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「なくなるか?チケット不正転売」(くらし☆解説)

高橋 俊雄  解説委員

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ことし秋にはラグビーワールドカップがあり、来年の東京オリンピックの観戦チケットは、今月20日に抽せん販売の結果が発表されます。多くの人がチケットを手にすることになるのを前に、今月14日、「チケット不正転売禁止法」という新しい法律が施行されました。
この法律では、
▽チケットを主催者の同意がないまま不正な転売をしてはならない
▽不正転売を目的として、チケットを買ったり譲り受けたりしてはならない
という2点が定められています。
違反した場合、1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金が科されます。
対象となるのは、不特定、または多数の人が見たり聴いたりする、音楽や演劇、映画、スポーツなどの「興行」のチケットです。
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【インターネットで高額転売】
この法律ができた背景には、チケットの高額転売の深刻化があります。
チケットを定価よりも高く売るというのは、これまでも路上などでの「ダフ屋行為」があり、自治体の迷惑防止条例による取り締まりの対象になっていました。ところが、チケットを売りたい人と買いたい人を仲介する「転売サイト」などを使ったインターネット上での転売は、既存の法律に基づいた積極的な取り締まりが難しく、「人気チケットの高額転売は当たり前」という状態になっていました。
転売サイトでは、コンサートやスポーツなどのチケットを売りたい人が、価格を決めて出品します。転売目的の出品を禁止したり、悪質な出品がないかチェックしたりしているサイトもありますが、人気のチケットが、転売を前提に短時間で大量に買い占められるケースも見られるようになりました。ファンが1回の公演に高額のチケット代を支払うようになると、会場に足を運ぶ回数は減ってしまいます。
3年前には、100組を超えるアーティストなどが、「音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」という共同声明を発表しました。「チケットが本当に欲しい数多くのファンの手に入らないことに強い憤りを感じています」と、この問題をみんなで考えようと呼びかけました。

【法律の効果は】
今回の法律によって、「ダフ屋行為」に加えて、インターネット上での不正転売も取り締まりの対象となりました。
チケット転売の問題に詳しい弁護士の福井健策さんは、今回の法律について、次のように指摘します。
▽高額転売でもうけることはやめようという、抑止力としての効果が期待できる。
▽不正をなくしていくには転売サイト側の取り組みが鍵になる。不正摘発のために捜査機関に協力したり、不正防止に向けた取り組みを強化したりすることが重要。
▽不要になったチケットが定価で売り買いできる公式リセールサービスを整備するなど、主催者側の努力も必要。
今回の法律では、業界側に対しても、チケットの不正転売を防ぐための措置を取るよう、
努力義務を課しています。
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どんな対策が求められているのか、3つ挙げられると思います。
1つは、福井弁護士の指摘にあるように、公式リセールサービスの充実です。音楽業界ではおととし、チケットを定価で売り買いするための公式サイト「チケトレ」を開設しました。これをより使いやすくして、多くの人が利用できるようにしていく必要があります。
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2つめは、「電子チケットの普及」です。スマートフォンに送られたQRコードなどを使って入場するため、紙と比べると不正転売はしづらくなります。
そして、公演会場での本人確認をどこまで厳しくできるかです。これまでも、入場時に本人であることを証明する書類の提示を求めるなどの対策が取られていますが、手間やコストがかかることから、一部の公演にとどまっています。
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【法律適用の条件は】
この法律が適用されるチケットには、いくつかの条件があります。
▽場所や日時が明記されていること
▽同意のない有償での譲渡を禁じているという趣旨の記載があること
▽販売時に氏名や連絡先を確認する措置が講じられていること、などです。
紙のチケットだけでなく、QRコードのような電子チケットも対象になります。
一方で、「興行」にあたらない人気列車の乗車券や、日時の指定のない遊園地の入場券などは対象となりません。
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買ったチケットが法律の対象になるのかどうか、見分けにくいかもしれません。これについては、音楽団体などが、法律の対象となるチケットに「特定チケット」という新たな表示をつける取り組みを進めています。条件を満たしたチケットにいわばお墨付きを与えることで、不正な転売を思いとどまらせ、抑止につなげるのがねらいです。
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こうした条件を満たしたチケットを、次の2つの要素を満たす形で転売すると、違法な不正転売と見なされます。
▽もとの価格を超える額で転売すること
▽主催者の事前の同意を得ずに「業として」行うこと
「業として」というのは、反復継続する意思をもって行うという意味です。商売目的ではなくても、定価を超える転売を何度も繰り返した場合には、処罰の対象となりえます。
もしコンサートなどに行けなくなって個人的にチケットを売りたい場合、定価を超えなければ今回の法律でいう「不正転売」にはあたらず、違法ではなりません。一方で、定価を超えて売ることを繰り返すと、「業」に当たると見なされて処罰の対象となる可能性があります。
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【買う側の注意点は】
今回の法律で、不正転売を目的にしてチケットを買うことが禁止されましたが、それ以外にも、チケットの転売をめぐっては多くのトラブルが報告されています。
国民生活センターによりますと、全国の消費生活センターには、インターネットを通じたチケット転売に関するさまざまな相談が寄せられています。相談件数は、昨年度は2067件と、前の年度の2点5倍近くに達しています。具体的には、サーカスのチケットを公式サイトで買おうとしたら、実は海外の転売サイトで、正規の料金より高額で買わされたとか、インターネットの掲示板で演劇のチケットを購入したらファミリーレストランのクーポン券が送られてきたといったケースが報告されているということです。
また、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックは、公式のルート以外で買ったチケットは無効となります。
今回の法律によって不正転売に一定の歯止めがかかることが期待されますが、法律に触れるかどうかにかかわらず、チケットを売り買いするときには、転売によって無効にならないかどうかなど、利用条件をしっかりと確認することが大切です。
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(髙橋 俊雄 解説委員)


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