、世界初の2回目の着陸に挑戦したいという思い。
最終的にはチーム間では再着陸を行うべきということで意見は一致。
決め手になったのは運用チームの実力が着実に上がり、信頼が高まったこと。
例えばクレーターづくり。

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金属の塊を衝突させる難しいミッションだったが、ほぼ予定通りの場所に作ることに成功。
舞い上がった破片で機体が損傷するおそれもあったが、小惑星の影にタイミングよく避難するなど、安全策も万全。

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さらに着陸の目印の投下場所も、1回目は目標から15mずれたが今回は3m以内に収まるなど、運用の精度がかなり上がった。

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運用チームはリュウグウ到着後1年で、姿勢制御エンジンなど機器一つ一つのくせを把握。いつどの噴射口をどの向きにどれくらい噴くのかを細かく調整することで飛行精度を徐々に向上させ、分析チームからの信頼を獲得。
最終的には運用チームと分析チームが一致団結。ただもうひとつ、宇宙科学研究所のトップの所長に納得してもらう必要が。
國中所長ははやぶさ1号機のメインエンジンの担当者で、トラブルをいやというほど味わっただけに、再着陸には特に慎重。

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実は1回目の着陸でカメラのレンズに砂ぼこりがついて感度が落ちていたが、それでも問題なく着陸できることをデータで示せという指示。
チームはまずは、直径7mの範囲であれば70㎝以上の危険な岩はないことを再確認。
またリハーサルで何度もクレーターに近づき、感度が落ちたカメラでも地表の様子を把握できることも確認。
さらに姿勢制御エンジンが想定通り噴かないなど10万通りのケースを想定し、そのすべてでうまくリカバリーできることを示してようやく了解を得て、今回の再着陸に臨んだ。
この安全最優先の意思は、マネージャのチームウェアにも表れていて、私が撮影した津田マネージャのウェア、袖口とか1年前に比べて汚れている。

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探査機打ち上げ以降、洗濯していないという。
安全最優先で成功を積み重ねて来たが、洗ってしまうと積み重ねてきたものが無くなってしまいそうに感じたということで、ゲンかつぎするほど安全にこだわっていて、地球に帰還するまで洗うつもりはないと話してくれた。

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今回採取したとみられる内部の物質は地表面に比べて宇宙の放射線や太陽の粒子による劣化が進んでおらず、太陽系が誕生した当時の状態をとどめ、いわば新鮮な状態。

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特に分析チームが注目しているのは、クレーター周辺のむき出しになった内部の物質ほどより黒い点。
分析チームの広島大学の薮田ひかる教授は、炭素が多いと表面が黒く見えるケースが多く、内部の物質には炭素を含む有機物が豊富に含まれている可能性が高いとみる。
有機物を含む小惑星が隕石となって地球に運ばれ、そこから生命が誕生した、つまり生命は宇宙からやってきたとする説が注目。
今回内部の新鮮な岩石を持ち帰れば、地球がいかに生命をはぐくむ星になったのか、より多くの手がかりが得られる可能性があるわけで、関係者の期待は高まっている。
はやぶさ2は今年の末にメインエンジンを再噴射して帰路につき、来年末に地球に戻る予定。
せっかくリュウグウのお宝を2箱抱えることができたわけなので、最後まで安全最優先で無事帰還し、今後の分析も日本が世界をリードしていってほしい。

(水野 倫之 解説委員)

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