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「申込金が返ってくる! 集団訴訟制度で新たな成果」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

きょうは、2016年に始まった集団訴訟制度の新たな成果について、今井解説委員。

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【改めて、どのような制度ですか?】
簡単に言うと、消費者が受けた被害について、その人たちに代わって、国から特別の認定を受けた消費者団体(今は、3つ)が、事業者を訴え、おカネを取り戻してくれる」制度です。始まって、2年半。先月、裁判外ではありますが、新たな成果が公表されました。

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【どのようなケースですか?】
賃貸アパートの建築契約をめぐるケースです。例えば、親から家を相続したけれど、住む予定がない。こどもが独立して、家が広すぎて困っている。という方いますよね。2015年に相続税が増税されたことをきっかけに、事業者が、そうした家を訪ねて
▼ おカネを借りてアパートを建てると、相続税の計算上、負担が減りますよ。
▼ 家をアパートに建て替えて、その一部を自宅にすれば、毎月、収入が入って、年金の足しになりますよ。
と、勧誘する動きが活発になり、トラブルも増えているのです。
今回問題になったのは、そのうち、業界大手の「大東建託」をめぐるものです。

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【どのようなトラブルですか?】
「勧誘されて、申し込みをした後、本契約をする前に撤回したのに、申込金が返ってこない」といったトラブルが相次ぎました。注文書に、申込金は、返金請求できないという内容が書かれていたのです。建物の規模によって、30万円、あるいは、70万円という金額になります。

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【かなりの額ですね】
そうですね。これについて、消費者機構日本という消費者団体が、「申込金を一切返さないという」趣旨の条項は、消費者契約法という法律に違反する不当なものだとして、
▼ 注文書を是正すること。
▼ そして、過去にさかのぼって、おカネを返すことを求めたのです。
その結果、先月末までに、会社側から、アパートを建てる家主は、本来、「消費者」ではなく、「事業者」なので、消費者契約法違反にはあたらないと考えている。としながらも、総合的に判断した結果、自主的に注文書を是正し、返金にも応じるという回答が、寄せられたということです。見解の違いはありますが、裁判になって、イメージダウンにつながることを避けたいという考えがあったとみられます。

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【ありがたいことですね】
会社側の対応は、評価したいと思います。ただ、注意が必要で、
▼ 2016年10月1日以降に申し込みをして、撤回した、400人あまりには、会社側から連絡があり、すでに返金が始まっています。
▼ 一方、それより前に申し込みをして、撤回した人については、消費者側から連絡をしないといけません。今年の9月30日までに、問い合わせ窓口に連絡をとってください。

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【なぜ、2016年10月1日を境に対応が分かれているのですか?】
この日が、集団訴訟の制度が始まった日だからです。その後の分については、裁判を起こすことができる一方、その前の分については、裁判を起こすことができません。それが、結果的に、対応に差がでることになった形です。

【裁判を起こせるということが、大きな力になっているのですね】
そうですね。ほかにも、
▼ 運動や食事制限もしないで、飲むだけで、やせられるかのように宣伝していた健康食品をめぐって、ウソの表示で買わせたのは、消費者契約法違反だとして、大阪の消費者団体が、事業者に、購入した人全員に代金を返すよう、申し入れをしました。その結果、これまでに、少なくとも12社から、1万6千人あまりに、おカネが返されたことが確認できたという成果もでています。このように、裁判になる前に解決する成果が少しずつでてきています。

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【裁判になった事例はないのですか?】
2つ起きています。
▼ 初めての提訴は、去年の冬。東京医科大学の不正入試をめぐって、2017年度と、2018年度に不合格となった女性や三浪以上、といった受験生に受験料や交通費を返すよう、消費者団体が大学側を訴えました。対象となる不合格者は、女性だけでも2800人を超えるとみられています。
▼ 2つ目は、今年の4月。いわゆる仮想通貨に関するDVDについて。10万円から60万円するのですが、これを買えば誰でも確実に儲かるという内容の表示や説明で販売していた事業者と勧誘した男性に対して、消費者団体が、不当な勧誘だとして、購入した人に代金を返すよう求めて訴えを起こしています。

【まだ、裁判中ですね】
そうです。東京医科大学は、「ひとりひとり、事情が違う」などとして、全面的に争う姿勢です。もう1つは、対応を明らかにしていません。いずれにしても、どういう判決になるのか、注目していきたいと思います。

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これまでは、こうしたケースでは、そんなものだと思って諦めたり、泣き寝入りしたりしていた人が圧倒的に多いと思います。それを、この制度では、消費者団体が、事業者と交渉したり、裁判を起こしたりしてくれる。消費者とすると、弁護士を探す必要がないし、自ら裁判を起こすより費用も安い。裁判前だと、そもそも費用はかかりません。あきらめていても、事業者や消費者団体から、おカネが返ってくると連絡がくることもあります。ありがたい制度です。でも、大きな課題も浮かび上がっています。

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【なんでしょうか?】
活動資金の問題です。今、この制度で訴訟を起こすことができる消費者団体は、先ほども述べたように、3つありますが、活動を支えている弁護士や大学の先生などは、ほとんどが手弁当。ボランティアで制度を支えています。調査や申し入れの費用は持ち出しですし、裁判の費用も、自治体からの借金でまかなっています。消費者団体は、裁判で勝った場合に、一定の報酬が入る仕組みです。が、裁判の前に解決すると、消費者にはありがたいのですが、消費者団体の側には、調査や申し入れにかかった費用も入ってこないことになります。いつまでも、続けられないという悲鳴も上がっています。そのことが、認定を受ける団体が増えていかない要因にもなっています。

【それは困ります。いい方法はないのでしょうか】
こうした活動を社会で支えようと、おととし「スマイル基金」という基金が発足して、一般の人や企業から寄付を募っています。活動を支えたいという方は、こちらが窓口になります。ただ、現実には、なかなか、寄付は集まらないといいます。
こうした消費者団体は、ある意味、行政に代わって、消費者のおカネを取り戻している面があります。本来は、国が財政的にきちんと支えることを考えてほしい。例えば、ウソの広告や宣伝をしていた事業者に対して、国が課徴金を課す制度があるのですが、その制度の中で、一部を事業者から、国ではなく、こうした基金に渡せる仕組みがつくれないかという案も、消費者問題の専門家からは出ています。ぜひ、検討してほしいと思います。

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【一方、被害にあった方はどうしたらいいですか?】
まずは、身近な消費生活センターに相談をしてください。全国共通で「188」に電話をすれば導いてくれる仕組みになっています。
その上で、制度ができた後のケースの場合、この3つの消費者団体のいずれかに、情報の提供をしていたければ、すぐにではなくても、自分を含め多く人におカネが戻ってくる可能性がでてきます。

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泣き寝入りをせずに、とにかく相談をすることが大事だと思います。


(今井 純子 解説委員)

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