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「大丈夫? 31年ぶりの商業捕鯨再開」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

日本は今月から31年ぶりの商業捕鯨を再開させます。しかし、様々な課題もありそうです。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。
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Q 今月から商業捕鯨がスタートと言うことですね。
 はい。日本がクジラの国際的な管理を行う、IWC国際捕鯨委員会からの脱退を発表したのが、昨年の暮れでした。その後手続きを終え、今月1日から、31年ぶりの商業捕鯨を再開することになりました。
 スタートとなった昨日は、下関から母船式捕鯨船団が日本の沖合に向けて出港し、秋まで操業をおこなうことにしています。また釧路港でも、近海でのクジラ漁を行う船が出航し、夕方までにミンククジラを捕獲して港に帰り、解体されたクジラは、早ければ明後日には釧路市内などで販売されるということです。

Q.地元では商業捕鯨再開を心待ちにしていたのでしょうか?
 そうですね。IWCが商業捕鯨の禁止を決議した1980年代以降、30年以上にわたって、日本は、資源の回復が認められてきたクジラについて、商業捕鯨の再開を訴え続けてきたのですが、反捕鯨国がこれを拒否。IWCは国際機関の役割を果たしていないとして、脱退に踏み切りました。
 今後日本は、こちらの範囲。海岸から200海里の排他的経済水域内で、ニタリクジラやイワシクジラ、それにミンククジラを捕獲することになります。

Q.その3種類のクジラ、どういうクジラですか?
 まずニタリクジラとイワシクジラ、体長13メートルで重さ25トン前後と大きなクジラです。
一方でミンククジラですが、こちらは体長8メートルで重さ5-8トンと小型のクジラで、餌を求めて宮城沖から釧路沖と沿岸を回遊するとされています。
 いずれも国際的に十分な資源が確認されたクジラで、日本では、下関を母校とする大型の捕鯨船団や、北海道の網走などを基地とする小型船が、こうしたクジラを捕獲するとしています。

Q.数はどのくらいとるのですか?
水産庁が昨日発表したところによりますと、今年12月までの半年間で、捕獲頭数はニタリクジラで150頭、イワシクジラで25頭、そしてミンククジラで52頭です。この捕獲頭数、水産庁としてはIWCが認めた計算方式を使い、100年間とっても資源に影響しない数に設定したとしています。
この結果、これまで行っていた調査捕鯨と比べると捕獲頭数は少ないのですが、ニタリクジラなど大きなクジラをとることから、流通する量はほぼ変わらないとしています。
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Q.流通量も変わらないなら、なぜ調査捕鯨から商業捕鯨に転換したのか?
 そうですよね。確かに商業捕鯨が禁止されている間、日本は調査という名目で捕鯨をやってきました。調査捕鯨はクジラの生態や分布を調べる、条約で許された行為で、加盟国にはその肉を利用することが求められていましたので、クジラ肉も流通していた。反捕鯨国からは、実態は商業捕鯨と批判されては来たが、加盟国の権利だとしてこれを続けてきた。
 こうした実態を考えれば、わざわざ国際機関を脱退してまで、商業捕鯨再開にこだわるべきではないとする、反対意見もあった。

Q.それでも商業捕鯨再開にこだわったのはなぜ?
クジラは保護すべき動物で、食べるのは野蛮だとする、欧米的な価値観への反発です。
水産庁では、資源が豊富であれば、科学的根拠に基づき持続的に利用するのは、海に囲まれた日本の大原則だとしていますし、欧米の考え方を受け入れてしまえば、マグロなどほかの水産資源利用にも影響が出る。そうした危機感もありました。
そしてなにより、IWC自体が、保護と利用、両面を目的とした国際機関なのに、保護に偏りすぎ、役割を果たしていない。脱退の理由をそう説明している。
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Q.ただ国際的には批判を浴びましたよね。
 そうですね。しかも課題も多い。

Q.どういうことでしょうか?
 まず、捕鯨が商業的に採算が合うかということです。
実はこれまでやってきた調査捕鯨は、国が調査のためとして研究機関に補助金を出し、その研究機関が捕鯨業者を雇ってクジラをとり、補助金とクジラ肉を販売した代金の合計でコストをまかなっていた。主体は国や研究機関だった。
ところが今後、調査は一部継続するが、補助金は大幅に少なくなる。各地の事業者がクジラ肉を販売した代金を柱に、自ら経営を持続できるのか、不安視する声がある。
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Q.経営的にはやっていけるかと言うことですね。
 はい。水産庁は、調査捕鯨は、クジラがいる所も、いない所もまんべんなく調べ、しかも捕獲する大きさも様々で、効率が悪かった。商業捕鯨は、魚影の濃いところで、しかも大きなクジラから選んで漁獲することで、コストが削減でき、効率性もあがる。こう説明していますが、これが本当にそうなるかです。
もう一つの課題は需要です。
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Q.需要ですか?
 これは、クジラ肉の消費量を示したものだが、かつては20万トン以上あったクジラ肉の需要は、徐々に減って、ここ数年は4-5000トンと、かつての50分の1程度。
 商業捕鯨に対する締め付けが強まり、供給が出来なくなったという面と、牛肉や豚肉が安定的に生産され、需要がそちらに移ったためとされています。
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Q.確かにクジラの肉、食べる機会少ないですよね
 しかも、若い人たちの間で少ない。クジラを給食で食べた我々世代ならともかく、これまでクジラの肉を食べたことのない若い人たちが今後、クジラの肉を食べてくれるのか。需要が先細りしていくのではないかという不安です。

Q.そこは事業者としても心配でしょうね。
 はい。そのために事業者が強調するのは、その栄養分です。
これはクジラの赤肉を和牛や豚肉、鶏肉と比較したものだが、カロリーは和牛の4分の一で、豚肉や鶏のモモよりも少なく、しかも脂肪もきわめて少ない。一方でたんぱく質は多く、コレステロールが少ない。そうした肉であるという。
 それに最近は、疲労回復などに高い効果を持つアミノ酸「バレニン」を多く含むことでも注目されているという。
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Q.バレニンですか?
 クジラは広い海の中を大回遊する。その持久力やパワーの源となっているのがこのバレニンで、特にミンククジラには多く含まれているとされている。捕鯨業界としてはこうしたことをアピールすることで、若い人たちへの需要を喚起したいとしている。
 一方で、クジラは海の生態系の頂点に位置しますから、水銀など有害物質の蓄積などが気になる人たちもいます。水産庁では国内で流通しているクジラの肉は基準をクリアしているとしていますが、そうした不安を払拭できるかどうかです。
 
Q.商業捕鯨の先行きどうでしょうか?
 先週もロンドンで、動物愛護団体によるデモが行われるなど、日本の捕鯨に対する国際的な批判が収まっている訳ではない。こうした中での商業捕鯨再開です。
日本としては、採算性を精査し、需要喚起を行うとともに、国際社会に対して商業捕鯨再開への理解を得る努力を続けていくこと。そこも大切だと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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